第6話 感情はセーブ不能
文字数 1,344文字
あれから食堂で田中宮司と小関さんに会うと、二人とも俺と村瀬さんを交互にチラチラ見てなにか言いたげというか、はっきり言って鬱陶しい。
放っておいてくれ。
6月に入ってすぐ、百川が公務員試験の説明会の帰りに食堂に立ち寄った。
久し振りに見たけど、こんなオッサンのどこがいいんだ。頭と要領はいいのかもしれないけど。村瀬さんにちゃんと優しくできるのか? いつも偉そうにムスッとした顔をしていて腹立たしい。
俺は外に呼び出して言ってやった。
「村瀬さんのこと、もっと大切にしてあげて。あんた見ているとムカつくんだよ」
自分よりずっと年上の男に対し、そんなことをサラッと言い切った自分に驚いた。けれど百川は顔色一つ変えずに、
「わかっているよ、安心しろ。おまえさ、ずっと芽依のことイヤらしい目で見ているよな」
「うるせえ」俺は中指を立てた。
百川はフッと笑ってから、
「真面目で大人しいお利口さんキャラだったのに、どうした?」
俺はオオツボ模型で何度も泣くうちに、感情のセーブができなくなったみたいだ。
俺と村瀬さんがキスしたことを言ってみようかな。さすがにそれは止めておく。自分の一人相撲だったし、これ以上村瀬さんに嫌われたくはない。
きっと村瀬さんは今では、服部なんかより俺のことを面倒くさいと思っているはずだから。
みんな俺よりずっと楽しそうに見える。
オオツボ模型では、とうとう鯨君が羽石さんに話しかけた。
鯨君がずっと話しかけるチャンスを狙っていたのは、全員気がついていた。
「……俺にはシダってみんな同じように見えるけど、恐竜がいた頃からあるから、いろんな種類があるんだろうね」
羽石さんは顔を上げ、目を見開きキラキラさせて言った。いつもより高いトーンで。
「あるよ、いっぱい、いろんな種類」
「種原山にも?」
「種原山はシダの宝庫だよ!」
「そうなんだ……えっと、俺にも見分けつくかな?」
「見に行く? これから。案内するよ。虫除けスプレー持っているし」
二人で荷物を置いて、種原山ハイキングに出発してしまった。
最近天宮さんは、服部と一緒に泉工医大の図書館で勉強しているみたいだ。試験の時は混雑して入れないみたいだけど。
天宮さんは中性的にしているけど、滲み出る妙な色気と存在感がある。そしてそこにモデルのような高山さんも加わるようになった。
個性的で目を引く女子高生2人を連れて歩く服部は、きっと得意そうな顔をしているんだろうな。
そんなわけで、今、食堂には俺と岬と葉月ちゃんと、田辺ミゲル君と亀田鈴 ちゃん。
俺を避けているのか忙しいのか、村瀬さんはあまり食堂に来なくなった。
俺も、椎貝さんだけがいるのを見て、ホッとするやらガッカリするやら複雑な気持ち。
村瀬さんの場合、例え嫌われたとしてもやんわり避けられるくらいで、冷たい仕打ちはしないだろうという妙な安心感はある。
それになんとなく、もう一押しすればもしかして、ひょっとして……というような期待を抱かせるような緩さを感じるのだ。
きっと服部も同じ気持ちだったのではないだろうか。ストーカー製造機じゃねえか。百川だって振られたら即、ストーカーになるに決まっている。
次第に、根暗な男に隙を感じさせる村瀬さんも悪いような気がしてきたぞ。それとも俺と服部がバカなだけ?
放っておいてくれ。
6月に入ってすぐ、百川が公務員試験の説明会の帰りに食堂に立ち寄った。
久し振りに見たけど、こんなオッサンのどこがいいんだ。頭と要領はいいのかもしれないけど。村瀬さんにちゃんと優しくできるのか? いつも偉そうにムスッとした顔をしていて腹立たしい。
俺は外に呼び出して言ってやった。
「村瀬さんのこと、もっと大切にしてあげて。あんた見ているとムカつくんだよ」
自分よりずっと年上の男に対し、そんなことをサラッと言い切った自分に驚いた。けれど百川は顔色一つ変えずに、
「わかっているよ、安心しろ。おまえさ、ずっと芽依のことイヤらしい目で見ているよな」
「うるせえ」俺は中指を立てた。
百川はフッと笑ってから、
「真面目で大人しいお利口さんキャラだったのに、どうした?」
俺はオオツボ模型で何度も泣くうちに、感情のセーブができなくなったみたいだ。
俺と村瀬さんがキスしたことを言ってみようかな。さすがにそれは止めておく。自分の一人相撲だったし、これ以上村瀬さんに嫌われたくはない。
きっと村瀬さんは今では、服部なんかより俺のことを面倒くさいと思っているはずだから。
みんな俺よりずっと楽しそうに見える。
オオツボ模型では、とうとう鯨君が羽石さんに話しかけた。
鯨君がずっと話しかけるチャンスを狙っていたのは、全員気がついていた。
「……俺にはシダってみんな同じように見えるけど、恐竜がいた頃からあるから、いろんな種類があるんだろうね」
羽石さんは顔を上げ、目を見開きキラキラさせて言った。いつもより高いトーンで。
「あるよ、いっぱい、いろんな種類」
「種原山にも?」
「種原山はシダの宝庫だよ!」
「そうなんだ……えっと、俺にも見分けつくかな?」
「見に行く? これから。案内するよ。虫除けスプレー持っているし」
二人で荷物を置いて、種原山ハイキングに出発してしまった。
最近天宮さんは、服部と一緒に泉工医大の図書館で勉強しているみたいだ。試験の時は混雑して入れないみたいだけど。
天宮さんは中性的にしているけど、滲み出る妙な色気と存在感がある。そしてそこにモデルのような高山さんも加わるようになった。
個性的で目を引く女子高生2人を連れて歩く服部は、きっと得意そうな顔をしているんだろうな。
そんなわけで、今、食堂には俺と岬と葉月ちゃんと、田辺ミゲル君と亀田
俺を避けているのか忙しいのか、村瀬さんはあまり食堂に来なくなった。
俺も、椎貝さんだけがいるのを見て、ホッとするやらガッカリするやら複雑な気持ち。
村瀬さんの場合、例え嫌われたとしてもやんわり避けられるくらいで、冷たい仕打ちはしないだろうという妙な安心感はある。
それになんとなく、もう一押しすればもしかして、ひょっとして……というような期待を抱かせるような緩さを感じるのだ。
きっと服部も同じ気持ちだったのではないだろうか。ストーカー製造機じゃねえか。百川だって振られたら即、ストーカーになるに決まっている。
次第に、根暗な男に隙を感じさせる村瀬さんも悪いような気がしてきたぞ。それとも俺と服部がバカなだけ?