幕間講義 7 ストーカー規制法 (中)
文字数 9,248文字
倉本:さっきから聞いてたらあまりにもあんまりだろ! 大体好きな女に自分の気持ちを
伝える事のどこがいけないんだ?
優珠:……愛美先輩。わたしが言い負かしても良い?
佳奈:あ。優珠ちゃん。本気やね
愛美:こんな人と今は喋りたくないから、優珠希ちゃんにお任せするね
優珠:ありがとう愛美先輩
倉本:自分の気持ちを伝えない事には始まらないだろ
優珠:自分の気持ちを伝えるって、愛美先輩は何度も断ったんじゃないの?
倉本:俺の岡本さんへの気持ちは、一度断られたくらいじゃ諦めのつく程遊びだった訳じゃ
ないんだ!
優珠:それで愛美先輩の友達にまで怒鳴るの? それで気持ちが伝わると思ってんの?
直実:優珠ちゃん凄いな。これ、【ストーカー規制法 第二条四号】を意識してるんだな
倉本:あの時は俺も悪かったって、ちゃんと謝っただろ
優珠:相手に伝わらない謝罪に何の意味があるの? しかも直接謝った訳じゃなくて、愛美
先輩に適当に頼んだんじゃないの?
倉本:そんなの俺の目的はあくまで岡本さんなんだから、岡本さん以外に誠意を見せても仕方
がないだろ
実祝:なんて言うか、言葉が出ない
慶久:なんかこいつ、ねーちゃんを全然理解してねーな
優珠:それに毎日毎日約束もしてない、頼んでも無いのに教室に来て何のつもり?
穂高:そして次は【ストーカー規制法 第二条一号】を意識してるのね
倉本:どうもこうも、少しでも岡本さんの顔を見て話がしたかっただけだろ。なんでどいつも
こいつも俺の行動にイチイチ文句をつけるんだ?
優珠:だったら毎回愛美先輩の教室に来ずに、約束をしてから来たら良いじゃない。いくら
性犯罪者でも愛美先輩のクラスで起こった事件は知ってるんでしょ?
結芽:なんなのこの後輩は。どうして細部の事情まで知ってるの?
咲夜:愛美さんの知り合い、友達ってこんな人ばっかだよ?
倉本:知ってる決まってるだろ。だからって遠慮してたらそれこそ空木の思うままだろ
優珠:……
佳奈:アカンで? 今は言い負かすんやろ? 暴力はアカンで?
優珠:……ありがと、佳奈――それってつまり愛美先輩からはもう答えを貰ってるって事じゃ
ないの?
愛美:そうだよ! 私にはもう優希君がいるって何回も言ったんだよ?! これは本当だからね
優希:大丈夫。僕はちゃんと分かってるから
倉本:――くっ
優珠:それから、愛美先輩が自分の意思を表示してるのに、電話に出ろとか一緒に昼しろとか、
役員の打ち合わせにかこつけようとした事もあったわね。それがどれくらい怖くて、
精神的負担になるのか分かってんの?
朱寿:そして【ストーカー規制法 第二条第三項】に繋げるんだよ(下手しなくてもわたし
よりきれいに理詰めしてるんだよ)
倉本:怖いって……空木やそこの霧華とは、昼によく話し込んでるくせに、何で俺だけが駄目
なんだよ。それって業務妨害じゃないのか?
優珠:何ゆってんの? 役員の時間に応じないならそうだけど、なんで通常の自由時間に話さ
ないからって業務妨害になるのよ。そもそも生徒手帳に書いてある統括会理念に、活動
の原則は毎週金曜日って書いてあるじゃない。それにそれ以外の場合は、性犯罪者の
招集って書いてあるけど、性犯罪者。招集なんてかけたの?
優希:少なくとも僕は一度も聞いてないよ
冬美:大丈夫です。ワタシも一度も受けた事はありません
優珠:性犯罪者に聞くまでもなかったわね。つまりアンタは嫌がる愛美先輩の教室に、何の
連絡もなく意味もなく毎日顔をのぞかせ愛美先輩だけでなく、クラスの人間まで嫌な
想いをさせた訳ね
倉本:じゃあ俺はどうしたら良かったんだよ。岡本さんを諦めろって事なのか?!
女子:(だからみんな初めからそう言ってるんだけど)
優珠:わたしもそうゆいたいけど、あくまで法に則るなら、愛美先輩に事前に連絡して、時間
を場所を決めるのは筋じゃないの? もちろんその段階で断られたら、諦めるないしは
次週の統括会まで待つ。普通の話じゃない
倉本:だからそれだと時間が無いんだよ
実祝:駄目。矛盾してる。話すだけ無駄
優珠:時間がないって何よ。愛美先輩に対する時間がないって意味が分からないんだけど
倉本:雪野の件もあったんだよ
優珠:だったら尚更、活動の補足欄にあるように、臨時の統括会の招集をかけたら良かった
じゃない
倉本:二人だけで話をしたかったんだよ
咲夜:役員の話を二人だけって……
優珠:理由にも一貫性はないし話にならないわね。なのにクラスの人には性犯罪者が来たって
伝えて、その普通じゃない雰囲気もばらまいて、それがみんなを不安にしたって分かっ
てる?
直実:(……ここからどう持っていくか。見ものだな)
倉本:何で俺が来ただけでみんなが不安なんだよ。普通は俺が来たらみんな喜ぶんじゃない
のか?
理沙:はぁ? 自意識過剰のナルシストは心の中だけにして頂けます?
結芽:それに関してもうちら、教室内で直接来んなって、迷惑だって言ったはずだけど
実祝:それは咲夜も怒鳴られながら何度も頭を下げて言ってるし、あたしも隣で聞いてる
愛美:みんな……本当にごめんね。
咲夜:別に愛美さんが悪い訳じゃないんだから、謝らなくてもいいよ
巻本:俺のクラスの生徒に頭を下げさせるなんて、完全に〖強要罪〗じゃないか。おい倉本。
お前俺のクラスで起こった事件の大きさと重大さ、本当に分かってんのか?
倉本:……
穂高:ちょっと先生。お気持ちは分かりますが、今は押さえて下さい
優珠:――クラスのみんなにこれ見よがしと、その雰囲気を植え付けて、愛美先輩に伝わる
ように仕向けて。愛美先輩がどれだけ不安だったのか分かんないんでしょうね。
性犯罪者には
直実:――(惜しいな)
蒼依:空ちゃん。その件については理っちゃんが愛ちゃんに、既成事実がどうのこうのとか
言ってあの人が来たのを伝えて不安を煽ったんだから、理っちゃんを叱るのが筋だよ
優珠:……調子乗り女。それは本当?
理沙:だ。だったら何なんだよ。前もって言っといた方が愛先輩も対策を練れるだろ!
彩風:中条さんが怖がってる?
佳奈:優珠ちゃん、本気でキレたらこんなんじゃ済まへんからなぁ
咲夜:ひえぇ……後輩が愛美さん並みに怖いんですけど
実祝:多分愛美の方が怖い
結芽:岡本さんの方が怖いって……すごい雰囲気出てるんだけど
優珠:どうして男嫌いの調子乗り女が、愛美先輩に性犯罪者の目論見をゆうの? そんなの
愛美先輩にゆう前に、知られる前に調子乗り女が全部潰せば良いじゃない。そんな事も
分からないの?
理沙:――!
優珠:愛美先輩に性犯罪者が監視してる、追いかけてるのを伝えて不安に追い込むなんて、
自分のしでかした事分かってんの?
朱寿:蒼さん……ナイスフォローなんだよ
直実:さすが。たった一つのフォローだけで完璧に
【ストーカー規制法 第二条第二号】を踏襲したな
蒼依:その件は、劇中では私が改めて理っちゃんにお説教だから、この幕間講義では空ちゃん
にしっかりと叱ってもらってね
愛美:蒼ちゃんも優珠希ちゃんも。理沙さんは私の為を想って先に伝えてくれたんだから、
あんまり叱らないでね。それにその件の不安も咲夜さんが上手く溶かしてくれたから、
不安だったのは午後の授業だけだったよ
咲夜:愛美さん……こんなあたしでも愛美さんの役に立てて良かった
実祝:“こんな”じゃない。立派に愛美の友達出来てる
蒼依:……
倉本:不安に追い込むって……俺はただ岡本さんを探してたって――
優珠:それも一日の話なら理解出来るけど、毎日毎日……酷い日には一日に二回も三回も……
誰だって不安にもなるし、性犯罪者と交際してるなんてなったら、愛美先輩だけじゃ
なくてお兄ちゃんやわたし、それに佳奈も心痛めるの
優希:優珠……
佳奈:優珠ちゃん……
優珠:それから調子乗り女。これだけはゆわせてちょうだい。
理沙:……なんだよ
優珠:調子乗り女が良かれと思って愛美先輩への助言、情報提供だけどさっき矢山さんが読み
上げてくれた第三条の後半部分にあった“行動の自由が著しく害される不安を覚えさせて
はならない。”に抵触するから、愛美先輩が被害届を出したら、調子乗り女も捜査・処分
の対象になるから
倉本:でもそれで俺は一度も何の得もしてないぞ?
理沙:はぁ? なんであーしが性犯罪者に協力しないといけないんだよ。あーしはただ愛先輩
の身の安全を考慮しただけだっつうの。勝手な解釈は辞めろって
優珠:何を屁理屈ばかりこねてるのよ。当事者である愛美先輩がどう思ったのか、それ以外に
何が重要なのよ
佳奈:確かにそうやな
蒼依:確かにも何も、愛ちゃんも私も、それにほとんど不眠不休だった空木君と空ちゃん
だってみんな心が潰れる寸前だったんだから
実祝:蒼依ごめん。それはその四人に限った話じゃない。あたし達のクラスも本当に空気
重かった
結芽:逆に考えるなら、それでクラスの結束は強くなったけど、実は表現に出てないだけで
体調不良者も出てたから
咲夜:一時期養護教諭の表現が無かったのもそのためだっけ
冬美:会長お一人のせいで、本当に被害甚大だったんですね
彩風:アタシはこんな人に……
穂高:それは仕方ないんじゃないかしら。恋は盲目とも言うし、今まで知らなかった面が突然
出てくる場合もあるし失恋の中でかける言葉じゃないけど、付き合う前に分かって
良かった。私たち女側からしたらそう思うしかないんじゃないかしら
直実:それも少しいいですか? 先生
穂高:え……ええ
直実:それもまた何も女性に限った話じゃありませんよ。男性だって付き合ってから豹変する
女性を目にする場合もありますし、男女とも付き合ってから分かる浪費癖なんかもあり
ますから、やっぱり女性だけに限った話じゃないんです
巻本:……なんかさっきから伺ってると、養護教諭って実は男性とのご経験は――
理沙:――はいダウトダウトぉ! 先生! それは明らかなセクハラです! 教頭先生を
呼んできます!
優珠:こういうのはこの調子乗り女に任せても大丈夫ね
実祝:変なところで信用を勝ち取る後輩だった
愛美:それに本当に大好きな相手なら、相手に酷い事されて涙するのは男女関係ないと思うな
慶久:ま。これだけの事があってもねーちゃんはこうだよな
蒼依:だから愛ちゃんは、私たちが周りでフォローするの――そこのブラウスの人とは違って
朱寿:今回は本当にごめんなさいなんだよ。でも愛さんを大切に想う気持ちも誰にも負けない
んだよ。それだけは分かって欲しいんだよ
優希:大丈夫ですよ。同じ男の立場として、あれだけハッキリきっちり言い切ったら、劇中
でも言いましたが、船倉さんの仰る通り気持ちの切り替えをするしかないので、下手な
ちょっかいはないですよ
倉本:どうして……どうしてなんだ。女って引っ張ってくれる男が良いんじゃないのか?
多少強引でも頼りがいのある男の方が良いんじゃないのか?
理沙:……なんかもう、言葉になりませんね
慶久:あの。本気ねーちゃんが好きだったなら、ねーちゃん自身をもっとちゃんと見ろよ。
ねーちゃんがどういう時に生き生きしてるかなんて、初めの方ならともかく、この時点
なら誰がどう見ても瞭然だろ
実祝:弟の言う通り。それに愛美自身は何度も言ってたのに一度として聞かなかった
蒼依:そう言うのを一人よがりって言うの。そんな人に間違っても愛ちゃんは任せられないよ
朱寿:会長の言う理屈は分かるけど、その考えだと男女の脳の違いから永遠に解決しないんだよ
男子:(だ! 男女の脳の違い?!)
結芽:またうちの学校の男共らが反応してる
彩風:この学校の生徒じゃない男子も一人混じってるけどね
理沙:ま。いくら反応しようが、サルなんて相手にしないけどな
冬美:ワタシももうしばらくは殿方はコリゴリです
朱寿:それに、男性にこの脳の違いを悪用されたら困るから、詳細は控えるんだよ
男子:……
実祝:男子の反応……愛美の態度と違い過ぎる
優珠:だから性犯罪者なのよ
佳奈:ホンマに岡本先輩って、噂には聞いてましたけど何でも知ってる恋愛マスターさん
なんですね
女子:?!
倉本:ちょっと待ってくれ! その女子の反応は何なんだ?! 女子だってそのつもりじゃ
ないか!
理沙:あの。あーし。サルにもう一つ文句言いたいんですけど良いですか?
倉本:はぁ? 何で後輩ごときに文句を言われないといけなんだ? 部外者なんだから黙って
てくれ!
結芽:これがうちらの学校のトップかと思うと情けなくなるわね
咲夜:あたしらなんてもっと前からそう感じてるよ
後輩:……
愛美:良いよ理沙さん。私が許可するからこの際洗いざらい喋ってよ
理沙:愛先輩っ!
彩風:こうやって中条さんは愛先輩に入れ込んで行くんだね
優珠:結局みんな腹黒に染まって行くのね
佳奈:――優珠ちゃん。岡本先輩に人気があって寂しいんは分かるけど、話進めんで
理沙:それじゃ愛先輩の許可も出たところだし遠慮なく行かせて頂きますけど、
理沙:あの、雪野に送ったメッセージは何です? ふざけるにもほどがありませんか? 女子
に服を脱げって犯罪ですよ犯罪。
冬美:中条……さん
優希:間違ってもこいつの前で脱ごうなんて考えてないよね
冬美:もちろんです。殿方にもそう言う積極性を嫌う方がいらっしゃると分かった以上、同じ
轍は踏みません
彩風:冬ちゃん……
倉本:どうして自分で脱いだ奴は咎められなくて、提案しただけの俺が責められるんだよ!
蒼依:提案しただけって……男子から服を脱げって提案なんて、ある訳ないじゃないですか!
そんなの女の子からしたらもう強制としか取れませんよ!
愛美:蒼ちゃん……
朱寿:えっと……その話、わたし。知らないんだよ。服を脱げだなんて普通口にする言葉じゃ
ないんだよ
冬美:何でも会長が仰るには、服を脱いでその気にならない殿方はいらっしゃらない。だから
確実に空木先輩を仕留めたければ既成事実を作ってモノにしろと言うのがお考えだった
ようです
咲夜:酷い。蒼依さんを襲った事件を知りながらそんな提案と考えをしてるなんて、いくら
男子がスケベだからって見る目変わるよ
実祝:さすがに男子全員がなんて考えられない。会長だけと判断
理沙:おい雪野。あのメッセージみんなに見せてやったらどうだ?
倉本:おい雪野! お前他人のメッセージをみんなに見せるつもりなのか?!
朱寿:恥を忍んで良いのなら、わたしもそのメッセージを確認しておきたいんだよ
冬美:分かりました。これです
倉本:おい雪野!
結芽:ちょっとうるさいから黙っててくれる?
宛元:会長
題名:達
本文:もう俺は自分の気持ちをこれ以上押さえられないから、今日俺は全てをぶつけて岡本
さんを落とす。
その際に一切の邪魔をされたくないから同日の今日、雪野も空木に告白してくれ。
あれだけ度胸も意気地もない空木にはまだ女の経験なんて無いだろうから、今度は胸を
触らせるとかそんな生温いやり方じゃなくて、雪野が脱いで空木に女を教えたら、空木
は絶対落とせる。それは同じ男の俺が保証する。以上。
補足:今回俺が形に残したのは、俺の覚悟だと受け取ってもらいたい。その気持ちからだ。
実祝:なにこれ。酷い。これは女子だけに限らず捉え方によっては男子相手にも酷い
直実:さすがにこれは俺でもちょっと思うな
巻本:おい倉本。これはもう生徒指導室どころじゃないぞ。明らかに処分ものだからな
倉本:でもあのメッセージは俺の覚悟とともに書いただけで、元々は雪野が――
教頭:――分かりました。その続きはこの後、生徒指導室で伺いますので、学校へ戻る準備を
して下さい。良いですね
愛美:教頭先生?!
教頭:岡本さんでしたか。以前にも一度お邪魔させて頂きましたが、隅々まで手の行き届いた
綺麗な家ですね。ご家族の方のお人柄が伺えます
愛美:?! はい! 私にとって自慢の家です
教頭:そうでしたか。それは何よりです。それではこの講義は私も聞かせて頂くとして、
その後は倉本君をお借りしてもよろしいですか?
愛美:はい! もちろんです! 出来ればこの背景にあった物も全部明るみにして下さい
佳奈:なんか岡本先輩、すんごい笑顔やね
兄妹:――
慶久:あれは家族を褒めてもらって嬉しい時の表情だろ
実祝:さすが愛美の弟。愛美を理解してる
優希:優珠と仲良くしてる時の愛美さんの気持ちってこうなのかな
冬美:空木先輩……
教頭:それでは養護教諭と巻本先生。この後はお任せしても?
巻本:もちろんです!
倉本:……
穂高:ごめんなさい雪野さん。このメッセージの件だけど直接何かをされたとか、本当に服を
脱いだりはしてないのよね
彩風:先生! 冬ちゃんはもう改心してるんです。ですからその質問に悪意を感じます
冬美:霧ちゃん……大丈夫です。何もされてません。もちろん服も脱いでません
朱寿:ちなみに今、穂っちゃんが確認したのは雪野さんの身の安全と、〖強要罪〗に当たるか
どうかの確認なんだよ
理沙:〖強要罪〗に当たるかって……それ以外に何があるんだよ
優珠:調子乗り女……アンタとはどこまでも気が合いそうね。だけどこの確認はとても重要
なのよ
優希:僕からも答えると雪野さんはメッセージを貰っただけで、僕の前では服を脱いでない。
どころか僕は雪野さんと二人きりにもなってない
穂高:そう……それだけでも良かったわ。取り敢えず全部把握できたから説明するわね
直実:はい。先生お願いします
穂高:雪野さんが服を脱いでないなら【刑法222条】に定める〖脅迫罪〗になるのよ
彩風:えっと。罪になるのにどうして“良かった”になるんですか?
【刑法 第222条】 脅迫罪
①生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下
の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
②親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅した者も、
前項と同様とする。
優珠:えっとね。この【刑法222条】の脅迫罪は禁固刑だけじゃなくて罰金刑もあるのよ。
だから行政処分としては少し軽くなるの
穂高:逆にここで雪野さんが服を脱いでたら、〖強要罪〗に当たり【刑法223条】に該当すると
【刑法 第223条】 強要罪
①生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を
用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に
処する。
②親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務の
ないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
③前二項の罪の未遂は、罰する。
冬美:……罰金刑がありませんね
咲夜:あ。ホントだ。
直実:つまり、罰金刑なしの直接の行政処分、禁固刑か執行猶予付きの刑かだけになるんだ。
つまりこっちの方が処分は重い
理沙:つまり先生は、こんな犯罪者でも罪を軽くかばうって事なんですか?
巻本:何度も言うが気持ちは分からんでもない。だけど以前の講義で取り上げた通り、子供の
権利条約 がある上に子供と接する機会の多い俺らはどうしてもそこを意識してしまう
んだ
穂高:だからどうしても子どもの未来を考えると、罪は軽い方が良いのよ
優珠:本当に反吐が出るような話だけど
教頭:まさにお二方の先生の仰る通りです。少しは事の重大さを理解しましたか? 倉本君
倉本:でも俺は初めに雪野が脱いだから、それをもう一回したらどうだって提案しただけじゃ
ないですか
佳奈:なんか逃げにしか聞こえんな
結芽:後輩はもう脱がない、同じ間違いはしないって言ってるもんね
優珠:いい。わたしが全部潰す。この【刑法 223条】〖強要罪〗にはちゃんと
規定もあるんだけど
一つ目が、①項にある生命・身体・自由・名誉などに害を加える行為
二つ目が、脅迫又は暴力を用いて、相手の生命・身体・自由や名誉を制限する
最後に、どっちの項にも書いてある“人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使
を妨害した者”つまり義務も理由もない事を強要した事実
優珠:この三つが伴わないと、〖強要罪〗には当たらないのよ
直実:さすがは優珠ちゃん。そして養護教諭が確認して分かったのは、この最後の三つ目。
“人に義務のない事を行わせ”てはいないんだ。だから上記二つに該当しても、最後の
要件を満たさなければ、【刑法223条】の〖強要罪〗は成立しない。
冬美:潰すと言っておきながら会長をかばってません?
理沙:おい空木妹!
優珠:はぁ? 人の話は最後まで聞けよ――メス女も調子乗んなよ?
先輩:?!
優珠:ただし、上記3点を満たさなかったとしても、メッセージに上記内容として明確に残って
いる以上、強要
しようとした
事実は残るのよ。つまり【刑法223条 第③項】部分には引っかかるから、〖強要罪未遂〗として罰する事は出来るの。
だからそこのアバズレ女が言ったように【刑法222条】で片を付ける必要はないのよ
倉本:ちょっと待ってくれ! 俺は脅迫なんてしてないし、暴力なんてふるってない!
それに雪野を襲う害を取り除いた方じゃないか
理沙:ふざけんな! 雪野を守ろうとする犯罪者が服を脱がすか!
優珠:あんたの血の速さ。嫌いじゃないけど少し待ちなさいよ
佳奈:あ~これは完全にキレとるな。ま。無理もないけど
優珠:そこの犯罪者はこのメス女が役員を辞めさせられるって悩んでるのを分かった上で、
反吐が出そうなメッセージを送ったんでしょ? だったら悩んでるのを盾に取った
立派な脅迫なのよ
倉本:脅迫って……俺は何とかして雪野と空木が――
実祝:――無理。あのメッセージで回答の誠意なんて見えない。以上。
優珠:それに初めの要項だって、十分に身体と心に害を与えてるの分かってる?
理沙:空木妹――お前って奴は
倉本:害って……別に服脱いでないし、それで最後まで空木を振り向かせられなかったん
だから結果が全てだろ
咲夜:あの。話を聞いてたら気分悪くなって来たんだけど――別にあたしらは男子に抱かれ
たり男子とエッチするのを期待してる訳じゃないよ。ただ好きな男子だったら抵抗が
ないってだけで、まだ学生だもん、やっぱり不安の方が大きいよ
愛美:咲夜さん
蒼依:……
倉本:だったら何で服脱いだんだよ。そこら中の男と寝まくってる女なんて、それこそ
たくさんいるだろ
――――――――――――――幕間講義7 (後)へ――――――――――――――