第210話 好きの果て Bパート ❝単元まとめ❞

文字数 7,124文字



 そして汗も流し終えた食事中、多分車内での会話を気にしたお父さんがずっとソワソワしているけれど、しばらくその気持ちを味わってもらうために、今日は言わないでおこうと決めてしまう。その代わり車内で話した今日の病院の診察の結果としっかりと断れたあの人の顛末の説明をする。
「じゃあ愛美はしっかりとその会長を断れたのね」
「うん断れたよ。でも後輩の女の子の責任にしたり、私の友達にまで怒鳴ったりしていたり最低な人だった上、最後まで中々分かってもらえなかったから相手の顔面を“グー”で二回“パー”のビンタで一回殴った話を付け加えたら、
「……」
 車内ではあれだけ喜んでくれたはずのお父さんが何故か挙動不審に。まあ理由は分からなくも無いけれど。
「んだよ。結局ねーちゃんが自分で暴力使ったんじゃねーか。何で俺にだけ文句言われんだよ」
「慶久。男子が使う暴力と女子が使う暴力は違うの――それにしても愛美もしっかり断れた様ね。約束通り万一今回の件が学校側で問題になりそうなら、しっかりとお母さんが対応するから愛美は何の心配もいらないわよ」
「結局女尊男碑かよ。女ばっかりズリィ」
 まあ慶の言わんとする事も分からなくはないけれど、男の人の暴力に勝てる訳が無いのだから、そこは悪いけれど慶にはやっぱり暴力は駄目だと言わせてもらう。
 それに私だってむやみやたらに暴力を振るう訳じゃ無いのだから、あんな人や男の人と同じように思われるのもやっぱりなんか違うと思う。
「なぁ愛美。さっき車の中でそんな話してなかったじゃないか」
「うんしていないよ。だってお父さんと二人きりでそんな話したらお父さんが暴れると思ったから」
「愛美。お父さんをよく分かってるじゃない。まあ粗方お母さんを出し抜こうとか、そう言う事でも考えてたんじゃない?」
 しかもお父さんの余計な一言で何かバレている気がするんだけれど。
「や。やだなぁ母さん。そんな訳ないじゃないか」
「……オヤジ。黒だな」
 しかも言葉を詰まらせたがために慶にまでバレているし。
「……お父さん。今夜はゆっくりお話ししましょう。ちょうど一週間分話も出来てませんでしたし、愛美の心配事も消えました。だったら明日からは週末ですから、じっくりお話出来ますね」
「……はい」
 そして結局はお母さんの前に小さくなるお父さん。私がどれだけ大変でもこの家族の雰囲気は今日も変わらない。
「それじゃ私、今日は疲れたから先に自分の部屋に戻るね」
 いつも通り仲の良い、温かい家族を目にした私は安心して、今日の顛末を友達二人に話そうと自分の部屋へと戻る。
「……」
 一度階段下から中の見えない袋を一枚失礼してお風呂場、洗面台へと寄らせてもらってから。


 そして二人に報告をするために自室へと戻って来た時、

宛元:理沙さん
題名:雪野から聞きました
題名:電話が繋がらなかったのでメッセージにて失礼します。良かったです。
   まずはお疲れ様でした。しかしあのクズ会長。本当にクズだったんですね。
   あの会長も学校側に言って停学にした方が良いと思うんですけど、その話は
   改めて学校でさせて下さい。とにかくしっかり殴った上で断ったのはナイス
   な判断でした。本当ならそうなる前に会長に乱暴されたって聞いたんで
   副会長にその責任を問いたかったんですが、雪野から蒼先輩が怒って
   たから余計な事は言わない方が良いって聞いたんで辞めときますけど、
   なんにしてもこれからはあのクズ会長から彩風をしっかりガードするだけ
   なんですね。まずは彩風を救って頂いてありがとうございました。それから
   彩風を赦して頂いてこちらもありがとうございました。また改めて今日の
   詳しい話を聞かせて下さい。

 見ればたくさんの着信履歴と共に理沙さんからのメッセージ。相変わらず友達想いなんだなって伝わるメッセージだった。
 ただそれを彩風さんからではなくて、冬美さんから聞いたと言うのはびっくりしたけれど……今日のところは私から冬美さんに連絡するのは、また気持ちがしっかりと切り替われば話しかけてくれると信じて辞めておこうと思い直す。

宛先:理沙さん
題名:ありがとう
本文:冬美さんには優希君がしっかり優しく“お断り”してくれたから。それに彩風
   さんも最後は冬美さんの気持ちを理解してくれたからだよ。だから私にお礼
   じゃなくて彩風さんを褒めてあげてね。本当に人を赦すのってしんどいん
   だから。それから私の方もあの人にはしっかり釘を刺しておいたから、もう
   あの人から彩風さんに何かをしかけるなんて事は無いと思うけれど、万一の
   時はよろしくね。
    また来週、時間があったらみんなでお昼しようね。彩風さんにも伝え
   といてね。
追伸:蒼ちゃんが怒ったら怖いって言っていたのは伝えとくね

 だから理沙さんにだけは私からも感謝とねぎらいの返事だけはしっかりとしておく。ただし蒼ちゃんだけは別だけれど。

宛先:朱先輩
題名:しっかり断りました
本文:昨日も心配の連絡をありがとうございました。今日無事に“お断り”出来ま
   した。色々あった顛末は明日の活動と泊まらせて頂いた際に説明します
   けれど、最後あの人泣いていたのと優希君があそこまでしっかり断ったらもう
   喋りかけて来る事も無いだろうから安心しても良いって太鼓判をもらっても
   います。しかも生まれて初めてお姫様抱っこをしてもらいましたけれど……
   あの抱っこ。私、すごく好きかもしれません。
追伸:明日。いつも通りの時間に公園の入り口に向かいます

 そしていつだって私の心配をしてくれている朱先輩に明日泊まらせてもらった際に、じっくりとお話が出来るんだからと今日のところはメッセージにてあらましだけをお伝えする。
 その後、優希君ともう少しお話をしようと思ったのだけれど、優希君も今日は頑張ってくれたし、勘の鋭すぎる優珠希ちゃんの事もあるからと、今日は

宛先:優希君
題名:今日はありがとう
本文:私は優希君だけが大好きだから。またお姫様抱っこしてね。今日はとっても
   カッコ良かったよ。私の騎士様。また日曜日のデートのお誘い待ってるね

 今までの労いと私からの気持ちを全部乗せてメッセージを送るだけにする。
そして明日久しぶりと感じる町美化活動と課外活動の準備をしていると、私の部屋を
「愛美。お母さんだけど少しだけお話しできるかしら」
 ノックするお母さん。
「うん。鍵開いてるよ」
 だから今日もあと少しだけ、鍵をかけた私の部屋の中で母娘(おやこ)の会話を始める。
「愛美。本当に大丈夫そうね。でも何かはあったのよね」
 ……しょっぱなから核心を突いて来るお母さん。まあお母さんには一から全部相談もしていたのだから何かあったのは予想がついていてもおかしくは無いけれど。
「……正直。一時期はどうなるかと思った。でも最後は蒼ちゃんも優希君も可愛い後輩も駆けつけてくれて何とか事なき得たよ」
「愛美。お母さんに嘘は要らないのよ。何をされたの?」
 軽く話したつもりなのに、お母さんの表情が真剣に私を射抜く。だから明日朱先輩に話す予習としてお母さんに顛末を話す事にする。
「……正直何もなかったとは言えないけれど、お母さんが心配しているような事態にはならなかったのは本当。ただ、二人きりになりたいとかで無理やり腕を掴まれて連れ回されたり、人気のない放課後の屋上に連れて行かれたり、馬乗りにされたりしたけれど、そこで優希君が飛び込んで来てくれたから本当に何もなかったよ。
 ただ、その際に下着を見られたから、優希君が見せて欲しくないって言ってくれたんだし、今日身に着けていた下着は捨てようかなって思っただけだよ。それでも最後は今までの気持ちと共にしっかりと私自身の言葉で“お断り”をして相手も涙していたから、もう大丈夫だと思う」
 だけれど、私が話し終えた時、お母さんが一度顔を伏せたお母さんの声が震える。
「愛美……それはお母さんが心配するには十分な出来事じゃない……なのに、愛美に立て続けて起こった男子とのトラブルに何とも思わないと思ったの?」
「でも、直接の暴力とかを受けた訳じゃ無いから――」
「――愛美。物に当たる、脅す、恐怖心を煽るって言うのは、十分暴力なのよ。しかも愛美が恐怖してる間に、見たなんて……それでもお母さんは心配しないと思ったの?」
 どうしよう……私がよかれと思って軽く言ったはずなのに、かえってお母さんを傷つけてしまったみたいになってしまっている。
 これだったらオカンムリなお母さんの方がよっぽどマシだ。
「違うのお母さん。私はただお母さんに心配をかけたくなかっただけなの。だから決してお母さんが心配してくれないとか、心配なんてしないとか思った訳じゃ無いの」
 私の為にお母さんに涙なんてして欲しくなくて、子供としての気持ちを精一杯伝えようと口を開く。
「逆にそう思うくらいには、お母さんからの気持ちは私には届いているの。だから今回の件も、その助言と含めて“ありがとう”って言いたいくらいなんだよ」
「でもお母さん。二度とあんな思いはしたくないから、今後は何かあったら何でも良いからちゃんと正直に打ち明けなさいねって言ったわよね」
 確かにそうだ。しかもそれはお父さんからも言ってもらっていた。こうやってお母さんからの気持ちを聞く度に、子供として親に心配かけたくないって思ったとしても、自分の浅慮に唇を噛むことになる。
「――ごめんなさい。正直、今回も優希君や蒼ちゃんたち友達が来てくれていなかったら、女としてもマズかったと思う。でも、本当に優希君が来てくれたから。同じ役員でもある後輩たちも駆けつけて来てくれたから、私自身には何もされてはいないの。だからそこだけは本当に安心して欲しい。その分後輩の女の子にも怒鳴ったり、暴言も吐いてはいたけれど、その時にはみんな揃っていたから、フォローはしたし盾にもなったよ」
 だったら仕方がない。本当は全部言うのは控えようと思っていたけれど、あのメッセージ以外の内容を喋ってしまう。
「……本当にそれ以上は何もないのよね。ちなみに今、愛美が話してくれた分だけでも、十分その男子は犯罪だし、愛美が学校側に申し出たら、それだけ証人がいる以上その男子も停学に出来るわよ」
 お母さんが、私の恐怖を理解してくれた上で提案してくれているのは分かる。だけれど、冷静に考えてみれば、これ以上この短期間で同じような問題が広がれば、私自身も学校に行き辛くなるし今度こそ先生が潰れてしまう。
「本当に何もないから。それに前回も言ったけれど、こんな話が広まるのは私、嫌だよ。今後はみんな守ってくれるし、もう喋りかけられないって同じ男の立場として優希君も言ってくれているから、その下着を捨てて終わりにしたいの」
 だから申し訳ない気持ちもあるけれど、やっぱり話はここで終わらせたい。
「……じゃあもう一度だけ聞くわね。本当に前回みたいに服をはぎ取られたとか、乱暴されたとかはないのね」
 そうか。それも気にしてくれていたのか。でもあの冬美さんに送られたメッセージ。あれは一歩間違えれば本当に取り返しのつかない事件になったのは間違いなくて。
「うん。私自身も全く余裕が無くて全然気付けなかった間にずっと見られていただけで、それ以上は本当に大丈夫だから。だから今日身に着けていた下着を捨ててきれいさっぱり忘れたいの」
 もちろんあんな人に見られたのが一番の問題で、優希君にも申し訳なかった訳だけれど。それでも、今回は私自身に何かをされたわけではないのだから、ただですら恐怖の上塗りみたいになっている気持ち。早く忘れる方に気持ちを切り替えたい。
 私が言い切ったのに少し表情を柔らかくするお母さん。
「でも、愛美が怖い思いをしたのは変わりないんでしょう? あれだけの事があってまだ間もないのに本当はすごく怖かったんじゃないの?」
 ……何でそこまで分かるんだろう。お母さんと言うのはあたかも見て来たかのように分かるものなのか。
「うん。怖かった。怖くて腰も抜けたしもう駄目だって思った。でも本当に汗だくになって私を探してくれた優希君が駆け込んで来てくれて、私をお姫様抱っこして包んでくれて安心させてくれたの。だから最後はしっかり腰の座った私自身が
 あの人の前でしっかり殴ってビンタした上で“お断り”出来たんだよ」
「本当に酷い男子ね。でも優希君みたいな男子もいるって愛美はもう知ってるんだから、大丈夫よね」
 あらかたを言い切って信じてくれたのか、事の顛末をそれ以上は深く突っ込んでは聞いて来ないお母さん。そう。
 電源を切られた電話であるとかあの下劣なメッセージの件であるとか。
 話しにくい事が他にも何かあると分かっていても聞いて来ないお母さんの気遣い。優しさ。
「うん。クラスの男子もあの人からみんなで守ってくれるって言ってくれているし」
 朱先輩から教えてもらった、庇護欲なんかの好意。やっぱり男の人にも色々な人がいるのは私も理解し始めている。
「……分かったわ。そう言う事ならお母さんが責任を持って処分するから、その袋貸してちょうだいな」
 そうか。この袋はお母さんのヒントになったのか。本当にお母さんて私たちをよく見てくれているんだなって分かる、伝わる。
「それじゃあまり長話して、男二人に気付かれても何だからお母さんはもう行くわね」
「うん。ありがとうお母さん」
 結局今回も袋一つからほとんど全を話す羽目になった私。朱先輩への説明の予行練習と言えばそれでも良いけれど、私がお母さんになった時、お母さんみたいに振舞える自信なんて無いと思いながら母娘(おやこ)の会話を終えて、私の部屋を出て行くお母さんを見送る。
 そして最後明日に向けて寝る前

宛元:蒼ちゃん
題名:恋愛マスターの愛ちゃんへ
本文:今日の件は二人共がしっかりと想い合ってるのが分かったからもう良いけど、
   明日ブラウスの人と会うんだよね。
    ブラウスの件よろしくね。そしたら明日はお菓子教室だからもう寝るね。
   お疲れ様愛ちゃん

宛元:朱先輩
題名:良かったんだよ
本文:明日はじっくりと一晩かけてお話を聞かせてもらうんだよ。だから今日は
   寝溜めするからもう寝るんだよ。
   それからわたしを信じてくれてありがとう。空木くんも愛さんをお姫様抱っこ
   出来てとっても嬉しかったと思うんだよ。
    これで二人の仲と信頼「関係」はもっともぉっと強くなったんだから、
   今まで以上に仲良くなったんだよ。それが何より一番嬉しいんだよ。明日
   また愛さんの幸せなお話をたくさん聞かせてね

宛元:優希君
題名:僕も大好きだよ
題名:僕も愛美さんとの時間はかけがえのない時間だから、また明日急いでデート
   プランを練った上で誘うから受けて欲しい
    それに愛美さんがお姫様抱っこを気に入ってくれたんなら、今後も色々な
   場面でさせてもらうよ。僕の彼女になってくれて本当にありがとう!

 立て続けに入っていたみんなからのメッセージ。本当にみんなが今日の顛末を気にしてくれていたのがこう言う所からでも伝わって来る。


宛先:優希君
題名:良いよ
本文:そんなに頑張らなくても私は優希君と一緒ならどこでも良いよ。むしろ今週
   は大変だったからゆっくりしたデートでも良いかも。
    だから明日お誘い待っているから日曜日デートしようね。明日は朱先輩と
   会うからいつでも連絡待っているし、朱先輩も優希君との仲を応援してくれて
   いるから自信持ってね

 その中でもまだ私のために頑張ろうとしてくれる優希君。少しは休んでもらわないと本当に疲れてしまったら大変だから少し待ったをかけさせてもらう意味でも、優希君にだけは先にメッセージを送らせてもらう。

 ただ蒼ちゃんのメッセージは難しい。私とブラウスを気にかけてくれているのはものすごく伝わるけれど、その先の朱先輩の笑顔を曇らせてもらうかと思うと、中々すぐにメッセージを返そうと言う気にはなれなかった。
 結局大きな問題がいくつか片付いたとしても、複雑な気持ちは消えないまま今日疲れ切っていた私は、そのままベッドの上で意識を手放す。
================単元予告==================
         紆余曲折・トラブル続きではあったが
     何とかスイッチを切り替えることに成功した主人公たち

          そんな二人に残す障害は少なく
       再び信頼関係とお互いの想いを深め合う二人

           その中で知覚する体の変化
         そして少しずつ地を出し始める妹

           ……優珠が……家出した

       次単元 第211話~第219話 二人の想い、深まる
         9月26日(土曜日)~9月28日(月曜日)

―――――――――――――――――次回予告―――――――――――――――――
           かろうじてしっかり断れた主人公
    その話を聞いてもらおうと、いつもの通り週末を迎えるが……

       主人公の幸せな話と、週末の顛末に耳を傾ける先輩
   更に色々な対策を具体的に始める一方、心を蝕むものが形を現し始める
           その主人公を見た先輩は、心を痛め
              何をどう判断するのか……

        「ごめんなさい。お姉ちゃんびっくりさせた?」

             次回 第211話 蝕まれる心
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み