第3話 雑念ラジオ①~村瀬さんに片思い3年目~
文字数 1,237文字
ジオラマの遊歩道を形作りながら、今日も雑念を受け流した。
雑念がいつもより湧いてくるのは、いずみ祭りが近づいてくるからだ。
あのとき、3年前のいずみ祭りの日、村瀬さんにとても嫌な思いをさせてしまった。
親父に会いに行った帰りに、俺のことで村瀬さんと百川が口論になってしまい、村瀬さんが泣きそうな顔になった。
せっかくの休日でいずみ祭りの日を、俺の用事でつき合わせただけでなく喧嘩をさせてしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいでなにも言えなかった。
結局、村瀬さんの言っていることが一番正解だった。
村瀬さんはそれから、あからさまに気落ちしていて、俺は百川を捕まえ村瀬さんに謝るよう抗議しようと思ったけど、これをきっかけに別れてしまえばいいと考え直して言わなかった。
俺は卑怯だな。
なのに……いつの間にか村瀬さんと百川は仲直りしていて、前より百川が束縛するようになっていた。
村瀬さんは自分を卑下する癖がある。貧乳だとか、大人っぽくないとか自虐気味に笑って言っていたけど、そんなことはなかった。
猫みたいな上目遣いの茶色がかった瞳、華奢な肩と背中、細くしなやかな腰、小さいけど形がよさそうな胸。
俺にとっては誰よりも女を感じて、華奢な村瀬さんと熊みたいな百川がセックスしているシーンを想像しては、部屋の中でのたうち回った。
百川が東京に就職して、2人は疎遠になったようだった。
俺は高専を卒業して就職して一人前になったとき、村瀬さんに告白しようと思った。俺は4歳年下だけど、村瀬さんは気にするだろうか。
ある秋の日、服部が花束を持って現れた。それから照井という男。
俺のターンがこない。
いつまでたっても、俺の出番が回ってこない。
気がついたら広樹君が側に立ち、おずおずとティッシュペーパーを二枚、俺に差し出していた。俺はいつの間にか泣いていたのだ。
俺は絶対に人前では泣かないタイプの人間だ。
「ノリの悪い子」と母親は事あるごとに言った。父親からは「宗也はつまらない」と言われ続けた。
おまえらみたいな人間の前で、本心なんか見せてたまるか。
そんな俺だが、ここに来るとディフェンスがゆるゆるになる。
「ありがとう」
広樹君からティッシュペーパーを受け取り、涙を拭いた。
広樹君は安心したように席について作業を再開した。きっと勇気を振り絞ったのではないだろうか。広樹君の息づかいが荒い。
広樹君から心配されるなんて、俺ちょっと情緒不安定過ぎるだろ。
この日から広樹君は、俺をみると顔を覗き込み、泣いていないことがわかるとあからさまにホッとした表情を浮かべるようになった。
「広樹君はナリちゃんによく懐いているなぁ」
山田さんが言った。
「いえ、むしろ逆で、広樹君は俺を心配しているんです。優しいんです」
と返すと広樹君のお母さんが泣きそうな笑顔を浮かべ、いつも首に巻いているスカーフみたいなタオルで額の汗を拭いながら、目頭を押さえた。
広樹君のお母さんは更年期障害というもので、すぐ汗が噴き出すと言っていた。
雑念がいつもより湧いてくるのは、いずみ祭りが近づいてくるからだ。
あのとき、3年前のいずみ祭りの日、村瀬さんにとても嫌な思いをさせてしまった。
親父に会いに行った帰りに、俺のことで村瀬さんと百川が口論になってしまい、村瀬さんが泣きそうな顔になった。
せっかくの休日でいずみ祭りの日を、俺の用事でつき合わせただけでなく喧嘩をさせてしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいでなにも言えなかった。
結局、村瀬さんの言っていることが一番正解だった。
村瀬さんはそれから、あからさまに気落ちしていて、俺は百川を捕まえ村瀬さんに謝るよう抗議しようと思ったけど、これをきっかけに別れてしまえばいいと考え直して言わなかった。
俺は卑怯だな。
なのに……いつの間にか村瀬さんと百川は仲直りしていて、前より百川が束縛するようになっていた。
村瀬さんは自分を卑下する癖がある。貧乳だとか、大人っぽくないとか自虐気味に笑って言っていたけど、そんなことはなかった。
猫みたいな上目遣いの茶色がかった瞳、華奢な肩と背中、細くしなやかな腰、小さいけど形がよさそうな胸。
俺にとっては誰よりも女を感じて、華奢な村瀬さんと熊みたいな百川がセックスしているシーンを想像しては、部屋の中でのたうち回った。
百川が東京に就職して、2人は疎遠になったようだった。
俺は高専を卒業して就職して一人前になったとき、村瀬さんに告白しようと思った。俺は4歳年下だけど、村瀬さんは気にするだろうか。
ある秋の日、服部が花束を持って現れた。それから照井という男。
俺のターンがこない。
いつまでたっても、俺の出番が回ってこない。
気がついたら広樹君が側に立ち、おずおずとティッシュペーパーを二枚、俺に差し出していた。俺はいつの間にか泣いていたのだ。
俺は絶対に人前では泣かないタイプの人間だ。
「ノリの悪い子」と母親は事あるごとに言った。父親からは「宗也はつまらない」と言われ続けた。
おまえらみたいな人間の前で、本心なんか見せてたまるか。
そんな俺だが、ここに来るとディフェンスがゆるゆるになる。
「ありがとう」
広樹君からティッシュペーパーを受け取り、涙を拭いた。
広樹君は安心したように席について作業を再開した。きっと勇気を振り絞ったのではないだろうか。広樹君の息づかいが荒い。
広樹君から心配されるなんて、俺ちょっと情緒不安定過ぎるだろ。
この日から広樹君は、俺をみると顔を覗き込み、泣いていないことがわかるとあからさまにホッとした表情を浮かべるようになった。
「広樹君はナリちゃんによく懐いているなぁ」
山田さんが言った。
「いえ、むしろ逆で、広樹君は俺を心配しているんです。優しいんです」
と返すと広樹君のお母さんが泣きそうな笑顔を浮かべ、いつも首に巻いているスカーフみたいなタオルで額の汗を拭いながら、目頭を押さえた。
広樹君のお母さんは更年期障害というもので、すぐ汗が噴き出すと言っていた。