【キャラ1】キャラクター表現で資源が得られる?

文字数 2,010文字

「キャラクター発言を強要された」とか、「他のプレイヤーがロールプレイをしてくれない」とか、キャラクターの表現にあたって嫌な思いをする人が少なくないのは、なぜなんでしょうか。
身も蓋もない言い方をすれば「趣味の不一致」だけど、それで終わらせることにあまり益はないわね。もうちょっと役に立つ知見を得たい。せめて、「キャラクター表現に対する自分の趣味はどのような形か」「どの要素が他人と不一致なのか」を考えられるヒントが欲しいところね。
そのためには何をしたら?
具体例があったほうが考えやすそうね。久恵里ちゃんお願い。
はい。えーと……

私のキャラクターは監察医なので死体を見てもショックを受けません」みたいな表現をするプレイヤーに対して不満を表すゲームマスターが時々います。

ふむ……どうやら「キャラクター表現の資源化」対「公平性」の対立であるようね。
公平性はわかりますけど、キャラクター表現の資源化ってなんですか?
資源をカタカナ語でリソースと呼んだらピンと来る人が多いかもね。

ただ、これは突き詰めていくと「ゲームとは何か」という問いに関わってくるので、注意が必要よ。

そういえばあんまり考えたことがなかったんですが、ゲームって何なんでしょう?
ここで残念なお知らせです。哲学者のウィトゲンシュタインが遺した論文をまとめた「哲学探究」という本があるんだけど、その中で彼は家族的類似ということを述べているの。

かいつまみまくって言うと、世の中でゲームと呼ばれている色々な物事を見比べてみたけど、ゲームとゲームでないものを明確に区別できる基準なんてなかった、という話。

(注:ウィトゲンシュタインの議論は、「それでも人は何かをゲームらしい又はゲームらしくないと感じることができる。なぜだろう?」というところに進むわけですが、本稿では取り扱いません)

えっ、それじゃあ、「ゲームとは何か」という問いに答えられないってことですか!?
「ゲームとは何か」という問いに、「ゲームとはこういうものだ」という全時代全世界共通の仕様書を探すことで答えようとしたら、答えられないってこと。これは、以前別のところで話題にした本質主義とも関わってくるね。
本質主義の反対には……構築主義があるんでしたね。人々の視点が変わることで、「とはこういうものだ」も変わるんでした。
だから、「ゲームとは何か」という問いに対して、「ゲームとは何かを考える上でこういう視点がとれる」という答え方はできる。そうして、その視点をどれだけ役立てられるかを考えていこうと思うの。
「役立てる」というのも、以前別のところで話題になりましたね。プラグマティズムでしたっけ。
これでやっと一段階突破。「ゲームとは何か」という問いに、まがりなりにも答えられるようになった。で、ここから先では、ゲームには「資源を使って課題を解決する」という仕組みがあるということに注目していくことにする。

例えばチェスなら、資源は自分のポーンやナイトなど。これらを使って、相手のキングをチェックメイトにすることが課題ね。

「ゲームとは、資源を使って課題を解決することだ」と言い切れないんでしょうか?
「資源を使って課題を解決する」のはゲームの専売特許じゃなくて、政治とかビジネスとかにも言えることだからね。ゲームとゲーム以外を分ける基準ではないのよ。
なるほど。でもゲームをそうした視点で捉えることはできるというお話ですね。
そういうこと。で、このままチェスの例で進めるけど、もし対局中にどちらかのプレイヤーが、

私のルークは魔術師マーリンの魔法でつくられた特別なルークなので、斜めにも動けます

と言い出して、自分のルークを斜めに動かし始めたら、どうなるかしら。

それはアンフェアですし、対戦相手も怒るでしょう。
そうアンフェア。公平性が脅かされるということね。勝手に資源を増やしているわけだから。逆向きに考えると、勝手に課題の難度を減らされている、とも言える。
「勝手に」という言葉が出てきましたが、「勝手ではない」場合はあるんでしょうか。
プレイヤー同士が合意の上で、資源や課題にハンディキャップを設けることはあるからね。このとき、そのプレイヤー同士の間では、公平性は保たれているでしょう。
なるほど。

では、TRPGでも、合意の上で資源や課題にハンディキャップを設ければいいのであって、そうではなく勝手に資源や課題を変えようとするからトラブルになる、ということですね。

でも、ここまでシンプルな答えが出せるなら、はじめからトラブルにならない気がするのよ。何かもっと考えなきゃいけない気がする。
チェスだったら、課題は「相手のキングをチェックメイトにする」でよさそうですけど、TRPGの課題はそんなにシンプルではないのでは?
むむ……そういうことか……。
TRPGで取り組む課題について考えてみたいです。
そうね。次回はそのあたりをやっていきましょう。
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登場人物紹介

久恵里(くえり)

主に質問する側

せんせい(先生)

主に答える側

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