第21話 本当の気持ち

文字数 1,920文字

 あなたは、ガバッと身を起こしました。

 「っっっ?! ……!!」

 魔理沙さんは、無言で驚きます。

 あなたはカンテラを探し、明かりをつけます。
 その温かい橙色の光は、夏の闇夜を照らします。

 あなたは布団のそばにそれを置くと、再び魔理沙さんの横に寝転びました。

「……」

「……」

 静寂が戻ります。



 あなたは、呼びました。

「魔理沙さん?」

「…………」

「まーーりーーさーーさーーーー」

「わかった!わかったから、こんな真夜中にそんな大きな声を出さないでくれ……」

 困ったように魔理沙さんは言います。

「お願いだから、今はそっとしておいてくれ……」

 いつもの元気はどこへ行ったか、萎れた声が聞こえてきます。
 あなたは、魔理沙さんと向かい合うように、横向きに寝返りをうちます。

 魔理沙さんの顔は、とても辛そうでした。

「魔理沙さん。とりあえず、我慢は体に毒ですよ。」

「……」

「お酒も飲み過ぎは毒です。感情も溜め過ぎは良くないですよ。よくわからないですけど」

「……」

「魔理沙さんの好きなものってなんですか?」

「うっ…… もういいだろ……」

「よくないです」

「なんで」

「そりゃ、女の子が泣いているからです。」

「理由になってないぜ……」

「要は理由なんて無意味ってことですよ。」

「……」

「理由なんて問題じゃないんです。魔理沙さんが泣いていることが重要。むしろそれしかありません。」

「なくぞ?」

「なんでですか?!」

 目と目があって、数秒の硬直。
 そして、魔理沙さんはクスッと笑いました。
 その様子を見て、あなたは内心ほっとします。

「まあ、理由はどうあれ、僕にできることは極力しますよ? 僕は女の子に弱いですから。」

「なんでもって言ったな?じゃあ、魔法の実験材料に肝臓がいるから、半分くらいくれないか?」

「ブラックジョークのライン超えてますよそれ。」

「ジョークじゃない。冗談だ。」

「おんなじ意味です。」

「……じゃあ」

 魔理沙さんは、なぜか顔を赤くしながらこう言いました。

「私の手を、握って…… くれないか?」

「いいですけど……」

 あなたはそう言って、魔理沙さんの手を優しく握ります。
 あったかくて、小さくて、繊細な手です。

「なぁ、祐也。」

「どうしました?」

 魔理沙さんはあなたの名前を呼びます。

「もし、とある女の子に告白されたら、どうする?」

「『ごめんなさい、僕の恋人はお酒です』って言って、丁寧にお断りしますね。」

「血も涙もねぇ……酒はありそうだが」

「僕…… その恋人、とか、好きとか、よくわからないんです。ここに来るまで、そういう経験もしてこなかったので」

「そうか……」

「でも、嬉しいですよ。」

「……」

「なんというか、正面切って悪意を向けられるより、好きって言ってもらえた方が気持ちがいいです」

「当たり前だろそんなの!」

「そうですよねー……」

 魔理沙さんは、深いため息をつきます。

「なんかもう、どうでも良くなってきたぜ。それよかお前、ずっと起きていたのか?」

「当たり前じゃないですか。すぐ隣に女の子がいて、シャイボーイ日本代表の僕がどうして安眠できるんですか」

「へぇー…… じゃあ、私が子守唄でも歌おうか?」

「それは恥ずかしいのでやめてください」

「じゃあ……どうすればいい?」

あなたは、頬をかきながらこう言います。

「手を、握ってもらえれば」

じーーっと、あなたのことを凝視する魔理沙さん。

「なんですか。悪いですか?」

「いや、可愛いなって思っただけだ。気にするな」

「僕は今にも泣き出しそうです」

「私の腕の中で泣いてもいいんだぞ?」

「それは恥ずかしすぎて死にます」

 あなたは、魔理沙さんの手を握ります。
 優しく、でも、離さないように。

「……あったかい」

 魔理沙さんは、だんだんとリラックスしていくように、強張った肩の力が抜けていきます。
 ゆっくりとした息遣いに変わり、眠気にも襲われ始めたのか、まぶたも重そうです。

 あなたは、優しく魔理沙さんのことを抱きしめます。

「恥ずかしいんじゃ、なかったのか……?」

「わかってるくせに」

 高鳴る心臓の音。

「ありがと……」

 あなたの胸の中で、魔理沙さんはそう言います。
 その声音は、とても眠そうです。

「……」

「……」

「おやすみなさい、魔理沙さん」

 あなたは、そう言って目を瞑ったのでしたーー。
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