第207話 思い込みと早とちり Cパート

文字数 6,265文字



――――――――――――――エコーチェンバー 1 ―――――――――――――

 私の方は確実に初対面だって言えるのに、端から見ても分かる程文句がありそうなのが分かる表情を浮かべる名前も知らない女生徒の元へ行くと
「ちょっと。いくらモテるからって、あんな才色兼備な倉本君からの熱烈なアタックを断るとか、逃げ続けるとかいくら何でも調子乗り過ぎじゃないの?」
 本当に私宛ての文句だった。しかもまたあの人絡みだし。関係ない人を焚きつけてこう言うのまで絡めて来るとか本当に辞めて欲しいんだけれど。
「あの。私がモテているとか風評バラ撒くの辞めてもらえる? それにあんな人からの熱烈なアタックとか本当にこっちは迷惑しているの。だから同じクラスなんだったら、あの人にもうこっちには来ないように言ってくれる?」
 どうせ今日の放課後にはしっかりとケリをつけるつもりなのだから、これくらいのフライングは良いかと思ってハッキリ言わせてもらうと、
「何その言い方。まさかあの倉本君の気持ちが迷惑とか言ってんの? それって倉本君と付き合いたくても付き合えない人をバカにしてるよね。あの倉本君に断られた人が何人いると思ってんの?」
「あのさ。さっきから聞いてたら何それ。あの会長は人気があるみたいだけど、このクラスではあんな会長なんて誰も良く思ってないし、あの会長に断られるどころか告白なんてする節穴なんていないって」
 私が女生徒からの文句に応戦していたら、なんと後ろから九重さんが参戦して来る。
「あんな会長って……この学校の女子の大半を敵に回すような発言までするの?」
「悪いけど俺らだって、あんな会長に感謝なんかしてないぞ。むしろこのクラスであった事を思えば、本当に毎日来られて困ってるんだ」
 その上あまり喋った事の無い男子まで、出て来る始末だ。
「そんなの他のクラスには関係ないじゃ――」
「――何で関係ないとか言い出すの? 違うクラスの女子生徒も関係してんじゃん! なんでおんなじ学校で同じ学年なのにそんな他人みたいに振舞えるの?!」
「……ひょっとしてあんたが昼休み倉本君を追い返したの?」
 しかも割と酷い言葉を口にした瞬間、咲夜さんが食って掛かるけれど、昼休みの話なんて私は何も聞いていない。と言うか咲夜さんたちと一緒にお昼していたんだから、あんな人の話なんて関係ある訳が無い。
「あ。それうちだけど」
「何で岡本さん本人が答えないの? 自分は男子にもてるからってお姫様気取――」
 どこかで聞いた事のあるセリフを耳にしたところで、
「――愛美さんはそんな人じゃないし、会長がどこで何しようが関係ない。だけど毎日毎日普通じゃない雰囲気を纏った会長がこのクラスへ来て、愛美さんを探してるのを見てみんな戸惑ったり困ったりしてるのは本当なの」
 まさかの咲夜さんからの反撃と言うか、反論。
「あの倉本君の行動が迷惑って……部活だってみんなを思って学校側と交渉してひっくり返してくれたんじゃないの? そんな男子に何て言い方をするの? 良いから倉本君の気持ちに応えなよ。あんなに能力が高いのに何をもったいぶってるの?」
「応えたらって……あたし達のクラスで起こった事件もあるのに、無遠慮に毎日来る会長なんかにあたしの大切な友達を預けられない」
 とてもじゃないけれど、さっきまでドロドロした話は、お腹が痛くなると言っていた咲夜さんとは別人みたいだ。
「あのさ。その前にもう一つ聞きたいんだけど、何で他クラスでほとんど面識もないあんたが、逃げ回ってるとか、返事を断るとか知ってんの? そんなの他人のあんたに関係ないんじゃないの?」
 それまで咲夜さんに任せて黙っていた九重さんが口を挟む。
「……その倉本君が岡本さんに振り向いてもらえない、アタックすらもさせてもらえないって。しかも倉本君に協力したはずの女子にも裏切られたって悩んでるのよ」
 ……自分勝手にも程があると思うんだけれど、何となくクラスがざわついていた理由だけは分かったけれど……私たち女の子のせいにした挙句、今度はそれをクラスで愚痴ったのか。もう何て言うか、学校側には勝手な提案をするわ、このクラスで起こった気持ちも何も考えないわ、挙句の果てに私の友達を裏切り者扱いをした挙句、自分のクラスで愚痴って。
「何それカッコ悪。自分が惚れた女の子一人ですら、自分で振り向かせられないのはいくらなんでもカッコ悪すぎるよ。あたしがそれを愛美さんに気付かせてもらって、会長との協力関係を解消したんだよ。大体ちょっと自分の思い通りにならなかったらすぐに怒鳴ったり人の責任にするような男子なんてどう考えてもカッコ悪いし、常識で考えて友達を渡せない」
「……」
 咲夜さんも同じような感想は持っていたのか、自ら解消した人間だって打ち明けた上、あの人に対して辛辣な感想を並べ立てる。
「そう言うあんたもとてもじゃないけど、あの倉本君の相手が務まるとは思えない程ブスね――『ちょっと待って。今、私の友達――』――『あんな会長からの印象なんてブスで十分。その分あんな会長の対象にならないなら願ったり叶ったりだから』――」
 ……また私の喋る必要がないくらいに。
「ごめん。もう一つこれは絶対お願いしたいから念押しの意味で追加良いかな――さっきから岡本さんやその友達、それに昼休みに追い返したって言う、うちらにまで文句があるなら、このクラス全員あんな会長なんてよく思ってないから、もうこのクラスに顔出すの辞めてくれる?」
「――っ。ふんっ! 気分悪い。今日はもう帰る」
 何が気分悪いなのか。呼んでもいないのに自分勝手に文句を吹っかけに来て、好き放題言った上で、こっちの気分を勝手に害して……私がこのまま黙っている訳が無い。
「あんな人にすら相手にされないブス、ちょっと待ちなって」
 私はこの女の言葉を出来るだけなぞらえて、その足を止めてやる。
「岡本さん……今自分がモテるって鼻にかけたのよね。本当に性格も悪いのね。それで何の用なの? そこらじゅうの男にモテまくる岡本さん」
 だけれど更に私を挑発してくるこの女生徒。天城よりかは頭は回りそうだけれど……それもここまでで、これ以上は勝負にも相手にもならない。
 なぜならば、頭が足りてないからだ。
「ああごめん。そこのアホ女『岡本っ! お前っ!』――才色兼備って言葉は一般的に女性に対して使う言葉だから、あんな人に使うなんて失礼だって教えておいてあげる。まあ、何でも人のせいにするあの女々しい人にはお似合いだろうけれど。
 まああんたに使う機会があるかどうかは分からないけれど、男の人を褒めたかったら“眉目秀麗”だから。受験生なんだからいくらアホでもそれくらいは知っておきなよ」
「ん。正解。愛美が突っ込まなければあたしが突っ込んでた」
「~~っ」
 そもそも言葉の使い方自体がおかしいのだから、全く話にならない。
 確かに半分は皮肉もこもっていたけれど、受験対策として教えてあげたのに、
「あっ! 副会長! 岡本さんってものすごくネコかぶって性格も悪いんで考え――」
「――またこの手合い? 愛美さんの優しさを分からない人が、勝手な事は言わないで」
「――っ?!」
 余計な一言を口にしてしまったがために、余分にダメージを受けて逃げ帰る女生徒を見送る。


「月森さん……やるじゃん。正直ちょっと見直した」
「ありがとう。でもあたしだって色々間違ったり迷惑もかけて来たけど、今の気持ちはこのクラスのみんなと同じ気持ちだから」
 なんか私たちの前で分かり合ってくれるのは嬉しいんだけれど、
「優希君もありがとう――九重さん。今日の昼休みまた来ていたの?」
 昼休みの話を私は全く聞いていないんだけれど……別にあんな人なんてどうだって良いのは今更だけれど、ひょっとして今日の放課後の話をしに来てくれたのかと思うと、優希君や特に機嫌の悪い蒼ちゃんに伝えるタイミングが遅くなってしまう。
「確かに来たは来たけど、このクラス全員あの会長の話なんてしたくなかったから、誰も言わなかっただけ。それに今日会長を追い払ったのはそこのキモ男よ」
 九重さんの話に“何で島崎なんかを推すんだ”とか“抜け駆けした島崎なんて玉砕しろ”なんて言葉を織り交ぜながら、男子が色めき立つ。
 確かに朝礼の雰囲気からそう言う雰囲気を感じてはいたけれど、私を助けてくれた男子にそんな失礼な。
「あの人を追い払ってくれてありがとうっ――?!」
「ふ……ふんっ! だから女は、はしたない言葉や足も上げずに、大人しく男に守られとけば良いんだ」
 お礼を言おうと振り返った先にいたのは、いつも通り女の子に失礼な事ばかり言っているあのメガネだった。
 私がびっくりして固まる中、何でか教室もそれに合わせて静かになる。
「だからキモ男って言ったでしょ。だから余計にみんな昼休みの話をしたくなかったのよ」
 そして最後、九重さんの結論にクラス全員の顔が縦に動く……男子の方がより大きく。
「それじゃうちも帰るけど、そっちの副会長はくれぐれも岡本さんをお願いしますよ」
「えっと……僕は良いの?」
 優希君も私のたった一人の彼氏なのに、他の女の子に何を聞いているのか。これで九重さんが駄目って言ったらどうするつもりなのか。
 聞き入れてしまうつもりなのか。これも後でじっくり話し合うんだからっ。
「良いも悪いも、岡本さんが嫌がるどころか、自分から寄って行ってるくらいだし『……』この教室で放課後に月森さんをフッて二人でキスしてたでしょ?『~~?!?!』つまり二人は付き合ってるんだから、下手に反対して岡本さんに泣かれたらこのクラスの雰囲気が悪くなるのよ。だからそんなに機嫌を悪くしなくても男子はともかく、このクラスの女子はみんな味方なんで安心して下さい」
 一方九重さんがあまりにも恥ずかしい事を口にする度に、半分も残っていないクラスの雰囲気と言うのか、主に男子の反応が顕著に変わる。
「ふふっ……ありがとう九重さん『?! ……っ』本当に嬉しくて自信になるよ――痛っ」
 なのにクラス中の女子を味方にした上、九重さんに良い笑顔で鼻の下まで伸ばして。このあともう少ししたらあの人からの告白を聞くって分かっているのか。しかもこの九重さんも何、人の彼氏をずっと見続けているのか。
「ちょっと九重さん?」
「っ?! じ、じゃあうちはもう帰るから」
 腹立った私が、心ここにあらずな名前を呼んでやると、びっくりしてそのまま帰って行ってしまう。
 これってどう考えても優希君が原因なんじゃないのか。しかもまた新しい女の子の感情を引っ掻き回そうとしているし。
「優希君。私のクラスの女の子みんなを味方につけただけじゃなくて、鼻の下まで伸ばした事後でじっくりと聞かせてもらうからね」
 私の手を取ろうとしてくれた優希君の手をひらりと躱してしまう。
「僕だってよりにもよって、あの島崎に可愛い笑顔を向けた理由しっかりと聞かせてもらうから」
 あ。酷い。私のクラスの女子に伸ばした鼻を否定してくれない優希君。
「ふぅん。じゃあ優希君はあの人が私のクラスに毎日来てもなんとも思わないんだ。私、寂しいな。今日の九重さんとのやり取りも含めて優珠希ちゃんや朱先輩に相談しよっかな」
 だったらそのままの私で良いって言ってくれた面倒臭い私を存分に出すだけだ。
「優珠にって……僕は愛美さんにしか興味は無いって何回も言ってるのに」
 かと思ったら優珠希ちゃんの名前を出した瞬間、態度が急変する優希君。
「実祝さん。この二人の今のやり取りが、あたしの知ってる甘酸っぱい恋愛なの。間違ってもあんなお昼みたいなドロドロした関係の恋愛なんて求めてないの」
「咲夜少し落ち着く。この二人は今は恋愛してるんじゃなくてじゃれ合ってるだけ」
 私の中で冬美さん、彩風さんの他に優珠希ちゃんやあの若いだけの張りぼて後輩女子にドロドロした感情が渦巻いているのに、咲夜さんはまたいつもの悪い笑みを浮かべながら、一人楽しんでいるし。
「でも下手したら来週からは、九重さんを交えた新たな三角関係――」
「――ちょっと咲夜さん。私もう一回喧嘩するの嫌だよ? だからお昼の説明もう一度詳しくもっと時間を使って説明するよ。それに人の心を勝手に吹聴するのも駄目だって前にも言ったよね」
 私は、このまま優希君にからかわれて恥ずかしい思いばかりをさせられるのは、今後の関係を考えるとどうにも良くないと本当に必死なのだ。
「了解であります! 今日は大人しく帰るであります!」
「……咲夜。目が笑ってる」
 私の一言に大人しくなる咲夜さんに空かさずの一言。
「咲夜さん。この件が片付いたら優希君の次にお話ね」
「そんなっ?!」
 そして私のダメ押しに悲鳴じみた声を上げる咲夜さん。そんなに私との話は嫌なのか。本当に失礼するんだから。
「それじゃ僕たちはこのまま行くから、今日はありがとう」
 だけれどそんな咲夜さんに対しても、一度は告白された間柄なのに特別意識することなく、気付けばいつものように当たり前のように私のカバンまで持ってくれた上、いつの間にか私の腰にまで手を回してくれる優希君に添う形で、部活棟役員室へと向かう。
「やっぱりあの二人は素敵」
「……」
 実祝さんの声を背に。

―――――――――――――エコーチェンバー 1 完―――――――――――――

 その後部活棟の前まで来た私たちだけれど、しっかりと私の腰に手を回してくれていた優希君が私自身を捕まえてくれているのが伝わったのもあって、少し変な汗をかいたり体が強張ったりはしたけれど、あの休日の校内デートの時のように動けなくなる事なく、部活棟の中へと歩を進める。
「あれ? どうしたの? 理沙さん」
 その途中、どの部活にも入っていなかったはずの理沙さんを部活棟内で見かけてびっくりする。
「……昼から学校へ来たは良いんですが、不安定でボロボロだった彩風が心配で三階まで付き添った帰りですけど……愛先輩以外の女にその腰にある手を回したら、あーしが副会長を“グー”でもう一回行きますからね」
「僕だって例え中条さんでも、愛美さんを泣かせたり変な言葉を教えたりしたらすぐに蒼依さんに報告するつもりだから」
 かと思ったら二人が険悪――でもないのか。言葉とは全く違う表情を浮かべる二人。
「……つまりお互いって事ですか」
「そう言う事」
 何となく私がそうしたくなって、優希君の脇腹当たりに手を添えると、
「とにかく彩風と愛先輩、それに雪野もあのクソ会長から守って下さいよ。それじゃあーしは彩風が心配なんで終わるまでどこかで時間潰してますんで」
 最後まで私たちを心配してくれた理沙さんを見送って、今までの浮ついた気持ちを全て切り替える意味でも、お互い離れて気持ちを落ち着けた上で私たちも三階役員室へと向かう。

―――――――――――――――――次回予告―――――――――――――――――
          最後の直前まで波乱含みだった教室内
  それでもクラスのみんなが団結して、もろとも追い払った他クラスの二人
       その中にあっても全く音沙汰の無い、当人からの連絡
              そこに焦燥を覚える周り

       そして後輩に送られていた信じられないメッセージ
              その中で開かれる統括会

          「分かった。それでどこに行くの?」

           次回 第208話 近くて遠い距離 終
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