第16話

文字数 3,453文字

 「参中ファイト4」

 ~N松、出入り禁止!?~
 とある日曜日の午後、野球部の練習が午前中で終わりましたため、僕はクラスメートのN松とK口と共に、駅前のショッピングセンターへとやってまいりました。
僕たちのお目当てはと言いますと、ショッピングセンター内の4階にあります、ゲームコーナーです。
メダルゲーム、ビデオゲームに体感ゲームなどなど、様々なゲームが所狭しと並んでおります。
 
 そんな中、まず僕たちが足を止めましたのは、お馴染みのパンチングマシンであります。
トップバッターはK口、左手でマシンにパンチを繰り出しました。
ですが3回のパンチによる合計ポイントが、規定のクリアポイントに届きませんでした。
残念そうなK口、思わず天を仰いでおります。
続きまして、僕の番がやってまいりました。
僕はあまり、格闘系の技量には長けておりません。
鬼のT中先生率いる野球部の猛練習で鍛えられていると言いましても、握力などの腕力に限りましては、おそらく中学生男子の平均値とそれほど大差はないと思われます。
案の定、3回のパンチの合計ポイントが、規定のクリアポイントには届きませんでした。
 さあここで殿を務めます、N松が入場してまいりました。
長身で比較的がっちりとしておりますパワー系の体格から、果たしてどんなパンチが繰り出されるのでありましょうか!?
軽く右腕を回しておりますN松、その拳を天に突き上げました!!
早くも勝利宣言だ!その表情には余裕が、王者の風格が存分に漂っております!!
1回目のパンチ、2回目のパンチと、なかなか良いスコアを叩き出しましたN松。
ただ、ラストの3回目も同程度のポイントでありますと、若干規定のクリアポイントには届きそうにありません。
ラスト1発のパンチには、今まで以上の破壊力が求められることになりますが、はてさて。
さあN松泣いても笑ってもこれがラストチャンス、体勢を整えました。
おーーっとだがここで何を思ったのでありましょうか、N松、全体重を右肩に預ける体勢を取りました!!
そうしてそのままパンチングマシンに、右肩から猛烈にタックルをかましました!!
「ズドン!!」という擬音が出てしまうのではないかというくらいの、マシンが凄まじい音を立てましたーー!!
肝心のポイントは・・・・あーしかし、わずか2ポイント届いておりません!!
残念無念、捨て身のタックルもかなわず、N松はここでリタイアであります!!
いやそれよりも何よりも、明らかな反則であります。
ですがここまで堂々と反則に徹すれば、ある意味清々しいのか理解には苦しみます。
 しかし現実は、やはり厳しかった!!
当然ながら、ゲームコーナーのスタッフが僕たちのところへやって来まして、厳重注意!激しい厳重注意であります!!

 気を取り直しまして、今度はクレーンゲームに挑戦であります。
気になる景品はと言いますと、某飲料メーカーのロゴが入りました、インスタントカメラでありましょうか。
僕は少々クレーンゲームの腕には覚えがありましたので、ここは積極的に先陣を切りまして挑戦であります。
様々な角度に移動いたしまして、アームと景品の距離感を念入りに測っております。
 いよいよ硬貨を投入いたしまして、クレーンゲーム挑戦開始であります!!
慎重にアームをまずは縦移動させまして、続けて横移動させてまいります。
その時でありました、ショッピングセンターの店内放送が流れました。
「お客様のお呼び出しを申し上げます。M谷様、M谷様、至急1階インフォメーションセンターにお越しくださいませ。」
あっと、休日には絶対に聞きたくないその名前を耳にしましたせいでしょうか、脳裏に奴の姿が一瞬でもよぎってしまったのか、微妙に僕のボタン操作の手元が狂った!?
とりあえず移動は完了いたしまして、あとはアームで景品を掴み取れるかということを残すのみとなりました。
ゆっくりと降下していきますアームが景品を掴んだぞ、そのまま持ち上げまして、取り出し口の穴まで運び切れるのか、あとわずかであります。
あーーっとしかしここで無情にも、景品がアームから落下してしまいました!!
取り出し口までの距離、5センチメートル!これは惜しい悔しい!!
 ですがここで、N松が再び立ち上がりました!!
クレーンゲームの筐体の下部をがっちりと掴みまして、おもむろに力一杯ゆすりだしました!!
その激しくも小刻みな振動によりまして、景品の山の頂を滑り落ちるように落下するように、僕が取り損ねました景品が、見事に取り出し口へと落下いたしました!!
僕は呆気に取られております、予想外の景品ゲットにうれしくないと言えばウソになりますが、心の中ではN松の不本意なアシストに対しまして、「アンタ、何ばしよっとねえーー!!」と大絶叫であります!!
 そんな僕たちの元に、またしてもスタッフがやってまいりました!!
さすがに目に余り過ぎたN松の暴挙の数々に、怒り心頭景品は没収であります!!
さらに「今度やったら、出入り禁止にします!!」と、僕たち3人に向けて最後通告であります!!
仕方なく僕たち3人は退場、まさに因果応報であります。
良い子の皆さん、決してマネしてはいけません。
ゲームはルールを正しく守り、遊びましょう!!


 ~故意するM谷、大乱闘!?~
 さあ本日は球技大会、クラスマッチであります。
僕たち男子はソフトボールに興じまして、各クラス優勝を目指して奮闘しております。
 我がクラスはと言いますと、ただ今2点ビハインドで攻撃中、1試合辺り50分という時間制限が設けられております関係上、この攻撃がおそらく最後の攻撃になりそうです。
何とか同点、あわよくば逆転サヨナラ勝ちに持っていきたいところであります。
ですがこの回の攻撃が下位打線からというところが、若干苦しいでしょうか。
先頭打者のS吉がヒットで出塁しましたが、K林は三振に倒れまして一死。
 ここで、ラストバッターM谷の登場であります!!
M谷の運動能力の絶望的な様子が、最も下という打順からもおわかりいただけると思います。
1球目空振り、2球目も空振り!!
共にタイミングはかなりずれておりますし、ボールとバットが60センチは離れていようかという、ある意味期待を裏切りません空振りです。
チームメートもM谷がアウトになっての二死は覚悟しているのか、1番に入っていました僕も、入念な素振りを欠かさず、準備に余念がありません。
 さあ3球目、余裕のピッチャーが投げました。
コースはど真ん中、完全にストライクコースであります。
あーーっとしかしここでM谷、投げ込まれましたボールに向かって右腕を出しました!!
ボールはM谷の右腕を直撃であります!!
それを見届けまして、M谷は禍々しい気持ち悪い笑顔を浮かべながら、一塁へ歩き出しました。
ですがここで、球審を務めております体育委員が待ったをかけました!!
今の投球はストライクであり、故意にボールに当たりましたM谷は見逃し三振でアウトだと、主張しております!!
この判定にM谷は激怒していますが、ルール上は完全にストライクでありますから、聞き入れられるはずもありません。
なおも抗議を続けながら食い下がっております、M谷!!
球審の体育委員に詰め寄っています、顔が近い!顔が近い!!顔が臭い!!
ものすごく気持ち悪そうに嫌そうに、顔を背けながら球審はまったく聞き入れません!!
 するとM谷はバットを手にしたぞ、そのまま力一杯地面を殴ろうとしたのでしょう、思い切り振りかぶりました。
だが空振りだー!!地面を殴りつけることもできずに、M谷空振りであります!!
さらに勢い余りましたM谷は、盛大に背中から地面に転倒!!背中を強打しております!!
あまりに痛かったのでありましょうか!?
魚のように口をパクパクさせて、酸素を欲しながらM谷はもがいております!!
そんな一部始終にも、皆慣れた様子で完全にシカトを決め込んでおります!!
僕ももはやお馴染みのM谷の暴挙に、さっさとバッターボックスに入りまして、試合再開であります!!
グラウンドの片隅では未だ、何とか誰かの気を引きたいのでありましょうか、痛そうにバタバタと手足を動かしてアピールしておりますM谷。
ストーキングテロリストで困ったちゃんのM谷、もう土に還りたまえ・・・・。
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登場人物紹介

僕(本田)・・・1997年4月から2000年3月まで参中に通い、ありとあらゆるトラウマを背負う。野球部所属。

Y下・・・同級生男子、野球部を通して出会った終生の親友。

O田・・・同級生男子。天然な性格で癒し系、僕の終生の親友3人衆の1人。

S木・・・同級生男子。プロ野球の知識が豊富な僕のプロ野球仲間で、終生の親友3人衆の1人。

T中先生・・・野球部の顧問であり社会科の教師。鬼の厳しさを持っており、僕は戦々恐々の思いを抱く。

M谷・・・入学式で倒れたところを僕が助けたがために、付きまとわれる羽目に。僕の参中での3年間の命運を、ある意味大きく握って狂わせた元凶たる同級性男子。

S倉・・・同級生男子で不良グループの中心的人物。何かと理不尽な暴力が絶えない人物。

O倉・・・S倉と共に不良グループの中核を担っていた同級生男子。一方的な肉体言語を持って、学内を闊歩している。

OS・・・同級生女子。僕が恋焦がれていた女子だった。

K田先生・・・ハゲ頭の音楽教師。個性的な強烈なキャラを持ったオッサン。

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