第15話
文字数 2,044文字
「プライベートの災厄」
今もそうなのだけれど、休日や自由な時間を僕は1人で過ごすことが好きだ。
気心知れた何名かの親友たちとアポを取り、集まって何かをするのももちろん楽しいのだけれど、基本的には家でゲームをしたり好きなアニメ・特撮作品、ライオンズの試合を見たり、外出してショッピングをする時も、1人で行動することを好む。
この傾向は参中時代にもすでに表れていたし、僕は根っからのぼっち体質だと言えるだろう。
参中時代のある日、その日は休日で学校はなく、野球部においても練習や試合もないという、珍しい完全なオフの日だった。
こういう日は、無性に心が軽くなり気分も妙に高揚するものだった。
とりあえず普段よりも1時間ほど多めに睡眠をとった僕は、ウルトラマンのビデオ(当時はまだVHSが主流だった)を見ながら朝食を取り、少しまったりとしてから外出することにした。
自転車にまたがり、特にここに行きたいという場所はなかったけれど、胸躍る休日という高揚感はまだまだ健在で、ペダルをこぐ足も軽やかに校区内を走っていた。
何となく大まかに校区内を1周しかけたところ、線路沿いの高架下に差し掛かった時だった。
向こう側から2人乗りした自転車が近付いてきた瞬間、僕の毛穴が開く感覚に襲われた。
迫り来る自転車をこいでいる主が、僕の存在を認めた時、それは確信に変わった。
「本田ーーーーーー!!!」
何てこった、S倉だ!!
閑静な住宅街の景観を破壊することなどまるで意に介せず、すごい形相で僕の名を叫びながら自転車をこいで来る、よりにもよってS倉だ。
はっきり言って、最悪の遭遇であった。
後部に不良仲間の同級生の女子を乗せたS倉、これはヤバいと本能が告げている僕は、ただちに進路を変更し、S倉からの逃走を試みた。
だが、獲物を前にみすみす見逃すようなことをS倉がするわけがなかった。
逃走しようと距離を取った僕に向けて、大気を激しく揺らしながらS倉が怒鳴った。
「おい、何逃げようとしとるんじゃーー!!こっちに来いや!!もし逃げたら、明日学校でどうなるかわかってるんやろうなーー!!!」
そう言われてしまっては、もはやこの場を逃げ切れたところで、僕の未来は絶望的だ。
進むも地獄逃げても地獄、の絶体絶命な崖っぷちに立たされた僕は、仕方なく覚悟を決めて再び自転車の進路を変え、ゆっくりとS倉たちの元へと向かわざるをえなかった。
「お前、今逃げようとしたな!?あぁん!!」
「い・・・いや、別に逃げようとはしてないけど・・・。(あーしましたよ、逃げようとしましたともさ)」
「嘘つけ!!ちょっと自転車降りて、こっち来いや!!」
はい、とりあえず顔面に2発パンチをいただきました。
「お前何しとんねん!?どこか行くのか!?」
「あ・・・えっと、そうこれから塾があるから・・・。(嘘です。僕が通っている学習塾は今日休みだけどね。とりあえず、この場から逃れなくては。)」
「塾か、お前ガリ勉か!!」
「いや・・そんなことはないけど。今日テストがあるから。(はいはい、嘘です。休日をエンジョイしようとしてました!!何なら1人カラオケ行く勢いでした!!)」
「いつもやったら、もう5発くらい殴ってるところやけんどな!!」
「(殴るなよ!!何もしてないのに毎回お前と出くわす度に、何で僕が殴られなければならないんだ!!)」
「今日は気分がいいから、勘弁しといたるわ!!」
「じゃ、じゃあ塾があるから、僕はこれで・・・。」と、僕が自転車のサドルにまたがろうとした時、何故かもう1発S倉に殴られた。
「じゃあな!!」
と、腰元を不良女子に掴まれていたS倉は、上機嫌で自転車をこぎ走り去っていった。
その圧倒的な存在を、ただ黙って見送ることしかできなかった。
僕はS倉に殴られた頬をさすりながら、しばし自転車にまたがったまま呆然としていた。
一体どうして、僕は殴られたのだろうか・・・・。
しかしそれが、参中で中学校生活を送るということに含まれた暗黙のルールだった。
学内だろうが学外だろうが、場所なんて関係なかった。
授業中だろうが休み時間だろうが部活中だろうが、平日だろうが休日だろうが、時を選ばせてもくれなかった。
理不尽、ただその一言に集約されていた青春の日々。
学内ヒエラルキーにおいては弱肉強食などと、さもそれらしい言葉で形容されていた日々。
言いえて妙などと言ってくれるな、一握りの勝ち組たちよ。
S倉との思いがけない遭遇と悲劇の時を終えて、ネガティブな思いに浸食された僕には、当初の休日などいった甘美な響きは、とうに失われてしまっていた。
時刻にして、まだ13時を回ったばかり。
でも、もう疲れちゃったよ僕は。
「コンビニに寄って、油に満ちたフライドチキンでも買って帰るか・・・。」
テンションダダ下がりの僕が自宅に帰り、ゲームをしながらほうばったフライドチキンの味は、とてもしょっぱかった。
今もそうなのだけれど、休日や自由な時間を僕は1人で過ごすことが好きだ。
気心知れた何名かの親友たちとアポを取り、集まって何かをするのももちろん楽しいのだけれど、基本的には家でゲームをしたり好きなアニメ・特撮作品、ライオンズの試合を見たり、外出してショッピングをする時も、1人で行動することを好む。
この傾向は参中時代にもすでに表れていたし、僕は根っからのぼっち体質だと言えるだろう。
参中時代のある日、その日は休日で学校はなく、野球部においても練習や試合もないという、珍しい完全なオフの日だった。
こういう日は、無性に心が軽くなり気分も妙に高揚するものだった。
とりあえず普段よりも1時間ほど多めに睡眠をとった僕は、ウルトラマンのビデオ(当時はまだVHSが主流だった)を見ながら朝食を取り、少しまったりとしてから外出することにした。
自転車にまたがり、特にここに行きたいという場所はなかったけれど、胸躍る休日という高揚感はまだまだ健在で、ペダルをこぐ足も軽やかに校区内を走っていた。
何となく大まかに校区内を1周しかけたところ、線路沿いの高架下に差し掛かった時だった。
向こう側から2人乗りした自転車が近付いてきた瞬間、僕の毛穴が開く感覚に襲われた。
迫り来る自転車をこいでいる主が、僕の存在を認めた時、それは確信に変わった。
「本田ーーーーーー!!!」
何てこった、S倉だ!!
閑静な住宅街の景観を破壊することなどまるで意に介せず、すごい形相で僕の名を叫びながら自転車をこいで来る、よりにもよってS倉だ。
はっきり言って、最悪の遭遇であった。
後部に不良仲間の同級生の女子を乗せたS倉、これはヤバいと本能が告げている僕は、ただちに進路を変更し、S倉からの逃走を試みた。
だが、獲物を前にみすみす見逃すようなことをS倉がするわけがなかった。
逃走しようと距離を取った僕に向けて、大気を激しく揺らしながらS倉が怒鳴った。
「おい、何逃げようとしとるんじゃーー!!こっちに来いや!!もし逃げたら、明日学校でどうなるかわかってるんやろうなーー!!!」
そう言われてしまっては、もはやこの場を逃げ切れたところで、僕の未来は絶望的だ。
進むも地獄逃げても地獄、の絶体絶命な崖っぷちに立たされた僕は、仕方なく覚悟を決めて再び自転車の進路を変え、ゆっくりとS倉たちの元へと向かわざるをえなかった。
「お前、今逃げようとしたな!?あぁん!!」
「い・・・いや、別に逃げようとはしてないけど・・・。(あーしましたよ、逃げようとしましたともさ)」
「嘘つけ!!ちょっと自転車降りて、こっち来いや!!」
はい、とりあえず顔面に2発パンチをいただきました。
「お前何しとんねん!?どこか行くのか!?」
「あ・・・えっと、そうこれから塾があるから・・・。(嘘です。僕が通っている学習塾は今日休みだけどね。とりあえず、この場から逃れなくては。)」
「塾か、お前ガリ勉か!!」
「いや・・そんなことはないけど。今日テストがあるから。(はいはい、嘘です。休日をエンジョイしようとしてました!!何なら1人カラオケ行く勢いでした!!)」
「いつもやったら、もう5発くらい殴ってるところやけんどな!!」
「(殴るなよ!!何もしてないのに毎回お前と出くわす度に、何で僕が殴られなければならないんだ!!)」
「今日は気分がいいから、勘弁しといたるわ!!」
「じゃ、じゃあ塾があるから、僕はこれで・・・。」と、僕が自転車のサドルにまたがろうとした時、何故かもう1発S倉に殴られた。
「じゃあな!!」
と、腰元を不良女子に掴まれていたS倉は、上機嫌で自転車をこぎ走り去っていった。
その圧倒的な存在を、ただ黙って見送ることしかできなかった。
僕はS倉に殴られた頬をさすりながら、しばし自転車にまたがったまま呆然としていた。
一体どうして、僕は殴られたのだろうか・・・・。
しかしそれが、参中で中学校生活を送るということに含まれた暗黙のルールだった。
学内だろうが学外だろうが、場所なんて関係なかった。
授業中だろうが休み時間だろうが部活中だろうが、平日だろうが休日だろうが、時を選ばせてもくれなかった。
理不尽、ただその一言に集約されていた青春の日々。
学内ヒエラルキーにおいては弱肉強食などと、さもそれらしい言葉で形容されていた日々。
言いえて妙などと言ってくれるな、一握りの勝ち組たちよ。
S倉との思いがけない遭遇と悲劇の時を終えて、ネガティブな思いに浸食された僕には、当初の休日などいった甘美な響きは、とうに失われてしまっていた。
時刻にして、まだ13時を回ったばかり。
でも、もう疲れちゃったよ僕は。
「コンビニに寄って、油に満ちたフライドチキンでも買って帰るか・・・。」
テンションダダ下がりの僕が自宅に帰り、ゲームをしながらほうばったフライドチキンの味は、とてもしょっぱかった。