第210話 好きの果て Aパート ❝単元まとめ❞

文字数 8,272文字



 最終下校時刻を過ぎた中、私と優希君は恋人繋ぎをしながらあの人を除いた5人で校舎を出るとそこには何と理沙さんの姿が。
「あ! 愛先輩にみんな……それに蒼先輩までっ!」
 そう言えば、彩風さんが心配だからってどこかで時間を潰しているって言っていたっけ。
 だけれど、理沙さんにはすぐに駆け寄って行ったのに、どうしてか微妙に私たちから距離を取る二年の二人と、
「それで、改めて二人には聞きたい事があるんだけれど、もちろん良いよね」
 さっきまではお褒めの言葉と共に、満足そうな表情をしていたはずなのに、何故かオカンムリの蒼ちゃん。
「ちょっと冬美さん。どうしてそんなに離れるの? もっとこっちにおいでよ」
 蒼ちゃんの説教を聞くのも嫌だったし、さっきの話の続きもしたいのに。
「嫌です。どうせまた会長の話の続きなんですよね。それに霧ちゃんを独り放っては置けません」
「雪野……お前……」
 言葉だけを聞いたら理沙さんの反応も頷けるけれど、さっきから小声でつぶやいているのを聞いてしまっている私からしたらどうも額面通りには受け取れない。
「……」
 冬美さんも大分私の性格を理解して来ているのか、それ以上踏み込めない理由を添えて断って来るし。
 その彩風さんは今日一日で色々あり過ぎたのか、ずっと俯いたまま無言だけれど、その雰囲気からは統括会が始まったばかりの悲壮感は完全に無くなっている。
「雪野さん。愛美さんがショックを受けてるから愛美さんのお願い通りこっちに――」
「――ちょっと空木君。どうして私との話を無視するの? 愛ちゃんへの約束は? さっき全部説明するって言ってたよね」
 恋人繋ぎをしている分、私の感情がより細かく流れているのか、私の気持ちをぴったりと言い当てて後輩二人に声を掛けてくれるけれど、蒼ちゃんのご立腹は留まるところを知らない。
「それに愛ちゃんも。何で私が話そうとしてるのに後輩の雪野さんを巻き込むの? 雪野さんとは私が改めて話をするんだから今は私の話を聞きなさい」
「えっと。蒼先輩……ひょっとして機嫌悪い?」
 無論それは私に対しても。だからすぐに空気を読み始める理沙さん。
「え゛。でもワタシ岡本さんのご友人とは今日が初対面なんですけど。ワタシは何を言われるんですか?」
 屋上を出る際の蒼ちゃんからのお褒めの一言が、尾を引いているのか明らかに渋り声になる冬美さん。
「初対面だろうが何だろうが、愛ちゃんを泣かせた人間は理っちゃんも含めてみんなお説教してるの」
「えぇー。何となく解決したのは分かったんですが、何であーしが巻き込まれてるんです?」
 だけれど、あの事件以来性格の変わったご立腹の蒼ちゃんにそんな子供だましは通用しない。
「理っちゃんて……どちら様ですか?」
「そこにいる中条さんだよ。あの二人も少し前から面識はあるから。ちなみに彩風さんとも面識があって――」
「――彩ちゃんも。全然全くこれっぽっちも愛ちゃんのお願いも言う事も聞いてくれなかったって聞いてるから、彩ちゃんもお説教ね」
「やっぱり蒼先輩も……怒らせると怖い」
「彩風の無事も確認出来たんで、あーしは帰らせて――」
「――なんで一人だけ帰ろうとしてるんですか。あの岡本さんのご友人をご存知でしたら何とかして下さい」
 そう言えば、蒼ちゃんの口から何度か彩風さんへのお説教が必要だって言っていたっけ。でもこれで蒼ちゃんからのお説教が後輩二人に向くなら、ちょっと悪いなとは思うけれど、さっきは褒めてくれたんだからここはお任せさせてもらおうと思ったところに、
「でも、まずは私たちみんなの意見を聞かずに、あんなよく分からないブラウスの人の話を鵜呑みにして、今日の連絡の件も愛ちゃんに対する約束も中途半端だったお話をきっちり聞かせてもらうから」
 一番初めの私たちへと話を戻してくる蒼ちゃんと、あからさまにほっと溜息をつく理沙さん。今のはちゃんとチェックしたんだから。
「蒼依さんの質問には僕が全部答えるから、今日一番頑張った愛美さんへのお小言は辞めてあげて欲しい」
「冬美さんお願い。もうさっきの話は蒸し返さないからこっちに来てよ。可愛さの戻った後輩もこっちには来てくれないの?」
「?! か、可愛い後輩……」
 このままだと後輩三人の前で説教を受けると言う、何とも情けない構図になりそうだからともう一回取引を持ち掛けたのに、
「中条さんは何を岡本さんの舌に巻き取られてるんですか。あんな見え透いた言葉に惑わされないで下さい――何度言われても嫌なものは嫌です。あんな二枚舌どころか、ワタシや会長への態度と空木先輩やそこのご友人との対応があまりにも違い過ぎる上、男性を殴り飛ばしてしまうご婦人になんて近づけません。霧ちゃんなんてさっきから完全に怯えっぱなしじゃないですか」
 怯えって酷い。私は二人の気持ちを余す事無くあのカッコ悪い人に伝えただけなのに。しかも何が舌で巻き取るなんだか。
「そうやって空木君が甘やかすから、愛ちゃんは際限なく甘え出すの。愛ちゃんを大切にするって言うのと甘えさせるって言うのは別の話なんだよ。そこんところ分かってないの?」
 しかも蒼ちゃんもなんて事を言うのか。私は甘えるんじゃなくて優希君からの“

好き”をいつでも受け取れるようにしているだけなのに、心外も良い所だ。
「残念でした。二枚舌の私に優希君をもっと絡め取って欲しいから、歓迎するって言ってくれたんだから、それで優希君の心象を落とそうとしてももう無駄だから」
 その、ありのままで良いと言ってくれた優希君が、私の舌でもっと絡め取って欲しい、嬉しいって言ってくれたんだから冬美さんのその努力も完全に無駄だと教えてあげる。
「舌で副会長を絡め取るって……」
 しかも何を想像したのか、さっきまでは消沈で無言だった彩風さんが、違う意味で頬を赤らめて私たちを見て来る。
 その久しぶりに見た彩風さんの屈託のない笑顔。これから想いが深かった分時間がかかっても次へ進めるきっかけになればと想いながら彩風さんを見つめていると、
「そうやって空木君が甘やかすから、愛ちゃんが今みたいにして際限なく甘え出すの。今のも大概酷いけど、特に最近の愛ちゃんは何かあれば空木君空木君酷いよ」
 蒼ちゃんから説教を受けているはずの優希君が、嬉しそうに私に顔を向けてくれた上、恋人繋ぎをしている手を優しく“にぎにぎ”してくれる。
「……空木先輩も。本当にこんな暴力彼女さんで良いんですか? 今ならまだワタシに戻るのも間に――」
「……副会長。浮気は女の宿敵ですから」
 かと思えば私から優希君へと素早く標的を変えるこの頭が固いはずの冬美さん。でもそこには統括会まであった、強烈な想いはほとんど見られなくなっていて――
「――愛美さんが本気で相手に腹を立てる時は、必ず誰かのためだから。愛美さんの暴力と暴言は優しい暴力、暴言なんだ。
 だから僕たちが振るう暴力とは理由も種類も違うよ。それゆえに僕が雪野さんに惹かれるなんて無いし、時に今日みたいに僕が間違ったとしても、僕の中で愛美さんを一人にする気もそのつもりもないよ。だから今日指摘してくれた蒼依さんには感謝だし、それは愛美さんの友達なら、嫌でも理解出来てるんじゃないかな」
 冬美さんをしっかり“お断り”してくれた優希君が、私に微笑みかけながら恋人繋ぎをしてる手を今度は痛いくらいに強く握ってくれる。
 もう離さないと言わんばかりに……。
「そう……ですね。確かにそう……です。岡本さんがいて下さったので、あの辛かった孤立の中、中学期の始めも耐えられましたし、役員だって“辞めずに済みました”し、中条さんにもご理解頂けました。本当に悔しくて……悔し……て、たまりませんが……ワタシの。完敗です……っ」
「雪野……おまえもしかして……」
「中条さん。それ以上は……」
 途中からここまで涙しなかった冬美さんの声が変わり、目に涙が溜まり始める姿に驚く理沙さん。
「ですから、空木……先輩はワタシの大切な友達でもある、岡本さんを……大切にして下さい。それから……岡本……さんも。ワタシから、空木先輩を盗ったんですから絶対……幸せになって下さい。でないとワタシの気持ちも浮かばれません……し、岡本さんが不幸になるために、ワタシは負けたんじゃありませんからっ」
「冬ちゃん……強いね」
 彩風さんが何を言ったのかは聞き取れなかった。だけれどその一言で冬美さんの目に溜まる涙があふれる寸前までたまる。
 それにしても本当に不器用で頭の固いとっても可愛い後輩だなって思う。結局は私の気持ちや意図が伝わっていたのも分かったし、やっぱり冬美さんの性格はまっすぐで気高い。
 だから嫌いになんてなれないし、とっても魅力的な女の子だから嫉妬もしてしまうのだ。
「冬美さん。ありがとうね。冬美さんにそう言ってもらえて心から嬉しいよっ」
「僕も愛美さんを幸せにするって誓う」
「……それでは失恋者同士、ワタシたちは……先に帰らせて頂きます」
「あーしの友達を。本当にありがとうございました」
 結局最後まで言葉はつっかえたけれど、涙は流さなかった冬美さん。
 そして礼儀正しく頭を下げて友達のお礼を口にする理沙さん。


 そんな二人を胸をかきむしりたくなるような気持ちで見送った後、
「蒼ちゃん。叱るなら優希君じゃなくて私にして。確かに途中色々あったけれど、優希君は私のために本当に頑張ってくれたの。それに冬美さんにもしっかり“お断り”してくれた。その時にしてもらったお姫様抱っこは本当に嬉しかったの。だからあんな人相手に“隙”を見せてしまった私の落ち度なんだから、叱るなら私にして欲しい。お願い」
 私からももっと優希君への大好きを見せないといけない。でないと冬美さんに顔向けできなくってしまう。
 それに女の子の事は女である私がって約束も優希君としていたのだから、やっぱり逃げるなんて出来る訳が無かった。
「いや待って欲しい。愛美さんを叱るのは違う。大体愛美さんに危害が及ばないようにする、泣かさないって約束したのは僕の方なんだから、叱るなら僕にして欲しい。それにあのムカつく倉本をしっかりと振った愛美さんを叱るって言うなら、いくら愛美さんの親友だからって、愛美さんの頑張りを無駄にしてるみたいで気分良くないよ」
 なのに何と優希君が矢面に立つと言う。だけれどここ最近ずっと私のために自分の時間を潰して奔走してくれたんだから少しはゆっくり休んで欲しいのに。
「良いよぉ優希君。元々女の子の事は女の子がって約束だったじゃない」
「でも愛美さんが大切にしてる親友なんだから、僕の失敗で変な亀裂なんて入って欲しくない」
「……」
 でもお互いの意見を聞く、気持ちを聞いて相手を尊重すると言うのなら、
「じゃあ二人で叱られよっか(る)?」
 まさかの言葉重なり。本当にまさかこんな所まで優希君と気持ち、考えが合うなんて。
 相手の意見に耳を傾ける、気持ちを聞いて尊重すると言うのはしんどい時や難しい時も多いけれど、こう言った喜びもあるんだなって分かる、伝わる。そして……響く。
 私たち二人が微笑み合っていると、とても大きなため息をついた蒼ちゃんが、
「空木君。明日以降愛ちゃんがあの会長に悩まされるのは――」
「――無いよ。倉本があれだけ泣いて、しかも泣いてからも本当に好きだった相手からあれだけ言われたら、多少おかしい神経を持ってたとしても、もう愛美さんにはちょっかいを出せないよ。少なくとも僕なら二度と喋りかけられない」
 確かに途中からあの人も完全に無言だったし、それに対して更に私が腹を立てて、言いたい事を全部言ったのは確かだ。
「それから愛ちゃん。今後好きでもない男の人に好意を寄せられても、告白されても1人でちゃんと断れるんだね」
 ひょっとしたら誰にも秘密にしている一番近くで応援するって決めている担任の先生を言っているのかもしれないし、今後進学した先での話をしているのかもしれない。
 ただいずれにしても私はもうちゃんとした断り方も分かったし、第一男の人に期待させるような不用意な言動は今後慎もうとも思ってはいるのだ。まあ、何が引き金になるのかは優希君しか男の人を知らないのだから確約は出来ないけれど。
「そんなのもちろんだよ。これからはしっかりと“お断り”した上で、どうしても分かってもらえなさそうなら、ビンタくらいはしっかりするよ」
 相手をひっぱたいて分からせるって言うのはお母さんの受け売りだけれど。
「……分かりました。恋愛上級者から恋愛マスターとなった二人には、私から言える事はもう何もありません。その代わり今後恋愛で分からない事が出てきたら都度色々聞かせてもらうからね」
 え゛。
「いやちょっと待って蒼ちゃん。私、男の人って優希君一人しか知らないんだから恋愛初心者だって――」
「――ありがとう愛美さん。出来れば愛美さんにはそのまま僕以外の男なんて知って欲しくない。僕が男を全部教えたい」
 って優希君も何で蒼ちゃんの前でエッチな気持ちを出しているのか。そう言うのはもっとこう、二人きりで雰囲気が出てからなんじゃないのか。もちろんそんなのまだまだ先の話だけれど。
 こんな話を特別厳しくなった蒼ちゃんが聞いたら黙っているわけが――
「――……空木君が愛ちゃんに本気なのは分かった。そう言うのは愛ちゃんと二人でゆっくりと話し合ってくれたら良いけど、愛ちゃんを泣かせたらの約束の件は有効だからね」
 って何で蒼ちゃんまでそんな肯定気味なのか。今までの蒼ちゃんならそう言うのは早すぎる。男の人はそんな事ばっかりって怒るところなんじゃないのか。
「――そのたった一人でもしっかりと相手の意見に耳を傾けて、今みたいに気持ちと言葉を重ねられる。その上、お互いが他の異性に惑わされる事なくしっかりと大切にし合える。更に言えばお互い隠し事なく、本音で話し合えた上、しっかりと信頼「関係」も築けてる。おまけに今もずっと離さないで恋人繋ぎをして。それから――」
「――って! 分かったから。もうそれ以上は恥ずかしいから辞めよ?」
 どれもこれも当たり前で基本的な事なのに、これで恋愛マスターは無いと思うし、そう言うのはやっぱり色々な対策がポンポン出て来る理沙さんの方が合っていると思うんだけれど。
 それでもここで納得しておかないと際限なく続きそうだったから、半ば投げやりに認めてしまう。
「じゃあ最後に。これからも二人で仲良くやって行く事。分かった?」
 この質問に返事が重ならない訳が無いんだから、結果なんて言うまでもなく。


 その後は蒼ちゃんも早く帰らないといけないからと、早々に引き上げる。そして私たちもさすがに今日は疲れたからと、優希君との二人だけの時間はまた誘ってくれるであろう日曜日のデートまで取っておくとして、今日は帰路に就く。
 その後、今日は本当に早上がりをしたのか……は分からない時間になってしまった私をお父さんが出迎えてくれる。
「愛美?! どうだった? ちゃんと断れたか? 不届きな男子に逆上なんかされて無いか?」
「ねーちゃん。俺が代わりに殴るか?」
 と言うよりかは迫って来るお父さん。と珍しく私を待っていたっぽい慶。まあ時間が時間だから帰っていない方がマズいんだろうけれど。
「大丈夫だって。ちゃんと断ってしっかりと私が大嫌いだってのも分かってもらえたよ。それよりも本当にお父さん早上がりしたの? ――慶も。何でもかんでも殴るとか言い出さないの」
 娘がただ受ける告白くらいで。しかも断るって初めから分かっているはずなのに。まあ私はあの人を三回殴ってビンタもかましたけれど。
「そんなの当たり前じゃないか。そもそも今日は本当はお父さん休んで学校まで付き添いに行きたかったくらいなんだぞ。なのにお母さんが愛美を信用しなさいって聞いてくれなかったんだ」
「んな事言うけどな。男は言って分からなければ殴るしかねーんだよ」
 ええぇぇ……学校までって。いくら何でもそんなの恥ずかしすぎるに決まっている。しかも学校までついて来られたら優希君を隠せなくなってしまうから、もっと話がややこしくってしまう。
 しかも慶の方も最後にはひっぱたくのを許したお母さんと一緒の発想になっているし。やっぱり最後は親子なのかもしれない。
「お父さんは何を私のせいにしようとしてるんです? 私は愛美にはしっかりと断りなさいと言ったんですけど。まさかお父さん。私の話も愛美の信用もどちらもして頂けてなかったんですか?」
 私が慶に対する言葉を探している間に、やっぱりオカンムリのお母さんがリビングから顔を出す。
「そうじゃないだろ。愛美が心配な俺の親心だ」
 お父さんがキリっとした表情で言ってくれるけれど、お母さんのご機嫌が例のごとくだんだん斜めになって行く。
「愛美が心配なら早く今日の診察へ連れて行って下さい! もうすぐ病院終わりますよ! なんだったらこのまま私が行きましょうか? 来週の火曜日はお父さん仕事ですから、もうお父さんの送迎は無くなりますけど良いんですね」
 あ。そうだ。今日は統括会だから金曜日だった。あんな人の告白の件で完全に吹き飛んでしまっていた。
「……すぐに行きます」
 しかもさっきまでのキリっとしたお父さんはどこへ行ったのか、結局お母さんに言いくるめられるお父さん。

 そのお父さんの帰りの車内にて。
「愛美がしっかり断って良かった。それに相手の男もそこまで本気じゃなかったんだな。だったら尚の事断って良かったじゃないか」
 行きの車内と同じ内容を延々と話し続けるお父さん。でもこの調子だと今日のあの人の所業、私への迷惑極まりない想いを話したら最後、学校へ乗り込んで行ってしまいそうだ。
「だいたい間もなく受験なんだからみんなそんな暇なんて無いって」
 実際はそんな訳ないのだけれど、こう言っておかないとお父さんの話が中々終わらないのだ。
「そうだな。これで愛美も後は受験を残すだけだな。しかも家から通える学校だからお父さんも安心して愛美の受験の応援が出来るな」
 まあ確かに後は受験を残すだけなんだけれど、その前に教頭の課題が残っているしその受験だって通らない事には笑顔で卒業と言う訳にも行かない。
「みんなに良い報告が出来るように私もラストスパート。勉強頑張るよ。応援してくれてありがとうお父さん」
 そう言えばひょっとしたら卒業式の日に先生から告白もあるかもしれないんだっけ。
「ああ。それで病院の方だけどもう今日で最後だったりはしないのか?」
 もう何とも無くなった私の顔を見ながら、聞いてくれるけれど順序が逆なんじゃないのか。
「何で? 後一回最後月末にあるよ? でもまあもう何とも無いって言われているから最後は形だけになるだろうって言ってもらってはいるけれど」
 でもまあお父さんからしたら娘の私を色々心配してくれるのは、くすぐったくも嬉しいのだから別に嫌悪する必要も隠す必要も何もない。
「いやな。母さんばっかり愛美の顔見てるから、たまには母さんに悔しい思いをして欲しくてな。今日が最後だったらお父さんが愛美の送り迎え最後になるだろ?」
 かと思ったらこれだ。しかも何を子供みたいな理由を言うのか。これだったら言わなければ私もお母さんに言わなくて済んだはずなのに。
「分かった。お父さんが悔しがるお母さんを見たいって言ってたってお母さんにも伝えるね」
 大体お母さんのお父さんに対する情熱や想いの深さを理解してもらわないといけないのに、何をお母さんにイジワルしようとしているのか。
 いくら好きな女の人をイジワルしたくなるからって、私を巻き込むのは駄目だと思うんだけれど。そう言うのはちゃんと好きな人に対して直接してもらわないとお母さんに気持ちが伝わらないんじゃないのか。
「違うんだ愛美。お父さんだって母さんに負けないくらいには愛美を大切に想ってるって分かって欲しかったんだ」
 だったらお母さん云々なんて言わなくて良かったと思うんだけれど。
「私。お母さんに隠し事なんて嫌だよ? だからしっかりお母さんと話し合ってね」
「え~み~。お父さんにイジワルしないでくれよ~」
「?! ちょっとお父さん危ない!」
 本当に我が家の男は子供なんだから。
 お父さんの危ない運転にヒヤヒヤしながら、今日も夜間診察を終えて改めて自宅へと帰る。

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