第1話 初めてのオオツボ模型
文字数 1,474文字
たんぽぽ食堂という子ども食堂にて、常連仲間である天宮さんが言った。
「新しくできたオオツボ模型、楽しかったよ。ガンプラや鉄道模型なんかが棚いっぱい売られているのかと思ったらさ、商品の棚は割と少なくて、作業スペースが充実していた。素材や工具とか塗料とか」
「へえ、何人くらいお客さんいた?」
「私が行ったときは5人くらいいたかな。女子高生もいたよ! 成田君、チャンス。行ってきたら?高専 って男子校なんでしょ」
「ほぼ、男子校ね。女の子もガンプラとか作っていたの?」
「いや、違う。あれは……なんだろう、盆栽?」
「盆栽? そんなわけないでしょ、よく思い出して」
「各自自由に色んなもの作っている感じなんだよ。中央スペースにもみんなで自由に参加して作る大きな種原山のジオラマがあってさ、私と司は入口のたんぽぽ食堂とベンチを作ったよ。料金も安かったし、成田君絶対好きだと思うな」
天宮さんや小関さんとかなら、どんな場所でも普段着で平気で行けるだろうけど、俺には敷居が高いな。
きっともう常連とかコミュニティーが出来上がっているに違いない。
……でも面白そう、バイト代入ったら、ちょっとだけ覗いてみようかな。
ゴールデンウィークの最後の日、小雨が降っていた。
俺は初めてオオツボ模型の前に立った。前の雑貨屋の作りをそのままに正面の半分が硝子張りになっていて、中を覗くことができた。
サラリーマンのおじさんみたいな人が椅子に座って談笑している。
俺は静かにドアを開けると……
「おや? 珍しいぞ、イケメンのお兄ちゃんだ」
俺のこと?
「こんにちは」
俺は頭を下げた。30代くらいのおじさんは座ったまま椅子を転がし俺に近づき、
「今、大坪さんヤオシンに買い物に行っていて、俺、山田と言います。君、初めてだよね」
「はい」
「あれが料金表」
「あ、安いかも。これ全部使っていいんですか? 別料金かからないんですか?」
「かからないんだよ! 大坪さん悠々自適でお金に困っていないのはわかるんだけどさ、もう少し払わせてくださいって感じなんだよ」
後ろの男の人達が笑った。
《作業スペース》
3時間500円 1日1000円
(工具、塗料、素材使い放題)
(コーヒーとお茶 ご自由にどうぞ)
「お兄さんのジャンルは?」
「昔、ガンプラが好きで」
「おー、鯨 ちゃん仲間だぞ」
俺の心配は杞憂 に終わった。オオツボ模型の常連さん達は、たんぽぽ食堂みたいに俺を迎えてくれたのだ。
そのとき、とても地味なお爺さんがドアを開けた。あ、この人が大坪さんか。
俺は息抜きに、オオツボ模型を訪れるようになった。
寡黙な大坪さん。ムードメーカーのサラリーマンの山田さんと塚田さん、泉工医大の留学生の周 さん、ビジネス専門学校の中村君、泉水南高の鯨君、天神中学校の平山君。そして、たまに来る泉水中央高の羽石咲良 さん。
天宮さんが言っていたことは間違ってはいなかった。
確かに羽石さんは盆栽のようなものを製作していたのだ。
箱庭に本物のシダや多肉植物、苔をピンセットを使って植えて、ファンタジーに出てくるような風景を再現していた。羽石さんの製作はなかなか進まなかった。なぜなら羽石さんは、途中でシダをうっとりと眺めだして、ぼんやりしてしまうのだ。
みんな自由に好きなことをしていて誰も干渉しなくて、オオツボ模型は本当に居心地が良かった。
俺は種原山のジオラマを少しずつ手を加えた。
遊歩道と、それから頂上付近の地磁気逆転崖とかも作らなくちゃ片手落ちだ。
そんなとき、1人の小学生とそのお母さんがオオツボ模型にやって来た。やっぱり霧雨の降る日だった。
「新しくできたオオツボ模型、楽しかったよ。ガンプラや鉄道模型なんかが棚いっぱい売られているのかと思ったらさ、商品の棚は割と少なくて、作業スペースが充実していた。素材や工具とか塗料とか」
「へえ、何人くらいお客さんいた?」
「私が行ったときは5人くらいいたかな。女子高生もいたよ! 成田君、チャンス。行ってきたら?
「ほぼ、男子校ね。女の子もガンプラとか作っていたの?」
「いや、違う。あれは……なんだろう、盆栽?」
「盆栽? そんなわけないでしょ、よく思い出して」
「各自自由に色んなもの作っている感じなんだよ。中央スペースにもみんなで自由に参加して作る大きな種原山のジオラマがあってさ、私と司は入口のたんぽぽ食堂とベンチを作ったよ。料金も安かったし、成田君絶対好きだと思うな」
天宮さんや小関さんとかなら、どんな場所でも普段着で平気で行けるだろうけど、俺には敷居が高いな。
きっともう常連とかコミュニティーが出来上がっているに違いない。
……でも面白そう、バイト代入ったら、ちょっとだけ覗いてみようかな。
ゴールデンウィークの最後の日、小雨が降っていた。
俺は初めてオオツボ模型の前に立った。前の雑貨屋の作りをそのままに正面の半分が硝子張りになっていて、中を覗くことができた。
サラリーマンのおじさんみたいな人が椅子に座って談笑している。
俺は静かにドアを開けると……
「おや? 珍しいぞ、イケメンのお兄ちゃんだ」
俺のこと?
「こんにちは」
俺は頭を下げた。30代くらいのおじさんは座ったまま椅子を転がし俺に近づき、
「今、大坪さんヤオシンに買い物に行っていて、俺、山田と言います。君、初めてだよね」
「はい」
「あれが料金表」
「あ、安いかも。これ全部使っていいんですか? 別料金かからないんですか?」
「かからないんだよ! 大坪さん悠々自適でお金に困っていないのはわかるんだけどさ、もう少し払わせてくださいって感じなんだよ」
後ろの男の人達が笑った。
《作業スペース》
3時間500円 1日1000円
(工具、塗料、素材使い放題)
(コーヒーとお茶 ご自由にどうぞ)
「お兄さんのジャンルは?」
「昔、ガンプラが好きで」
「おー、
俺の心配は
そのとき、とても地味なお爺さんがドアを開けた。あ、この人が大坪さんか。
俺は息抜きに、オオツボ模型を訪れるようになった。
寡黙な大坪さん。ムードメーカーのサラリーマンの山田さんと塚田さん、泉工医大の留学生の
天宮さんが言っていたことは間違ってはいなかった。
確かに羽石さんは盆栽のようなものを製作していたのだ。
箱庭に本物のシダや多肉植物、苔をピンセットを使って植えて、ファンタジーに出てくるような風景を再現していた。羽石さんの製作はなかなか進まなかった。なぜなら羽石さんは、途中でシダをうっとりと眺めだして、ぼんやりしてしまうのだ。
みんな自由に好きなことをしていて誰も干渉しなくて、オオツボ模型は本当に居心地が良かった。
俺は種原山のジオラマを少しずつ手を加えた。
遊歩道と、それから頂上付近の地磁気逆転崖とかも作らなくちゃ片手落ちだ。
そんなとき、1人の小学生とそのお母さんがオオツボ模型にやって来た。やっぱり霧雨の降る日だった。