第13話 2018年3月 泉水新聞

文字数 1,192文字

 9月になり学校が始まったが、土曜日には電車で三依市へと向かった。種原病院のバイトは時間をずらしてもらった。
株式会社米澤へ挨拶して、広樹君のリハビリの付き添いと、時間があれば小泉山さんと食事かお茶。自販機でお茶の差し入れでもいいんだ。顔を合わせられれば。仕事で忙しい小泉山さんの邪魔にならないように。

 俺の誕生日近くには、小泉山さんはお昼に時間を作ってくれた。
「誕生日おめでとう、今日は私がご馳走するね。お蕎麦屋さんだけど」
「ありがとう。やっと3歳差になった」
 雲間境温泉リハビリセンター近くの『蕎麦 たかしま』で俺達は天ぷら蕎麦を食べた。小泉山さんは、今日は2時半までなら時間があると言ってくれた。

 食事を終え外に出た俺は、斜めはす向かいに新しくオープンした小さな店を見つけた。開店祝いの花が飾ってある。
「小泉山さん、甘味処だって。デザートは俺におごらせて」
「甘味処? あんみつとか?」

 小泉山さんはヒョイと店の方を見た。
その瞬間表情は硬直し棒立ちに。
「どうしたの?」
 小泉山さんはその店から顔を背け黙り込んだ。
「具合悪いの?」

 俺は目の前のファストフード店に半ば強引に、小泉山さんを連れて席に座らせた。
コーヒーを前に置いて、俺は小泉山さんが落ち着くのを待った。小泉山さんは、
「……ごめんね、もう大丈夫」
 全然大丈夫そうじゃない。

「さっきのお店に、何かあったの?」
「お店は関係ないの、あの、貧血、貧血なの」
「そう……無理しないで仕事早退したら?」
「大丈夫だから、心配かけてごめんね」

 小泉山さんの笑顔は痛々しい。
たんぽぽ食堂の霊感3人衆が見たら、小泉山さんはどんな風に映るんだろう。おそらく、胸に大きな傷のようなものがあるはずだ。
俺は霊感は皆無だけど、それくらいは感じる。


 帰りの電車の中でぼんやり考えた。
甘味処の店の前にはオバサンが2人いるくらいだった。小泉山さんは何を見て青ざめたのだろう。
店の名前は、確か『南郷峠(なんごうとうげ)の茶屋』だった。

 しばらく窓の外を見ていて、ぼんやり考えた。南郷峠……南郷峠……もちろん地名は知っている。泉水市に入る手前の峠だ。

 俺はスマホで『南郷峠』を検索した。


【泉水新聞】
南郷峠道路、バイパス整備へ 
 高低差を解消、凍結路の事故防止に向けて

 羽河インターチェンジ~泉水インターチェンジ間は急勾配(きゅうこうばい)により大雪時に交通事故が多発している。2015年~2018年の3年間で交通事故は11件発生した。

 事業化のきっかけになったのは2018年3月に発生した事故

 軽乗用車に大型トラックが追突する事故があり、軽乗用車を運転していた福島県郡山市の近藤 知美さん(47)同乗者の長女 優名さん(18) 及び羽河市のトラックの運転者 小泉山 武志さん(23)が搬送先の病院で死亡が確認された。
この影響により羽河IC下り方面は約5時間半にわたって通行止めとなった。
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登場人物紹介

成田 宗也(なりた そうや)


高専生 アイドル顔だが、失踪した父親と似ているため、自分の顔が好きじゃない。

米澤 広樹(よねざわ ひろき)


オオツボ模型に来るようになった小学生 発達障害

小泉山 紗弥(こいずみやま さや)


雲間温泉境リハビリセンター勤務

村瀬 芽依(むらせ めい)


たんぽぽ食堂で学習支援を行っている泉工医大生

本郷 明音(ほんごう あかね)


同じクラス エロマンガを描くのが趣味 兄がレンコン


岬 悠生(みさき ゆうせい)


たんぽぽ食堂の常連 工業高校 道の駅ラップバトルの常連

田中 秀一(たなか しゅういち)


符丁神社の宮司 霊能力者 独身

二宮 治子(にのみや はるこ)


たんぽぽ食堂のオーナー 資産家

畑中 麻美(はたなか あさみ)


たんぽぽ食堂の調理師 優しく穏やか 節約料理が得意で手際がいい


近藤 優名(こんどう ゆうな)


第1章 参照

近藤 彩(こんどう あや)


近藤優名の叔母にあたる 化粧品工場の技術職 

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