第9話 オオツボ模型 就活部
文字数 950文字
なんとなく毎日を送っていた俺に、目標ができた。
株式会社米澤に就職するという目標。自発的に目標を作ったのは、生まれて初めてかもしれない。
よくわからないけど “グローバルニッチな会社” というものに就職して、村瀬さんに「逃した魚は大きかった」と思わせたいという気持ちもいまだにあった。
俺はオオツボ模型で、いつものように汗をぬぐっている米澤さんに向かい、
「俺、米澤さんの会社に就職したいです」
と意思表示をした。エントリーシートの前に直接交渉だ。
そのとき米澤さんの代わりに、側にいた大坪さんが間髪入れずに返した。
「高専で培った技術はあっても、面接で不採用になりそうですね」
「は?」
カウンターを打ってきた!
そんなわけないだろ。高専生は就職で無双するって聞いているぞ。唖然とする俺に向かって大坪さんは、
「成田君が望むのなら、面接の練習をしますか? 話はそれからですね」
今まで寡黙だった大坪さんが豹変した。
「声が小さいです」
「猫背を治しなさい」
「もっとはっきり話してください」
「採用したいと思ってもらうには、どうしたらいいですか? 考えなさい」
「スカスカのポートフォリオを貧困のせいにしても始まりません。熱意で補ってください」
「相手の社員さんは忙しい時間を割いて、対応してくれるのですよ。成田君には感謝の気持ちが足りません」
俺はまた泣きそうになった。広樹君が心配そうに見ている。
大坪さんは人事課で採用の仕事が長かったらしい。
鯨君も恐る恐る入ってきた。
「お、俺も、鍛えてください。俺、このままじゃヤバいんで」
「もちろんいいですよ。鯨君は鍛え甲斐がありそうだ!」
大坪さん、笑っている。
大坪さんが初めて歯を見せて笑い、「血が騒ぐ」と呟いたので、その場にいたみんなは恐怖で凍り付いた
夏休みに入ってすぐ、株式会社米澤の三依工場で10日間のインターンシップをさせてもらった。
米澤社長は、日に焼けた漁師のようなワイルドな風貌だったので、最初とても緊張した。
そのあとのお礼状も、大坪さんから何度も何度も添削されて心が折れそうに。
上手にアピールできた手応えはあまりなかったのだが、翌週に米澤社長から声をかけてもらい、雲間境温泉リハビリセンター近くの『米澤ショールーム』でも5日間仕事をさせてもらうことになった。
株式会社米澤に就職するという目標。自発的に目標を作ったのは、生まれて初めてかもしれない。
よくわからないけど “グローバルニッチな会社” というものに就職して、村瀬さんに「逃した魚は大きかった」と思わせたいという気持ちもいまだにあった。
俺はオオツボ模型で、いつものように汗をぬぐっている米澤さんに向かい、
「俺、米澤さんの会社に就職したいです」
と意思表示をした。エントリーシートの前に直接交渉だ。
そのとき米澤さんの代わりに、側にいた大坪さんが間髪入れずに返した。
「高専で培った技術はあっても、面接で不採用になりそうですね」
「は?」
カウンターを打ってきた!
そんなわけないだろ。高専生は就職で無双するって聞いているぞ。唖然とする俺に向かって大坪さんは、
「成田君が望むのなら、面接の練習をしますか? 話はそれからですね」
今まで寡黙だった大坪さんが豹変した。
「声が小さいです」
「猫背を治しなさい」
「もっとはっきり話してください」
「採用したいと思ってもらうには、どうしたらいいですか? 考えなさい」
「スカスカのポートフォリオを貧困のせいにしても始まりません。熱意で補ってください」
「相手の社員さんは忙しい時間を割いて、対応してくれるのですよ。成田君には感謝の気持ちが足りません」
俺はまた泣きそうになった。広樹君が心配そうに見ている。
大坪さんは人事課で採用の仕事が長かったらしい。
鯨君も恐る恐る入ってきた。
「お、俺も、鍛えてください。俺、このままじゃヤバいんで」
「もちろんいいですよ。鯨君は鍛え甲斐がありそうだ!」
大坪さん、笑っている。
大坪さんが初めて歯を見せて笑い、「血が騒ぐ」と呟いたので、その場にいたみんなは恐怖で凍り付いた
夏休みに入ってすぐ、株式会社米澤の三依工場で10日間のインターンシップをさせてもらった。
米澤社長は、日に焼けた漁師のようなワイルドな風貌だったので、最初とても緊張した。
そのあとのお礼状も、大坪さんから何度も何度も添削されて心が折れそうに。
上手にアピールできた手応えはあまりなかったのだが、翌週に米澤社長から声をかけてもらい、雲間境温泉リハビリセンター近くの『米澤ショールーム』でも5日間仕事をさせてもらうことになった。