第14話 Bar 『村雨』

文字数 1,444文字

「え、でも、これからですか?もう夕方ですけど……」

 あなたは、朱色に染まる空を見て、紫さんに問いました。
 今から、その『人間の里』に行くには、もう時間が遅すぎはしないか、と思います。

「大丈夫よ。すぐだから。」

「魔理沙、その箒って二人乗りは可能?」

「三人までならいけるぜ。」

「じゃ、行くわね。」

「え、えっ?」

 あなたは、二人の会話から取り残されてしまいます。
 まさか、空を飛ぶ、とでもいうのでしょうか。

「……まさか、飛ぶとか言わないですよね?」

「飛ぶ以外に何があるっていうのよ。」

「魔法使いに箒って言ったら、空を飛ぶ、だぜ?」

 夕焼けに染まる鳥居の前で、あなたは魔理沙さんの乗っている後ろにまたがります。
 魔理沙さんにつかまってろよー、と言われたあなたは、がっしりと魔理沙さんにしがみつきます。

「ちょっと待ってくださいね?心の準備ができてな」

「よし。行くぞ霊夢。」

「そいつ落とすんじゃないわよ」

結局あなたは、心の準備をできないまま、夕暮れの空へと飛び出しました。


「よし、ついたぜ、祐也。」

 あなたは、しがみついていた魔理沙さんから恐る恐る離れ、箒から降ります。
 目まぐるしく通り過ぎていく木々と、浮遊感に頭をくらくらさせているあなたは、しっかりと地に足ついた感覚を取り戻すと、安心感で満たされました。

「はぁああぁあぁぁあ、怖かったぁぁ…………」

「もうちょっと遅く高くとべば、楽しいんだがな。まあ、それは追追ってことで」

「もう十分ですぅ……」

 あなたの様子に魔理沙さんが笑っていると、遅れて霊夢さんと紫さんが到着します。

「全員いるわね。とりあえず、入りましょうか。」

 見上げると、そこには本当に、『村雨円楽店』という文字が書かれた、大正造りの建物がありました。

「うわぁぁ……本当にここって、僕の店なんですか?」

「私が個人的にあなたに譲渡したものよ。好きなように使ってくれて構わないわ。」

「っはーー、本当に洒落てるわねぇ……この赤い石造りの壁といい、木材の加工の仕方といい……。どことなく紅魔館の雰囲気があるわ。」

「時代は大正ロマン、ってやつですね。」

「そうね。洋風と和風の折り混ざった、優雅でしたたかな文化。今の幻想郷には新しいものだけれど、極端な斬新さは皆無。これからの人間の里は見ものね。」

 一人で納得する紫さん。
 霊夢さんと魔理沙さんは、それにお構いなしにすでに店の中に入っています。
 店の中から、魔理沙さんの黄色い声が上がっています。

「……、いきましょうか。」

「……そうですね………。」


 中に入ると、そこはバーでした。
 奥の棚には何もありませんが、バーカウンターとお洒落な家具が置かれています。

「バー、ですね。」

「バーよ。幻想郷には、こういう洒落ている場所がないから、需要はあると思うけれど。」

「紫さん。最高です。」

「そうだな。面白そうなものがたくさんあっていいな!」

 カクテルをつくる道具を見ながら、そう魔理沙さんは喜んでいます。
 店内を見渡していると、霊夢さんが店の奥から、あなたと紫さんを呼ぶ声が聞こえてきました。

「紫さん、あっちが例の細工のしてある部屋のある場所ですか?」

「……、ええ、そうね。それじゃぁ、いきましょうか。」

 あなたは魔理沙さんを呼ぶと、あなたたちは霊夢さんの呼ぶ方へ行きました。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み