第58話 たった一人に好かれる難しさ ~圧力外の繋がり~ Bパート

文字数 4,348文字


「で。もう一つの当てにならない噂、雪野の事聞いて良いですか?」
 三人とも注文のパフェ、ケーキセットを食べ終えたところで本題に入る。
 話が直接に関係するから初めに
「どういういきさつでも、これは初めに統括会からの非礼で始まった事だから、中条さんは気にしなくて良いからね」
 前置きだけをしてゆっくりと口を開く。
「中条さんも蒼ちゃんも話をしていたから、ある程度いきさつは知っているとは思うけれど、雪野さんは中条さんと揉めたのもそうだけれど、服装チェックや部活禁止期間についても色々あったの。ただ今回は二年全体に広がっただけでなくて、三年の一部にも広がっていて、統括会についてよく思わない人が増えてきてる。だから一年にまで広がっていると思って間違いないって私は、思ってる。
 そしてこのままだと統括会自体が立ち入らなくなって、それはマズイって話になって雪野さんに優希君を付けて、トラブルが起こりそうになった時に、すぐにフォローに入ってもらおうって話になってるの」
「それって会長や、彩風さんじゃ駄目なんですか?」
 中条さんの質問ももっともではあるけれど
「二年では倉本君と雪野さんが協力関係? にあるって噂が流れてるって彩風さんから聞いてるけれど。それに彩風さんと雪野さんも仲が悪そうにはしてるし」
 実際思い当たる節がやっぱりあるのか、言葉が返ってくる気配がない。
「愛ちゃんと議長さんじゃ駄目なの?」
 それを私も提案したかったのだけれど
「雪野さんが優希君が良いって指名したから。その間に二年の噂が消えるまで彩風さんのフォローを私と倉本君でする事になったから」
 雪野さんに弾かれる形になってしまった。
「じゃあ愛ちゃん、二年の所に行かないといけないんじゃ」
 本来なら全くその通りなんだけれど、
「同じ二年の中条さんなら分かると思うけれど、彩風さんには雪野さんに関する噂が回ってくる方であって非難を浴びるとか、フォローが必要な状態にもなっていないから、逆に今はそっとして置いた方が良いんじゃないかって話にはなってるよ」
“まだ”くっついていない二人の事を周りが引っ掻き回すもんじゃない。
 口上では苦しくても、彩風さんの気持ちは伏せられたかなって思う。
「それってどう考えてもあーし達のせいでもうすぐ受験なのに先輩方が振り回されてるって事じゃないですか」
「私たちは体育会系でも部活でもないから、そう言う先輩後輩みたいなのは気にしてないよ」
 少し前にも同じような事を言った気がする。
「でもそれだと今回の出来事の本人が、意中の人な空木君の近くにいれるって事?」
 そして彩風さんと同じ意見に蒼ちゃんがたどり着く。
「それはおかしいと思います。今の雪野を見て仮に統括会の人が雪野を見切ったとしても、誰一人として責めませんよ」
 中条さんが間違いなく私たちの事を思って言ってくれているのは分かるけれど、逆に言うとそれすらも倉本君の読み通りな訳で、本人の自覚はともかくとして雪野さんの回りの環境が厳しいと言うのはもう確実だ。
「そうだとしても雪野さんも統括会である前に、この学校の生徒だから雪野さんも過ごし易い様にフォローするだけだよ」
          ――雪野には空木が必要なんだと思う――
 だからって倉本君の言う事に納得なんて出来る訳がない。
「あの。ここまで話してもらって申し訳ないんですけど、統括会の姿勢や考え方は理解できますが、あーしはそんな理由で自分の彼氏が、自分勝手な雪野なんかとイチャつくなんて全く納得出来ないんですけど」
 もちろんそう言ってくれるのは私は、とても嬉しいけれど、メンバー交代の話は伏せている。
 もっとも今の中条さんの雰囲気なら交代の方に賛成しそうな勢いではあるけれど。
「だいたい周りのみんなが雪野の事考えて動いてんのに、何一人勘違いして人の彼氏に手を出してんの?」
 それでも私の気持ちをそのままなぞったかのような気持ちを口にしてくれる。
「決めた! あーしは愛先輩を応援する、頭が良いに越した事は無いですけど、頭が良いだけで空気を読めずに人の好意に付け込む雪野なんて最低だっての」
 中条さんの言葉を最後に、そろそろいい時間だったから喫茶店を後にして帰路に就く。


 蒼ちゃんとの帰り道の途中
「やっぱり放課後にお友達とおしゃべりして帰るのって楽しいね」
 蒼ちゃんの目に涙が浮かんでいる。
 あの咲夜さんたちとお昼にしても、一緒にお弁当を食べていた事が懐かしくなるくらい、蒼ちゃんは喋って無いと思う。
 どうして中条さんみたいに冷静に考えてくれないのか、考えの押しつけは出来ない
 けれど、私の親友を傷つけては欲しくない。
「蒼ちゃん。やっぱり戸塚君と別れよう。三年はともかく二年はだいぶ違う印象を持ってるみたいだし」
 元はと言えば戸塚君が蒼ちゃんを自分の物のような扱いをしたのが始まりなのだ。
「でも前は断っただけで色々言われたのに、別れたら何を言われて、何されるか分からないよ」
 私の知らない所でもたまに嫌がらせを受ける事があると言う蒼ちゃん。
 例のグループは最近私の方にもちょっかいをかけてくる。
 ひょっとしたら男子に好かれる女子を僻んでいるだけなのかもしれない。
「でもやっぱり全員が戸塚君の事を良く思っているわけじゃないって事は分かったよね」
 ホント誰でも良いから男子に好かれたいって言う女子の気持ちが分かんない。
 いつかの咲夜さんも言ってたっけ
 ――将来有望の戸塚君に告白されたら、あたしならすぐにOK出すけどなぁ――
「でもスポーツ系の部活をしている女子は、戸塚君の事を気にしている人多いから」
 だから文科系の蒼ちゃんは下手な事は出来ないって言う。
 さっき中条さんも言ってたけれど、浮気を平気でする人、自分を大切にしてくれない人なんていくら将来有望だからって私はやっぱりなびかないし、惹かれる自分を想像出来ない。
「私は将来有望じゃなくても良いから、私を大切にしてくれる人、私

好きになった人、たった一人で良いから好きになって欲しいよ」
 好きでもないメガネ男子に好かれても嬉しくは無いし、それが原因で好きな人に勘違いされたら、それこそ本当に泣くに泣けない。
「やっぱり愛ちゃんの乙女力はすごいよ。蒼依なら蒼依にすごく優しくしてくれる人なら、蒼依の方から好きになっちゃうよ」
 話だけ聞いてたら蒼ちゃんの方がずっと乙女な気がする。
 恋愛の難しさを語りながら歩いていたらいつもの交差点まで来ていたから
「じゃあ、また明日だね」
 お互いに挨拶をして別れた。


 いつも通り慶の分の夜ご飯も作って一通りの事を済ませてから自室にこもって咲夜さんに放課後の事を聞こうと電話をする。
『今、大丈夫?』
 数コールを待たずに繋がった咲夜さんの都合を確認すると、
『うん大丈夫』
 問題なさそうだったから早速本題に入る。
『じゃあ、あの放課後は何だったの?』
『何もどうも、愛美さん放っておいたら手、出しそうだったから』
 まあ実際やるなら徹底的に話そうとは思っていたけれど
『何かそれだと咲夜さんに不都合でもあるの?』
 それにしてはお願いとか目的とか違和感のある言葉が浮き彫りになって並ぶ。
『――っ?!』
 私の質問に電話口で息を呑む咲夜さん
『何を企んでるにしても蒼ちゃんに傷つけるような事を言ったら、実祝さんの時みたいに私怒るからね』
 私から実祝さんの名前を出したからか
『ねえお願い。夕摘さんを助けてよ。あたしじゃどうしたら良いのか分からないよ』
 あの不評を買っている教え方の話なのか、咲夜さんの声が震え始める。
 咲夜さんがそこまで実祝さんの事に必死になってくれるのは嬉しいけれど
『先に私の質問に答えてよ咲夜さん。喧嘩を止めたかったのは分かるけれどお願いしてまで私に席を外して欲しかったのは何で? そこに目的ってあるの?』
 最近の煮え切らない咲夜さんの行動、嫌な予感が広がる。
『蒼ちゃんが朝、咲夜さんと言葉を交わさなかった事も何か関係があるの?』
 口を割らないって事は何かがあるのはもう確実っぽい。
『咲夜さん。一つだけ聞かせて。また何か蒼ちゃんに何かしようとしているの?』
『違う』
『分かった。じゃあ

関する事だね』
 今までの咲夜さんからして実祝さんはどうにかして欲しい。だから何かをする対象にはならない。
 次に蒼ちゃん。蒼ちゃんに手を出したら私が本気で怒る事は咲夜さんは知ってる。それに今朝の態度から言っても蒼ちゃんが対象とは考えにくい。
 だったら交友関係の狭い私の回りには対象者はもういない。
 だったら当の本人である私に席を外して欲しかった事にも辻褄は合う。
『……』
 沈黙が肯定だった。
『分かった。蒼ちゃんにも実祝さんにも手を出さないなら何も言わなくて良いよ』
 だったら“また”私が悪者になれば良いだけの事だ。
『夕摘さんの事気にしてくれるの?』
 咲夜さんが嬉しそうに聞いてくるのに、私の気持ちが少しだけ晴れる。
『前にも言ったけれど、これは私と実祝さんの喧嘩だから、周りを巻き込む気も、誰かを介入させる気も無いよ』
 私は間違っても集団圧力をかける気も同調圧力を作る気はない。
『愛美さん。あたしは――』
『咲夜さん。その先の言葉を私は、今。聞いて

。明日も学校だしもう寝よう』
『……っ――』
 やっぱり咲夜さんは私の事を厳しいって言うのかな。
 咲夜さんの鼻をすする音が耳に届く。
 私に遮られた咲夜さんが何かを言いたそうな雰囲気を出していた気がするけれど、結局何も言わずに電話を切ってしまった。
 咲夜さんの言いたかったことは何となくわかる。
 多分だけれど、私にしようとしている事を伝えた上で、先に許して欲しかったのだと思う。人付き合いの広い咲夜さん、私には分からない葛藤やプレッシャーがあるんだと思う。
 煮え切らない最近の咲夜さんの態度、行動が迷いを如実に表している。
 だから私からは一切圧力は加えないし何も言わない。
 蒼ちゃんと実祝さんに手を出さないのなら、私は咲夜さんを信じて待つだけだ。
 この事は何となくだけでも蒼ちゃんに伝えた方が良い気がする。

―――――――――――――――――次回予告―――――――――――――――――
           「それが本当なら後輩女子、大胆」
             後輩女子とは誰の事なのか
      「やっぱり二年でも優希君と雪野さん噂になってる?」
               広がり続ける噂
           「愛ちゃん。夕摘さんは?」 
    気付けば蒼ちゃんもまた実祝さんとの仲を取り持とうとしている

          「お兄さんにも幸せになって貰わんとな」

            59話 すれ違い~想いの交錯~
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