第206話 クラスの団結 Bパート

文字数 4,325文字



 私がいつもの待ち合わせ場所へと向かうと
「おはよう愛美さん」
 やっぱりもう三人共待っていてくれて、でも苦笑いを浮かべている優希君からのメッセージ通り、優珠希ちゃんの機嫌は悪そうだ。
「優珠ちゃんはせっかくの岡本先輩やのに朝の挨拶はええんか?」
 だけれど、昨日の話がどうのではないからか御国さんは普通に喋りかけてくれるけれど、
「ふんっ! 佳奈! いくわよ」
 やっぱり私が原因なのか、一瞥しただけでそのまま御国さんの手を引っ張って先に歩いて行ってしまう“とっても可愛い優珠希ちゃん”。
「優珠の機嫌が悪くてごめん。それで結局今日の話について倉本からは連絡が無かったんだってね」
 でも、以前御国さんからは優珠希ちゃんは人一倍繊細なんだからって、私自身もそれで一度優珠希ちゃんに寂しい想いをさせてしまっているのだから、やっぱり放っては置けない。
「ううん。誰も悪くないよ。後で優珠希ちゃんと二人きりにさせてもらっても良い? それからあの人からは結局何もなくて、蒼ちゃんと朱先輩から、今日の心配をして連絡があっただけだよ」
 その上怖がりで情も深いのだから、寂しい気持ちのままにはしておけない。
「ありがとう。それで蒼依さんは何て?」
 だから一旦は優珠希ちゃんを御国さんにお任せして、優希君との話を先に終わらせるために恋人繋ぎをして並んで歩く。
「蒼ちゃんは何を考えているのかってカンカンに怒っていたけれど、私のお母さんも優希君や朱先輩と同じようにしっかり断ったら良いって言ってたって言ったら、なんか唸っていたよ」
 朱先輩が教えてくれた考え方も考慮すると、私のお母さんに身の安全の話をしたかったんだと思うけれど。
「そっか。何かみんなから何考えてるんだって言われるばかりだから、時々迷いそうになるけど、船倉さんも愛美さんのお義母さんも同じ考えなんだね」
 本当だったらお母さんや朱先輩に嫉妬したい所なんだけれど、優希君だって周りから言われ続けたら不安にはなるだろうし、少しでも安心してもらえたら、自信を持ってもらえたらと思う事にする。
「私だって優希君を信用しているんだから、もっと自信を持っても大丈夫だよ」
 そしてたまに優希君の口から出て来る自信の話。私は少しでも自信を持って欲しくて言葉と共に少しでも気持ちが届くようにと、もたれかからせてもらう。
「ありがとう愛美さん。本当に愛美さんが彼女になってくれて嬉しいよ。だからこそ僕が愛美さんを守るから。だから今日は風邪じゃない限り、何としてでも彩風さんには出て来てもらおう」
 私の気持ちが少しでも届いたのか、気持ち背筋は伸びるけれど何となく肩は落ちたような気がする。
「彩風さんに出て来てもらうって? 遅刻してでも出て来てもらうって事?」
「そう。今日一日逃げてしまったら、もう来週以降は統括会に出て来れなくなってしまうと思うから、今日は最悪統括会だけでも出て来てもらう」
 確かにそうかも知れない。あの人からの詳細は何も分からないけれど、私が受ける可能性は全く無いのだから、あの人から無意味に二度も“お断り”を受けて傷ついた彩風さんの気持ちは分からなくも無いけれど、今日こそしっかりと彩風さんに私の答えと行動を見てもらわないと、これだけ思い込みの激しい彩風さんの性格だと後からの話なんて絶対聞かないと思う。
「それって今連絡するの?」
「僕もそうしたいけど、明らかに優珠がこっちを気にしてるから、先に優珠をお願いして良いかな。連絡は中条さんと雪野さんにも確認してからにするから」
 なのに、こんな時でもやっぱり優希君は優珠希ちゃんをしっかりと気にかけてくれていて。
 優珠希ちゃんがお兄ちゃんからどれだけ大切にされているのか理解しているのか。でも、そう言う気持ちになったとしてもやっぱり私にとっては“とっても可愛い優珠希ちゃん”なわけで。
「分かったよ。そしたら優珠希ちゃんの所に行ってくるね」
「……よろしく」
 私は御国さんと立ち位置を代わってもらう。

 私が御国さんの代わりに優珠希ちゃんの隣に並び歩くと、
「……」
 やっぱり私が原因だったのか、無言で離れようとするから
「……っ」
 繊細な優珠希ちゃんを怖がらせないように、その手をそっと握らせてもらう。正直何となく予想は付いていたけれど、私の方もそれどころじゃなくて本当に色々とあの人のせいでバタバタはしているのだ。
「何よ! そうやって何かあった時だけわたしのゴキゲンを取って。もうわたしがお兄ちゃんと愛美先輩の仲を認めないなんてないんだから、わたし抜きで仲良くしたら良いじゃない」
 だけれどその一切の事情を、優珠希ちゃんの性格や御国さんの意向、それに何より私

、私たちの仲を心から応援してくれている優珠希ちゃんに余計な不安を与えたくなくて話していないのだ。
「そんな訳ないじゃない。私だって受験勉強やまだ学校に出て来れない蒼ちゃんが気になって、どうしてもそっちが気になってしまうのは本当だけれど、“とっても可愛い優珠希ちゃん”『……~~』とは仲良くしたいし、気にはなっているんだよ」
 だから嘘になってしまわないように、優珠希ちゃんを握る手を少しだけ強くしながら、私の周りの話をさせてもらう。
「何よそれ。そんなゆい方されたら文句ゆえないじゃない。本当に腹黒ね」
 元々頭の回転も速く、聞き分けも良い優珠希ちゃん。私の手を握り返す力がほとんど無くなってしまう。
「ごめんね。寂しい想いをさせてしまって。でも優珠希ちゃんとは毎日顔を見て登校出来るから、今日みたいに何かあればこうやって手を握りながらでもすぐに聞けるんだから安心は安心なんだよ。だから顔を見せてくれるついでに私に文句を言うくらいならいつでも大丈夫だからね」
 メッセージでのやり取りは二日に一回より多いくらいではしているけれど、顔を合わすのは平均で日に一度くらいだ。
 その分どうしても蒼ちゃんへの連絡が多くなってしまうから、時間は有限。顔を見れる優珠希ちゃんはどうしても通学中になってしまったりする。その分この通学中くらいは優珠希ちゃんの寂しさを受け止めるくらいはさせて欲しい。
「文句って……愛美先輩の中でわたしは文句をゆってる事になってるのね」
 私の言い方が悪くて、優珠希ちゃんに全く伝わっていないから優珠希ちゃんが私の手を離そうとする。だから慌てて私が握る力を強くして訂正させてもらう。
「ごめん、待って。違うの。私の言い方が悪かった。私に言いたい事があるなら今でも電話でもちゃんと聞くから優珠希ちゃんが思っている事は取り繕わずにそのままを教えて欲しいの」
 繊細でもある優珠希ちゃんがそれでもショックを受けてしまったのか、それでも抵抗するから思い切って私の方から優珠希ちゃんにぴったりとくっついてしまう。
「でもわたしが思ってる事は文句だって思ってるんでしょ? ――何で笑うのよ。やっぱりわたしをバカにしてるんじゃない」
 私からは逃げられないと思ってくれたのか、逃げたくないと思ってくれたのか、抵抗を辞めてくれた次は、さすが兄妹。
 優希君と同じように拗ね始める優珠希ちゃん。その姿がやっぱり兄妹らしくそっくりで、思わず笑ってしまったのを聞き咎められてしまう。
「別に良い話ばかりじゃなくても、取り繕わずにいたら文句だって出て来るじゃない。むしろ取り繕わずに文句を言う方が優珠希ちゃん的には良いんじゃないのかな。それからバカになんてしていないからね。ただそう言う所はやっぱり兄妹なだけあって似ているなって、良いなって思っただけだよ」
 実際私と慶も姉弟ではあるけれど、慶はガサツだし口は悪いし全く似てはいないと思う。
 だから具体的に“どこが”似ているとかは口にしなかったけれど、その拗ねた時に少なくなる口数とか、逸らす視線とかそれに本当に稀にしかしない、二人共の鈴が鳴るような笑い声とかやっぱり優希君もそっくりなのだ。
「……ほら。またそうやってお兄ちゃんの名前出して、狡猾女に謝ったわたしを誑し込んで。愛美先輩の腹黒さに付き合わされるこっちの身にもなって頂戴」
 ……腹黒発言さえなければ、よっぽど嬉しかったのか耳を真っ赤にして照れる“とっても可愛い優珠希ちゃん”なのに。
「昨日話してくれた八幡さんとの仲直りは全く疑っていないからね。だから後は、私があの八幡さんにしっかりと“お引き取り”をしてもらうから、これは約束以前に、私としての気持ちだからそこは安心して私を見ていて欲しいな。
 それに蒼ちゃんの事もあるから、中々連絡出来ないかも知れないけれど優珠希ちゃんからでも何かあればちゃんと話は聞きたいし、メッセージを貰えれば、大切に読ませてもらうよ」
 だけれど私が寂しい思いをさせてしまったと言うならば、今回は大目に見ないといけない気がする。
「……分かってると思うけど、あんな狡猾女やメス――あんな女に負けたら承知しないから。それから文句だって取り繕わなければ良いって愛美先輩もゆったんだから、これからは文句の電話もさせてもらうから――佳奈。行くわよ」
 何が文句の電話をさせてもらうなんだか。今までだって散々文句の電話どころかメッセージでもクレームがほとんどだってのに……でもまあ言い換えてみれば、それは今まで通りの優珠希ちゃんな訳で。
 もうどうあっても私たちの仲以外は絶対に認めないとも取れる優珠希ちゃんからの念押しに、心を更に温かくして二人を見送る。
「ありがとう愛美さん。優珠が他人にここまで心を開いたのは恐らく初めてだから、自分でもどうしたら良いのか戸惑ってるんだと思うから大切に接してくれたら嬉しいかな」
 その後から昨日の御国さんの言葉
 ――優珠ちゃんがこれほどなついたんもウチ以来ホンマに初めてやさかい、
            辛抱強う待っとってくれはったら嬉しいし――(200話)
 を裏付けるような説明。だったら二人から話し易くしてもらうために、私から二人に自信と勇気を持ってもらえるように行動していくだけだ。前もって優珠希ちゃんがとっても繊細だって分かってはいるわけだし。
「そんなのは私のお気に入りの大切な後輩でもあるんだから当たり前だよ。その上で優珠希ちゃんの気持ちを私にぶつけてってお願いしたんだよ」
 取り繕う事なく。
「本当にありがとう。愛美さんは僕にとって本当にみんなに自慢したい彼女だよ。それじゃ彩風さんへの連絡もあるし学校急ごうか」
 本当はもう少しだけ優希君との二人きりの時間を楽しみたかったのだけれど、二年の三人も気にはなったからと、一度学校へと急ぐ。

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