第12話 あなたの能力

文字数 1,228文字

「彼の先祖は、酒蔵を持っていたの。」

 紫さんは、あなたの家のことについて話し始めました。

「その酒蔵は、奈良の山奥で細々と営んでいたの。始まりは古く、室町中期。その酒蔵には、初代の頃に建てられた小さな神社があったのよ。神は、信仰が芽生えれば生まれる。そして、その信仰が大きく、強固になれば力を増すわ。徐々に酒蔵の規模が大きくなっていって、江戸時代後期には、今の近畿地方では知らない人はいない酒蔵に成長したの。」

「すげえな。さすが人類だぜ」

 紫さんは、そうねとうなずき続けます。

「でも、繁栄もあれば衰退、破滅もあるわ。日本が鎖国をやめ、時代が目まぐるしく変わっていくことになる。彼の先祖は、それはそれはもう頑張ったわ。でも、他の酒蔵に負けちゃったわけよ。それで、潰れちゃったわけ。」

「ちょっと待ちなさい。」

 霊夢さんが話を止めます。

「彼のご先祖様が、昔はそこそこ知られていた酒蔵なのはわかったけれど、肝心の能力を使う者が出てこないじゃないの!どういうことなの?」

「確かに。」

 魔理沙さんが首を縦に振ります。
 一体どういうこのなのでしょうか。

「まあ、話を聞いて?……酒蔵が潰れる世代の、次の世代の子供に、それまでずっと信仰されてきた神が、憑依したの。」

「はぁ……いや、ちょっと待ちなさい、儀式もなしにどうやって」

「その酒蔵が終わるその時まで、信仰は続いていたのよ?しかも、神の肩書も変わらず、名前も変わらず、同じようにずっと。」

「なるほど。その神と家計の人間たちの関係性は『家族』みたいなもんになっていたのか。」

「そういうこと。でも、それだけじゃ、人間に神が永久憑依する理由にはならない。」

「…………あっ」

 あなたは、ここまでの話を聞いて、あることに気づきました。

「どうしたの?」

「僕、小さい頃は祖父母の家で育てられたんですけど、こんなことを教えられたんです。『お前が本当に困ったとき、そんなときは神様にお願いするといい』って」

「まさか……そのお願い、まさか、室町からずっと、脈々と受け継がれてきたっていうの?!」

「まあ、ざっと六百年は続いていたことになるわね。」

「そりゃぁ、実際に助けてくれたってなんらおかしくないな……」

「むしろ、ひっそりとなくなってしまった事実が辛すぎるわ……」

 霊夢さんは頭を抱え、天を仰ぎます。

「絶対そこのお酒、美味しかったのに!!」

「「そこか」」

 あなたは、クスリと笑ってしまいます。
 とても霊夢さんらしい、とあなたは思います。

「それで、その小さい、でも屈強な信仰が、こいつに助け舟を出したのね。……なんでよ。」

「そうね。ここからは、私が話すのは野暮ね。じゃ、祐也、お願いね?」

 一同、あなたの方を見ます。
 紫さんは面白そうに、霊夢さんは興味津々、魔理沙さんは好奇心で目を光らせて、あなたの顔を見ていました。
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