第11話

文字数 2,635文字

 「参中ファイト2」

 ~ヒゲか産毛か~
 2時限目が終わり休み時間に入りました、ここは隣のクラスの教室であります。
僕はS木と談笑中でありまして、教室内は全体的に和やかな空気といったところでしょうか。
 おおーっと、だがここでやってまいりました、S原であります!!
微妙にできていないスキップで向かいます先には、女子の一団が待ち構えております。
何事もなくすれ違うのかと思われましたその刹那、しかしS原の視線が何かを捉えたぞ!
女子の一団の中の1人、E田に対峙いたしまして、さあ指をさしましたS原。
何やら吠えているようであります。
「お前のそのヒゲ、石〇貴〇みたいだな!!」
何とここで、超大物お笑いタレントのヒゲに似ていると、E田の手入れされておりません鼻の下の産毛を指摘して、S原が吠えております。
「よっ石〇さん!タ〇さん、おはようございます!!」
くせっ毛混じりの頭を垂れまして、何とも浅はかな挑発を繰り出しております!!
この挑発に対しまして、E田はみるみる涙目になっていっております。
 それはそうでしょう。
いくら鼻の下の産毛のお手入れを怠ってしまったからといいましても、思春期の女の子を捕まえて、ヒゲと揶揄するのはいかがなものでありましょうか。
あまりにデリカシーがありません!あまりに苛烈極まる暴言であります!!
さらに追い打ちをかけるかのように、例えましたお笑いタレントの所属するコンビのヒット曲を、S原は謎の振り付け付きで歌い出しました!!
完全にE田は泣き出してしまいました、その場に崩れ落ちてしまいました!!
S原のこの暴挙に、すかさずE田の友達の女子3人掛かりでS原に応戦するという構図に、どうやら戦況は変わっていくようであります。
「何よ、自分だってそばかすだらけの落花生みたいな顔してるくせに!!」
「顔の水分からっからっ、お肌カサカサで変な粉振りまいてるじゃないのよ!!」
おーーっと、一転してピンチ到来か!?
S原ノックアウトを奪うどころか、逆に相手の戦意に火を着けてしまった形となりました!!
キーキーピーピー、ここは動物園なのかと思わず錯覚してしまうかのような、激しい罵り合いへと発展しております。

 「ていうか、そんなんだから女子全員に嫌われるのよ!!」
おーーっと、これは効きました!!痛いところを突かれてしまいました!!
完全に形勢は逆転だ、女子たちが3人がかりでS原からマウントを取りました!!
そして今度はS原の目に、大粒の涙がどんどん溜まってまいりました!!
「えぐっ、えぐっ・・・・・。」と嗚咽を漏らしておりますS原。
何と汚い絵面でありましょうか、S原の表情であります。
 そしてここで、試合終了を告げるかのようにゴングが、休み時間終了のチャイムが鳴り響きました!!
涙と鼻水がとめどなく流れ続けておりますS原のその顔には、皮肉なことにカサカサの乾燥肌に若干の潤いが増し、和らいでいるようにも見えております!!


 ~M谷、因縁極まれり~
 ここは午後のグラウンド、男子体育の授業時間であります。
サッカーに興じております生徒たちの中で、今K村へのパスが通りました。
ここはドリブルで突破してシュートチャンスに持っていきたいところでありますが、おーーっと、猛然とディフェンス側から1つの影が迫って来ました、M谷であります!!
すでに肩で息をしながら、サッカーセンス絶望的なM谷でありますが、張り切ってK村のマークに付きました。
あー、何とここでM谷が何のためらいもなく、K村の鳩尾に肘を入れました!!
その衝撃の大小はさておきまして、急所に入ったのでありましょうか、K村は体勢を崩してしまいました。
明らかにラフプレーだ!!ボールを奪う気などさらさらありません!!
瞬く間に不穏な空気が流れ始めました、ここで試合は一時中断するより他はありません。
 このM谷とK村の両者でありますが、2年生の林間学校の時以来の因縁があります。
といいますか、僕から言いますと一方的にM谷に非があると思うのでありますが。
それにあの時も、部屋割りで同部屋になりました初日にいきなり、「この俺の1発ですべてを終わらせてやる!!」などと発狂に近い形で因縁を付けました挙げ句、こてんぱんに結局K村にやられたといいますのに、M谷には記憶力や学習能力といったものがないのでありましょうか!?
 そんな紆余曲折を経たにもかかわらず、お構いなしといった様子で、またしてもM谷がK村を挑発しているようであります。
「サックス!!」
M谷今噛みましたか、噛んだよねと盛大に突っ込んでやりたいですが、どうやらM谷はFで始まる海外の放送禁止用語を叫びたかったものと思われます!!
自らの浅はかさをまた1つ露呈してしまったM谷でありますが、そんなことでは怯みません。
右手を大きく振りかぶりましたM谷。
M谷の最大にして最弱と言っていい必殺技、水平チョップを繰り出してまいりました!!
しかし遅い!!
あまりにも遅過ぎまして、ハエが止まりそうなチョップであります!!
当然ながら、K村にヒットするはずもありません!!
逆にK村に頭をはたかれ、地団太を踏み出しましたM谷、駄々っ子にしか見えません。
ここでいよいよ、なりふり構っていられないと悟ったのでしょうか、M谷がK村の喉元を掴み、首を締めにかかりました!!
これはいけません、もはや喧嘩の範疇を外れれっきとした警察沙汰、傷害事件へと発展する様相を呈してまいりました!!
たまらずここで、体育教師N瀬がレフェリーストップに入ります!!
 誰がどう見ましても、非はまたしてもM谷にありでしょう。
静観していた僕でありますが、さすがに日頃の鬱憤もありましてM谷に嫌気がさしてまいりました。
できることならM谷の背後に回り込み、膝かっくんをお見舞いしてやりたい気分でありますが、そんなことをすれば僕の足が腐ります。
K村に対してさらに因縁が増えた形となりまして、また戦いを中断されてしまったことへの消化不良からでしょうか、未だ興奮冷めやらぬ様子のM谷であります。
 おーーっと、再びここでK村を指さしましたM谷が、大声で叫びました!!
「サックス!!」
おやおや、先ほどの挑発は噛んだのではなく、リアルに間違えていただけだったようであります、M谷の浅はかさ、ここに極まれりといったところでしょうか!!
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登場人物紹介

僕(本田)・・・1997年4月から2000年3月まで参中に通い、ありとあらゆるトラウマを背負う。野球部所属。

Y下・・・同級生男子、野球部を通して出会った終生の親友。

O田・・・同級生男子。天然な性格で癒し系、僕の終生の親友3人衆の1人。

S木・・・同級生男子。プロ野球の知識が豊富な僕のプロ野球仲間で、終生の親友3人衆の1人。

T中先生・・・野球部の顧問であり社会科の教師。鬼の厳しさを持っており、僕は戦々恐々の思いを抱く。

M谷・・・入学式で倒れたところを僕が助けたがために、付きまとわれる羽目に。僕の参中での3年間の命運を、ある意味大きく握って狂わせた元凶たる同級性男子。

S倉・・・同級生男子で不良グループの中心的人物。何かと理不尽な暴力が絶えない人物。

O倉・・・S倉と共に不良グループの中核を担っていた同級生男子。一方的な肉体言語を持って、学内を闊歩している。

OS・・・同級生女子。僕が恋焦がれていた女子だった。

K田先生・・・ハゲ頭の音楽教師。個性的な強烈なキャラを持ったオッサン。

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