第6話 ほろ酔い巫女は珍しい

文字数 1,484文字

さて、あなたと霊夢さんは、お風呂に入ることにしました。

あなたは、霊夢さんの後に入ることになりました。
理由は特にありません。まあ、『あなた』にはあるかもしれませんが。

「うっは、広い……」

神社にあるお風呂、というより温泉はなかなか豪華でした。
五人いっぺんに入っても余裕がありそうな檜風呂、味がある床石、どんな仕組みで灯っているのかわからない暖色の照明が、辺りを薄明るく照らしています。

源泉は、塩化物泉だと霊夢さんが言っていました。
食塩の働きで、体がよく温まり、疲労回復、冷え性、その他多くの効能があります。

「万人の泉、赤ん坊からご老人まで入れる温泉ですね…」

あなたは、備え付けてある金木犀芳る石鹸で体を洗い、温泉のお湯で身を清め、温泉に入ります。

じんわりと、体に温度が伝わっていく感覚が、とても心地よいです。

「っ〜〜、はぁぁぁぁぁぁ…………」

たっぷりと夜の空気を肺に入れて、天を仰ぎます。
星空が、綺麗です。

「極楽はここにあったのか……大人になったら絶対にここでお酒飲む…………」

そうして、あなたはゆっくりと独りの時間を楽しむのでした。



「あら、やっと上がってきた。」

あなたは部屋に戻ると、霊夢さんにそう言われました。

「いやぁ、いいお湯でした……。で、霊夢さん、それは」

「酒に決まってるじゃない。」

「ですよねー……」

えーー……、という顔をするあなたに、すでに回っている霊夢さんが、顔をムッとさせながら言います。

「何よ。幻想郷は未成年なんていう概念はないわよ?」

「いや、まあ、何も突っ込みませんけど……それより、この寝巻き、貸してもらっていいんです?」

あなたは、『酔っ払いは不機嫌にするべからず』という心得を知っています。

「いいわよ、それくらい。まああなたのサイズのは、私のやつしかなかったのだけれどね。」

「…ちょっと待ってください、これ霊夢さんのなんです?!」

「ここにあるものは全部私の物よ?」

「客人用のものも霊夢さんの物には変わりないですけど、違いますそうじゃないですそういう問題じゃ」

「洗ってあるからいいじゃないの。それよりも、ほら」

そう言って、霊夢さんは酒瓶をあなたに突き付けます。

「あんたも飲みなさい。」

「い、いやそれは」

「なぁに〜?泊めてもらっている家の主人からのお酒が、そんなに嫌なのかしらぁ?」

「そん、……ずるっ!」

霊夢さんは、可憐なその顔で不敵な笑みを作ります。可愛いです。
あなたは不覚にも、ドキッ、としてしまいます。

「ここは幻想郷よ?飲まなくてどうするのよ。それに、このお酒結構いいやつなんだからね?」

そう言って酒瓶をあなたに渡してきます。

「そんなに……って、光明?…精米変態さんの光明ですか?!こんな、ワイングラスで楽しむような高級酒……どうしてこんなの開けちゃったんですか?」

ぽえーっとした顔の霊夢さんは、はて、と首を傾げて、

「気分がいいから?」

そう言いました。

(oh,my god.......)

「まぁ、霊夢さんがそれでいいなら、僕は何も言えることはないですが……。一本十万の一品が……」

「うん、ほら、そんなに落ち込んでないで、あんたも飲みなさいよ!よくわからないけど、美味しいことには違いないもの!」

霊夢さんは、アルコールで赤らめた頬を緩めます。

「そうですね。もう色々諦めます……」

こうして、あなたはほろ酔いの巫女さんと、初めての飲酒を経験することになるのでした。
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