第4話

文字数 2,393文字

 「S倉とO倉」

 学内ヒエラルキーにおいて必ずと言っていいほど、素行のよろしくないやんちゃな不良と呼ばれる者たちが、どこの学校にでも存在したと思う。
御多分に漏れず、僕が通っていた当時の参中にも、そんな連中はいた。
 その連中が中心になり、授業中は全体的にガヤガヤ、ザワザワした空気になっていた。
一部の生徒と担当教師によってのみ、進行していく授業風景。
僕らの時代に、「学級崩壊」なんて言葉があったのか、記憶をたどってみても定かではないが。
 僕は正直、この不良と呼ばれる連中が苦手だった。
まあ大多数の一般生徒で得意としている方が、稀だろう。

 そんな不良連中の中で、特に要チェックの人物が2人いた。
S倉とO倉であった。
この2人においては、とにかく常識や倫理観や理屈などというものは、何ら威力を持たなかった。
M谷もその手の理不尽感を持ってはいたが、どちらかというとそれは変態的な分野にカテゴライズされるのに対し、S倉やO倉の持つ理不尽感はある意味王道で、世紀末破壊者的な剛を持って剛を制するようなカテゴリーのものだった。
なので僕は、不良グループはもちろんのこと、とかくS倉とO倉、この2人との接触遭遇には細心の注意を払い、避け続けていた。
にもかかわらず、災厄というものはそのような僕の危機察知能力をいともたやすく掻い潜ぐり、突然の天変地異のように迷惑極まりなく、降りかかってくるのだった。

 体育でのバスケットボールの授業が終わり、水飲み場で顔を洗いながら汗を流していると、O倉が当然現れ、「何で汗かいてんじゃあーー!!」とキレられて、左顎を激しく殴られた僕。
汗ぐらいかくよ、夏場なんだから・・・・・・。
 昼食用に買っていたおにぎりを、トイレに行って席を外していたほんのわずかな間に、S倉に強奪されて食べられた。
しかも数種類買っておいたおにぎりの中から、その日のメインにとちょっと奮発して買った松茸ご飯のおにぎりのみを奪い去られたのだから、なおのこと悔しかったです。
 昼休みにクラスメートとサッカーをしていて、蹴ったボールが塀を超えてしまい、学外に出てしまった。
いいよ、僕が取ってきてあげるよと、親切心を出したことが仇となってしまった。
塀を乗り越えボールを回収し戻ろうとした瞬間、よりによって社長出勤してきたS倉と遭遇してしまった。
クイクイと手招きされて、なすすべなく従った僕は、S倉に無言で腹に何発も何発も、とても重いパンチを食らってしまった。
本当S倉にしろO倉にしろ、何でこいつらの繰り出すパンチって、無意味にあれほど痛く重かったのだろうか。
散々な目に遭ったとへこんで校内に戻った僕は、再開したサッカーにおいてシュートしようと思ったら、ボールではなく地面から出っ張ったマンホールを思い切り蹴ってしまい、激しく右足の親指から中指までの3本の指を、突き指してしまったのだから、まさに泣きっ面に蜂。

 部活の時間では、僕の在籍する野球部と隣接する形でサッカー部が練習していた。
そのサッカー部にはO倉が在籍していた。
 トスバッティングの時間に、O倉がおもむろにこちらにやって来たかと思ったら、「俺にも打たせろや!!」と、またよりにもよって数あるグループの中から、僕がいるグループのところにやって来た。
しかも僕がトスを放る順番をしている時にだ。
もういいや、さっさと終わらせて機嫌良く帰ってもらおうと思って投げた僕のボールが、O倉にとっては思いのほか速く感じたのか、空振り。
次の瞬間、バットを放り投げ僕の元へ猛突進してきたO倉。
それはまるで、珍プレー好プレーの乱闘シーンのようであった。
クロマティーもびっくりの強烈な左ストレートをO倉は、僕の顔面に1発、2発、3発・・・・計6発お見舞いした。
もう放心状態だったよ、僕は。
別にボールをぶつけたわけでもないのに。

 部活にまつわるS倉、O倉のエピソードといえばもう1つ。
 水分補給の大切さを謳われている現在と違い、僕らの中学時代はまだ長時間の練習中にほとんど休憩がない、水なんてとてもじゃないが飲めないという風潮がまだ残っていた。
なので、練習がすべて終わった後に飲むお茶、水筒に入れて家から持参してきたお茶で乾いたのどを潤すのが、何より至福の一時だった。
夏場などは特にそうだった。
 ところがだ、僕がそんな思いのために毎日持ってきていた重くてかなり大きい水筒に入ったお茶を、部活が始まるはるか前の休み時間に、僕に黙って勝手に漁っている奴らがいた。
S倉とO倉だ。
さもありなん、さも当然だとでもいうかのごとく、休み時間になる度にやって来ては、「茶をよこせや!!」と、手慣れた手つきで僕の水筒を扱い、グビグビグビグビお茶を飲んで去っていった。
しかも僕が席を外していようがいまいがまったく関係なく、「ガッハッハッハ!!」と山賊が盃を掲げて飲み干すように、グビグビグビグビやりやがっていた奴ら。
 やがて不良グループに媚びていたとあるクラスメートが、S倉とO倉以外の連中にも、「本田はお茶を大量に隠し持っている」などと吹いて回った挙句、何かもう休み時間に僕の水筒を囲んでの、不良グループコミュニティーの場が形成されていって、完全に僕のお茶セルフサービス状態になっていた。
こうなると、当時かなり大容量の水筒を持参して登校していた僕であったが、多勢に無勢。
放課後になっていざ部活が始まる頃には、もう僕の分のお茶なんてほとんど残ってやしなかった。

 S倉とO倉を筆頭とした不良たち、天災とも災厄とも不幸な事故とも形容し切れぬ、どうにも気持ちが割り切れない、理不尽以外の何物でもない存在が、確かに僕の参中時代には脅威として存在していた。

 S倉よ、O倉よ、圧倒的ではないか・・・・!!
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登場人物紹介

僕(本田)・・・1997年4月から2000年3月まで参中に通い、ありとあらゆるトラウマを背負う。野球部所属。

Y下・・・同級生男子、野球部を通して出会った終生の親友。

O田・・・同級生男子。天然な性格で癒し系、僕の終生の親友3人衆の1人。

S木・・・同級生男子。プロ野球の知識が豊富な僕のプロ野球仲間で、終生の親友3人衆の1人。

T中先生・・・野球部の顧問であり社会科の教師。鬼の厳しさを持っており、僕は戦々恐々の思いを抱く。

M谷・・・入学式で倒れたところを僕が助けたがために、付きまとわれる羽目に。僕の参中での3年間の命運を、ある意味大きく握って狂わせた元凶たる同級性男子。

S倉・・・同級生男子で不良グループの中心的人物。何かと理不尽な暴力が絶えない人物。

O倉・・・S倉と共に不良グループの中核を担っていた同級生男子。一方的な肉体言語を持って、学内を闊歩している。

OS・・・同級生女子。僕が恋焦がれていた女子だった。

K田先生・・・ハゲ頭の音楽教師。個性的な強烈なキャラを持ったオッサン。

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