第205話 仲間・普通から苦手・嫌いへの終着点 Aパート

文字数 4,268文字




 思いがけず九重さんから聞けた私とあの人との関係性に対する印象。同性である女子があの言葉遣いとか女の子に対する酷さに印象を落とすならともかく、男子からもあの人の印象を落とすと言うのはイマイチピンと来ない。
 ただ同性である男子から見てもあの人の言動は酷いのだと、自分の心の中で結論付けたところで、
「それじゃ、これで終礼も終わるけど明日後一日だからって気を抜くなよー。お前ら受験生にとって合格通知を貰うまでは祝日も何もないと思えよー……」
「せんせー! 過

死で倒れたら、勉強災害の認定はあるんですかー? ――」
 不平不満の漏れる教室内で、今日の終了を伝える号令をかけるけれど、さっき九重さんが教えてくれた内容があまりにも嬉しくて、先生が終礼で伝えてくれたであろう連絡事項は何一つ耳にも頭にも全く入っても残ってもいない。
「お前ら文句ばっか言ってるけどなー、この学校に入学した最大の目標である合格通知を手に出来たら、後はもう卒業を待つだけなんだぞー? ……」
「じゃあ推薦の奴らは残り半年ほど遊び放題か?! ――」
 一言で言ってしまえば何も聞いていないってだけの話なんだけれど。
 そんな事よりも、さっきの話を少しでも早く優希君に知らせたくて、
「出席日数が足りなくて卒業出来なくても良いんならなー。それにお前らこのクラスで過ごす時間はあと少しだぞー」
 席を立とうとしたところで、
「……えっと。みんなどうしたの?」
 私の方に視線が集中しているのに気付く。
「……えっと。愛美さん何か良い事でもあったの?」
 その沈黙と言うか、注目を代表するように最近日課になりつつある、実祝さんと咲夜さんが私に声を掛けて来る。
「むぅ。その表情は

を想ってる表情」
「――?!」
 その実祝さんの一声に、教室内の空気が主に二分する。
「そ! それじゃこれで本当に解散するからな」
 しかもその空気を、先生が自分を想っていると勘違いしたのか、慌てて今日の解散を改めて告げる。考え事をしていて全く聞いていなかったけれどまだ終礼は終わっていなかったのか。咲夜さんに声を掛けてもらえていなかったら、そのまま教室を出ていた所だった。
「……ひょっとして空木君の事を考えてたの?」
「そう。今日これからデート」
 終礼が終わって、ざわついた教室内で改めて優希君だと特定出来る言い方に変える実祝さん。だけれど二人共が少しずつ惜しい。
 優希君に関するのは間違いないけれど、少しだけ違う。
「優希君とデートとか、良い事があった。とかでも無くて、あの人に関する良い話、安心出来た話を九重さんが教えてくれたんだよっ!」
 私は嬉しい話なんだからともったいぶらずに二人にも伝える。
「……――」
「何でも私とあの人の関係はこのクラスの人はみんな否定的で、特にあの人に関しては良い印象は持っていないって教えてくれて、私とあの人がよりにもよってお付き合いをしていると思われていたらどうしようかと不安に思っていただけに、安心して嬉しくて」
 初学期に優希君と冬美さんが、二年では噂どころか既成事実となっていてものすごく苦しくて。悔しくて辛くて。この想いを優希君にはさせたくなくて済んだ嬉しさもあるし、私自身もう色々な話を聞き過ぎていて、あの人の言動も何度も目の当たりにして、触れられたり告白されたり……聞くのはもちろんの事、正直二人きりの空間にいるのも嫌で。
 ただ明日の放課後はあの人に諦めてもらうためだけに、嫌な気持ちを何とか抑え込んだ上での二人きりの時間なだけなのだ。
「ん。咲夜も言ってた通りそんなの当たり前。愛美に人の心、気持ちを暴露するのは駄目だって言われてるから、我慢してるだけで会長から愛美への気持ちをみんなに伝えた上で、蒼依や咲夜に対する所業を全て喋りたい。
「九重さんも愛美さんに……そして本当にクラスのみんなが……」
 まさか九重さんがクラスの代弁を直接私にするとは思っていなかったのか、一瞬驚きに染めるけれどすぐに二人して首を縦に振る。
「第一、昨日あたしもあの会長の話はしたのに、九重さんと違う反応が納得いかない」
 かと思ったら実祝さんから抗議が。
「昨日はその実祝さんと咲夜さんの説明で安心出来たんだからありがとうっ」
 その結果優希君の前で再三に渡る失態だった訳だけれど。
「むぅ。それならいい」
 そう言えばその話は、実祝さんからも連絡を受けた蒼ちゃんから、二年の二人……いや、理沙さんにだけは説教が行ったんだっけ。
「それじゃこのままいてあの人が現れたら困るから、今日は先帰るね――九重さんも色々教えてくれてありがとうっ」
 私はしっかりと聞き耳を立てていた九重さんにも笑顔でお礼を口にして、優希君との待ち合わせ場所である昇降口へと向かう。


 いくら私が自分の教室で友達と喋っていたからって
「改めて伺いますけど、あの昼休み、会長に日和った副会長のあの態度は何ですか? あんなのであのクソ会長から愛先輩を守れるんですか? あんな日和った姿を見せられたんですから、今朝の話は一旦無かった事にして良いですよね」
 何で私の彼氏に理沙さんが文句を垂れているのか。
「お待たせ優希君……そして

さん」
 私は文句を言葉に乗せて二人に詫びると、
「僕は大丈夫だけど中条さんが、昼の倉本の行動って言うか、僕の態度に腹立ったみたいでね」
 困り顔の優希君が説明してくれる。
「中条さんって……。お待ちしてました愛先輩」
 対して不満そうな理沙さん。
「それで彩風さんの話と明日の件の話をするって聞いていたのに、どうして中条さんが優希君に文句を垂れているの?」
 ひょっとしたら明日の告白の件、理沙さんもまだ納得していないのか。と言うか誰も納得していないのか。
「……今日の昼、愛先輩が教室にいないからって、今まで散々好き勝手言って傷つけたクセにワザワザ彩風に会いに、あのクソ会長が二年の教室まで来たんですよ」
 不満顔を全く隠しもしないで、その理由だけは素直に教えてくれる理沙さん。そうか、結局今日も教室までは来ていたのか。
 だとしたらさっきの九重さんの口ぶり、態度からして私が不安にならないようにって伝えられなかったのかな。
「なのに副会長と来たら四人で昼しようとするから、あーしが会長を追い払ったんですよ」
 自分から彩風さんを傷つけたクセに、あの人が来たなんて……と言うか、こっちが冬美さんとお昼をしている間にどう考えてもひと悶着あった気しかしないんだけれど。教頭から私への課題の期限も残すところいよいよ一週間も無いんだから、これ以上の問題は辞めて欲しいんだけれど。
 私がどう言ういきさつなのかと改めて優希君に視線を向けると、
「愛美さんも気にしてくれてたのに朝聞きそびれてしまった、彩風さんの話を雪野さんと大喧嘩を始めてしまう前に聞こうと、二年の教室にいた中条さんと彩風さんの話を聞こうとした際に、倉本が姿を現したんだけど中条さんが追い払ったんだ」
「副会長。愛先輩に秘密は無かったんじゃないんですか? 肝心な部分が全部抜けてるじゃないですか『ちょっと中条さん』――愛先輩の教室に行って会えなかったクソ会長が、都合の良い事に事もあろうか、相談事があるからとかなんとか抜かして彩風に会いに来たんですよ。信じられます? 自分が振った女の所へ都合が悪くなったからって会いに来たんですよ?! 
 だからあーしが男にとって女は都合の良い愛玩動物じゃないって“グー”で殴って分からせようとしただけなのに、あーしを止めるどころかよりにもよって、あのクソ会長と彩風を二人きりにしようとしやがったんですよ。
 今まで女の敵として愛先輩を困らせたり、愛先輩の教室に毎日顔出して既成事実を作ろうと『……』したあのクソ会長に対して、生温すぎる対応だと思いません? しかも彩風の未練を少しでも早く断ち切るために、二人は会わせない、触れさせない、優しくさせないって、今朝言ったばかりですよ?!」
 理沙さんの言いたい事は分かるし同じ女の子として協力するって決めてはいるけれど、明らかに優希君の機嫌が悪いんだけれど。
 でもこれ、さすがに私のせいじゃないと思うんだよね。
「中条さん。昨日僕や蒼依さんが言った意味分かって貰えてないの? 今朝も僕が言った言葉理解出来てる? 分かってくれてる?」
 昨日蒼ちゃんに言われたって……ああ。だから優希君が怒ってくれているんだ。
 本当にそこまで私のために“好き”を頑張らなくても大丈夫なのに。
「優希君。朝も言ったけれど大丈夫だよ。それに女の子の立場から言わせてもらうと理沙さんの言ってくれた通り、あの人の中で一度答えを出して彩風さんを深く傷つけた以上、本来なら二人は会わせるべきじゃないよ。だから理沙さんを責めないで欲しいな」
 自分から距離を空けよう、私に誤解されるのも避けたいからと勝手に決めつけて、何が理由かは知らないけれど自分の都合が悪くなったら、少なくとも心の整理がつくまでは会うべきじゃない彩風さんに勝手に近づいて。
 これだけ好き勝手されて傷つけられたら、女の子として黙っていられない気持ちは同じだ。
「でも中条さんみたいな言い方だと、また倉本なんかに心を不安にするかもしれないし『っ!』それに二人での話し合い、五人で一つのチームって言うのは愛美さんの気持ちだったはずだから、僕としては中条さんにまだまだ文句を言い足りなんだけど。でもまあ愛美さんが、女子の気持ちを教えてくれたんなら、僕も考えるよ」
「……」
 だけれど優希君の話に耳を傾けると、やっぱり私の気持ち、願いを可能な限り汲み取ろうとしてくれているのが分かる、伝わる。
「ありがとう優希君。それじゃその辺り、どうするのが良いのかみんなで合お?」
 だったら後は女としての私たちの気持ちと、どこまでも私の気持ちを汲んでくれた優希君の気持ちを重ね合わせるだけだ。
「……これが恋愛マスターの考え方……」
 靴を履き替えた私たちは、以前の恥ずかしい失態もあるから特に襟元の“隙”に注意して優希君の腕を失礼させてもらって
「……」
 少しだけ肩の下がった優希君と三人で、いつもの公園へと足を向ける。

 え? いくら私の胸部にしか興味が無いからって、私はハレンチでも何でもないんだから、そんな恥ずかしい所を見せる訳ないよ! 
 それに今は後輩の理沙さんもいるんだから、大人の雰囲気なんてナシナシ! そこっ小さいからとか余計な事考えないっ!

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