第13話 あなたと私

文字数 1,827文字

「僕の能力、というか、神様の能力と言いますか………。能力、というより、司っている『言葉』、みたいな。」

 あなたは、説明を始めます。
 他の誰でもない、あなたと、『私』のことを。

「神様の司っている言葉、それは、『醸』です。」

 あなたは、拳をぐっと握り締め、キメ顔でそう言いました。
 静寂。
 カラン、と氷のなる音が響きます。

「……うん、それで?」

「……え?」

「いやあなた、具体的にはどんなことができるのかって」

「あ、はい、えっと、お酒を作れます……」

「うん。」

「なんていうんだ……『発酵を操ることができる』みたいな感じです」

「なるほど。ねえ紫、これだけ?」

「違うわ霊夢。この子の説明が下手くそなだけよ。」

「ぇぇ………………」

 再び訪れる静寂。

「……くっふ、あはははは!」

 静寂を破ったのは、魔理沙さん。
 急に腹を抱えて笑い出します。
 あなたは、とても恥ずかしい気持ちになりました。

「ちょ、魔理沙さん!笑わないでくださいよ!ひどいじゃないですか!」

「あっはっはは、ち、違う!くふっ……!そうじゃなくって!いやそうなんだけれども!!」

「あぁ、してやられたわけね。」

「え?」

 紫さんがそう言い、霊夢さんは頭に疑問符を浮かべます。

 仕方がありません。この調子では話が進まないので、私が話しましょう。

「うぉ、声が」

「……あなたが、この子に憑依している……いえ、憑依というより、住んでいる、の方が正しいのかしら?」

 えぇ、その解釈で大体合っています。
 顕現するほどの力がない神は、必ず拠り所が必要です。
 御神体となるものがないと、私の力を使うことができません。

「なるほど。でも違うのね。」

 そうです。私への信仰は、皆さんの言う『普通の神』とは少々色が違います。
 近しい存在でいえば、座敷童のような、そんな信仰。

 要するに、私は『妖怪と神の間』のような存在です。
 私は、妖怪の性質と神の性質、二つを持ち合わせているのです。

 なので、彼に憑依はできません。
 そして、私の信仰が増えても、本質的に私ができることは増えていきませんし、減りもしません。かつ複数人に与えることもできません。まあ、一切の信仰がなければ消滅はしてしまいますが。

「はぁー、なるほど。通りでこいつは、どこか妖怪っぽいところがあるのか。でも本質は人間なのか……紫がこいつを神隠ししたのも納得だぜ。それで、肝心の能力は?」

 そうですね。本題はそこです。
 先ほどもあなたが言っていた通り、私の司る言葉は、『醸』です。

 しかし、先ほども言いましたが、私の、俗に言うご利益は、普遍的に変わらないもの、だと言うことを覚えておいてください。

 私の能力は、ここ幻想郷風にいえば、『醸す程度の能力』ですかね。
できることは、
「発酵」に対して過度の干渉、
「発酵」に対して空間的、時間的干渉、
 細菌のする営みに対しての干渉、
 空気を醸し出すこと、
 そして、運命を醸すことです。

「マジか!そりゃすげえ!」

「そんなの、お酒作り放題じゃないの!!あんた最高よ!」

「ふ、二人とも、やめて、そんな僕を揺さぶらないでぇぇ……」

「あ、戻った。」

 あなたが二人にもみくちゃにされていると、紫さんが咳払いをしました。

「まあ、そう言うことよ。その能力が欲しいがために襲われる、なんてのもあるでしょう。」

「でも、それとあんたの『プレゼント』となんの関係があるんだ?こいつはその能力も使わないような面してるけど。」

「あの、それなんですけど、僕、お酒を作ることが趣味でして……多分ですけど、僕のお酒を作る姿さえ見えなければ、口外しない限り襲われることはない、ってことなんじゃ……」

「そういうことよ、魔理沙。あの店の作業場を、この子しか入れないし見ることができないように細工をしたのよ。」

「そうか……腐っても酒蔵の男だもんな……」

「だから、博麗神社でも危ないってわけね。」

「いや、『でも』はおかしいだろ。魔法の森より危険でさえあるぞ、ここは。」

「あとでしばくわよ」

「冗談です」

 霊夢さんと魔理沙さんの、霊夢さんの一方的な喧嘩が始まりそうになったところで、紫さんは言いました。

「それじゃ、早速いきましょう、店主さん?『村雨円楽店』に。」
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