第49話 女心と秋の空 ~チーム・彼女~ Bパート

文字数 4,542文字


 昼休み蒼ちゃんと一緒にお昼をしようとしたのだけれど、休憩時間の時に蒼ちゃんから昼休みは戸塚君の所に行くって申し訳なさそうに断って来た。
 私としては親友が楽しく幸せな時間を過ごせるなら、それでも良いと思うのだけれど、昼休みの中の教室。少し不安を煽るざわめきが広がる。
 例の蒼ちゃんの噂が広がっているのかもしれない。
 今の教室の雰囲気が嫌だった私は、一抹の不安を持ったままそれならばと思い切って優希君の教室へお昼を誘いに足を向ける。

 優希君のクラスの前で一度深呼吸をしてから教室をのぞくと、優希君が一人で可愛い包みのお弁当箱を広げようとしている所だった。
「岡本さん? 誰かに用事?」
クラスの出入り口付近にいた男子生徒が声を掛けてくれたから
「ちょっと副会長に用事があって」
とっさに嘘をついて呼んでもらう……一緒にお昼って言うのは用事に入らなくは……無いかな。
「また空木か! 何か昨日も後輩の女子が来てたな。あいつもどんだけモテるんだっての」
口ではそう言いながら優希君を呼んでくれる。
でもそうか、昨日は雪野さんが来てたのか。昨日中庭で一緒に歩いている所を見ているから、当たり前と言えば当たり前なんだけれど無性に面白くない。
「ごめん。お待たせ。何かあった?」
やっぱり優希君も教室内では恥ずかしいのか、私の手を引いて廊下の窓際へと移動する。
「いや。お昼一緒にどうかなと思って」
よく考えたらお昼を一緒するためだけに優希君を誘いに来たって言うのはかなり恥ずかしい。いくら彼女になれたからと言って、これは大胆過ぎたかもしれない。
 ある意味雪野さんを尊敬する。
私の誘いに対して優希君が自分の服に鼻を当てて、少し笑いながら
「今日は何も匂いがしないから?」
私をからかってくる。
「それじゃ、私が雪野さんを意識しているみたいじゃない」
「……違ったかな?」
違わないから困る。
「優希君のいけず」
そう言って私の手を掴んでくれていた優希君の手をはたく。
「ごめんごめん。ちょっと準備してくるから待ってて」
そう言って教室のお弁当と水筒を手に戻って来てくれたところで、二人とも示し合わせたわけでもなくそれでも自然とあの日、私の頬の事を気にしてくれて、サンドイッチを持ってきてくれたあのベンチに足を向けた。

 いざ二人きりのお昼ってなると、色々あったはずの聞きたい事が中々言葉にならない。
「今日は友達は大丈夫だった?」
そんな中また私を見かねたのか、優希君がいつもの気遣いで私に声を掛けてくれる。
「うん。いつも私のワガママを聞いてくれてありがとう」
可愛いお弁当の包みを気にしながら答える。
だいたいの彼氏持ちの友達は、彼氏を優先させるか彼氏に合わせるって言う子が多いのだけれど私は親友を優先させてもらってる。だからお付き合いを始めてからこっち、優希君と二人でのお昼は初めてだったりする……優希君の初めてが雪野さんだったのはとても面白くないけれど。
 もちろん私も優希君との二人だけの時間を少しでも多く共有したいのだけれど、今親友がしんどいのなら親友の支えに少しでもなれたらなって思ってる。
「僕は愛美さんのそう言う他人を自然に気遣える所は好きだよ」
優希君が可愛いお弁当の包みを綺麗に畳んで、胸ポケットに入れてしまうのを見て何となく察しがついてしまう。
「私、優希君の彼女になれてホントに良かったよ。ありがとう」
私は心に折り合いをつけて、けっこう恥ずかしかったけれど自分の素直な気持ちを優希君に伝えた所で
「え?」
思わず声に出してしまう。
当然その声は隣に座っている優希君にも聞こえてしまうわけで
「この弁当を見たらみんな驚いてるよ」
そりゃ驚くに決まってる。だっておそらくは優希君の妹さんが作ったであろうお弁当はなんて言うか華やか。もちろん私だって彩りは考えてる。でも優希君のお弁当、妹さんの作ったお弁当は本当に華やか。
本当に食べる人が楽しんで食べられるように工夫されてる。
料理は人並みには出来るつもりだったけれど、そのお弁当を見てしまうとちょっと太刀打ちできる気がしない。妹さんって料理も上手なんだ…… 
そんな私を見て優希君が私に微笑みかけるけれど何かな。私また何かやらかしてる?
「本当は愛美さんといる時に他の女の子の名前を出すのは、愛美さんに嫌われそうで嫌なんだけど、雪野さんと反応が全然違うからで、愛美さん自身が何かをしたとかじゃないよ」
私の気持ちを察して理由を話してくれる……けれど、なんでそんなに私の事が簡単に分かるのかな。それにしても、やっぱりここでも雪野さんなのか。
優希君に他意は無いって分かってはいても、オンナゴコロってどうにもなんない。
いつも一緒にいるんじゃないかって言う錯覚を起こすほどよく名前の挙がる雪野さんと本来関係の無いはずのそのお弁当にまで、私の心のモヤモヤが広がる。
「ちなみに雪野さんはどうだったの」
だけど感情とは反対に、どうしても雪野さんの事が気になってしまう。
「雪野さんは『ワタシも頑張って作って来たんですよ良かったらワタシの分も食べてみて下さい』だったかな?」
さすがは雪野さん。押しの強さはさすがだと思う。
「それで食べたの?」
「ううん。食べてないよ」 
以前のお菓子の事やお弁当の事もあったはずなのに、今回の優希君の即答に胸を撫で下ろす。
やっぱり彼女って言う立ち位置になったら、余計に他の女の子が作った食べ物なんて口にして欲しくないに決まってる。
「愛美さんは弁当食べないの?」
優希君が妹さんの作ったであろうお弁当を美味しそうに口にする。
「食べるけれど、笑わないでね。絶対妹さんが作ったお弁当より見劣りするから」
私の言葉にまた驚いた表情をする優希君。
「これ、優珠が作ったってよく分かったね?」
そりゃ分かるよ。私がどれほど優希君の事が好きで、優希君の事を見ているのか貴方は知らないでしょう?
「優希君。妹さんの事となると私には見せない表情にもなるし、妹さんが絡むと、どんなささいな事でもすごく丁寧になってるんだよ」
私だって優希君の事もっと知りたいって心から思ってるんだからね。
だから私よりも優希君の事を知っている、妹さん相手にも私は嫉妬してるんだよ。
オンナゴコロって男子が思ってる以上に嫉妬深いんだから。
「僕も本当に愛美さんには隠し事できなくなりそう」
そう言う割には優希君。とっても嬉しそうだね。
「私だって優希君に隠し事させてもらってないんだからお互い様だって」
私の言葉に嬉しそうに苦笑いを返した優希君と一緒に、少し恥ずかしかったけれど
妹さんにも負けたくない一心で絶対にそのお弁当よりも美味しそうなものを作ると
心に決めて、お弁当を平らげる。
 そして、優希君のお弁当がとても華やかで食べる人の気持ちを本当によく考えて作ってあるって事と妹さんだけに見せる表情、所作の事など新たな優希君の一面を見つけられた事に喜びを噛みしめながら
「じゃあ明日の統括会の時に」
「うん。明日楽しみにしてるね」
午後の授業の為に教室へと戻る。
 一緒だとまだ恥ずかしいからお互い別々に。


 そして午後の授業も終わった終礼の時、特に何の用事も無いのに担任の先生がこっちをチラチラと意識して見てくるから、例のメンバーの子らに気付かれてしまう。
私は例のメンバーがまた何かを言い出す前に、終礼が終わった時点で
「先生。私に何か用事があるんですか?」
廊下へ出た先生を捕まえる。
「いや、特に用事と言うほどの事でもないんだが、あの日の話をもう一回聞かせて貰えたらと思ってな」
もう一度って……先生の方からあしらって聞いてくれなかったくせに……
「もうその件は、保健室の先生に相談に乗って頂くので大丈夫です」
気落ちした先生の視線が下がる。
でも私だってあの日勇気を出して先生に相談しに行ったのに、今更だよ。
「それと教室内で用事も無いのにこっちをチラチラ見るのはやめて下さい。クラスで噂されます」
例のグループや咲夜さんの事もあるから釘を刺させてもらう。
「噂ってなんだ? この前言ってたイジメの話か?」
何でこんな衆目の前で簡単に人の相談を言えるのか。
それになんだか色んな話がごっちゃになっている気もするし。
「どうして私が先生に相談したことを、誰に聞かれるかも分からない廊下で言うんですか?」
私は悔しさでまぶたが揺れる。
これじゃ先生なんて信用できるわけがない。
先生が自分の軽はずみな発言に気が付いたのか、慌てる。
「いや悪かった。これは先生が軽率過ぎた」
「軽率って……私の話なんか前と一緒であしらう程度の物だって考えてるからなんですよね?」
だから助けて欲しい人のSOSがなかなか拾ってもらえない。
言う方は、相談する側は本当に勇気が必要なのに。
何で大人っていっつも理解してくれないんだろう。自分が順風満帆に行ったからみんなそうだって勝手に思ってしまうのだろうか。
「……そんな事は無いんだ」
そう言って先生の視線がまた下がり、私の胸の辺りに視線を感じる。
だから私は先生の視線から胸を隠すために、腕を組み先生を睨みつける。
「っ?! ち! 違うんだ! これも誤解だ!」
もう先生の言い訳を聞くのも3回目か4回目か……
「先生からそれを聞くのにも聞き飽きました」
結局男の人って、女の人をそう言う目でしか見てないって事なんだ。
しかも担任の先生が、生徒にって……
「さっきも言いましたけれど、もう蒼依の事は保健の先生に相談します……先生の事、色んな相談に乗ってもらえる良い先生だって頼りにしてたのに……」
そして思わず出た先生への本音にいたたまれなくなった私は、先生から胸を隠すように腕を組んだまま教室へと戻る。

 私と先生のやり取りを遠目で見ていたのか、例のグループはこっちを見てニヤつき、実祝さんは何の感情か分からない表情をして、咲夜さんは驚きと呆れの混じった表情をしていたから、一番ロクでもない事を考えていそうな例のグループの子らに話をしようと足を向けたところに
「夕摘さんの賢い自慢は良いからもっと分かり易く言ってよ」
「そうだよ。なんでもっと分かり易く言ってくれないの?」
「私たちの質問に答えてくれないでどこ見てんの?」
実祝さんに教えてもらっていたらしき女生徒から不満の声が一斉に上がる。
さすがに聞いていられなくなった私が、向かう歩先を変えたところで
「愛美さん、ちょ――『岡本先輩!』――」
咲夜さんの言葉を本来この場にいないはずの彩風さんの声が遮る。
「今すぐ2年の所にアタシと一緒に来てください! お願いします!」
彩風さんの少し赤くなった目が私をすがるように見ていた。


――――――――――――――――――――次回予告―――――――――――――――――――
        「なんでってワタシが統括会の人間だからです!」
           駆け付けた時には事態は動いていて
       「今回はこっちに非があったから。ごめんなさい」
             事態収拾のために頭を下げる
          「順番……順番……? あ! そうか」
               それは何の話なのか

      「ワタシは霧ちゃんよりも空木先輩と今は一緒にいたい」

          50話 善意の第三者 1 ~亀裂~
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