赤いシート
文字数 1,493文字
突然だった。
いや、突然ではなかったのかもしれない。気づいていないのは私だけで、徐々に進んでいたのだろう。
違和感に気づいたのはグループライン。私のコメントにだけ、反応が鈍くなった。
4人のグループラインだから、私以外は3人。その3人のトークは軽快に進む。
私が発言すると、しばらく既読がつかなかったり、既読がついても返信がなかったりすることがあった。
毎回ではない。たまに。
会うと普通だから、たまたまスマホを見てなかったとか、トイレに行ってただけなんだろうと気にしないことにした。気にすると今にも深い穴に落ちてしまいそうだった。
私たち4人は中1の春にバスケ部に入部し、友達になった。私と美夏は同じ小学校出身。友達になったのは中学校に入学してからで、小学校で同じクラスになったことはなかった。佑衣と晴美は私たちとは別の小学校で、2人も中学に入ってから友達になったそうだ。だから結局、みんな中学生になってバスケ部に入ってからの友達。
入部して間もないころ、ふたり組になってする筋トレで私は美夏と組んだ。小学校が同じで顔は知っていたから声をかけやすかった。佑衣と晴美も同じ理由でふたり組になっていた。そして私たち4人が筋トレをした場所が隣だった。
中学1年生、入部してすぐの体作りの筋トレ。ハアハア言いながら、その辛さを分かち合うように、目を合わせては笑い合い、無言で励まし合った。その日から私たちは仲良しグループになった。
決定的なことが起きたのは、6月。
佑衣が、ラインのストーリーに私以外の3人が私服で笑っている写真をアップした。
続けてアップされたのはカップのドリンクを3人が乾杯するように合わせた写真。写真の上に「たのしかった〜♡ また行こうね!」とメッセージが書かれていた。
心臓の温度が下がったような気がした。
私服って、どういうこと?
休みの日にみんなで集まって遊んだっていうこと?
私はなにひとつ聞いていなかった。
誘われていなかった。
スマホは学校には持って行ってはいけないことになっている。だからいつも通り部活を終えて家に帰ってからそのストーリーを見た。
その日の部活でもそんな話はしていない。いつも通り楽しく話していた、はず。
いつの写真だろう……。
見間違いかもしれないと思いもう一度ラインアプリをタップし、ストーリーを見た。
さっきと同じ、佑衣のストーリーがあった。
私はどう解釈していいかわからず、スマホを置いてリビングに行った。
晩ごはんは、なにもなかったように普通の顔をして食べた。
なんの味もしなかった。
部屋に戻り、もう一度ストーリーの画面を開いた。
さっき見た佑衣のストーリーは消えていた。
ストーリーは、24時間経つと自動的に消える仕組みになっている。でも、消えたんじゃない。佑衣が削除したんだと思った。
ストーリーには、見た人の閲覧履歴が残る。そこに私のアイコンが残ってしまう。
そうは考えたくないけど、私が見たと気づいて慌てて消したんだと思った。
佑衣は、公開設定を間違えたのかもしれない。私が知らないところで、もっともっと楽しいストーリーが交わされているのかもしれない……。
泣きたくなるような不安が渦巻いた。
英単語の参考書が勉強机の上に開いたままになっていた。開かれたページの上に、赤いシートが乗っている。答えを隠して見えないようにするためのシート。
そのシートを外すと赤い文字で書かれた答えが見える。
私の見ている世界は赤いシート越しなんだと思った。
答えは見たいのに見えない。
私の世界を遮る赤いシートは、外したいのに外れない。
いや、突然ではなかったのかもしれない。気づいていないのは私だけで、徐々に進んでいたのだろう。
違和感に気づいたのはグループライン。私のコメントにだけ、反応が鈍くなった。
4人のグループラインだから、私以外は3人。その3人のトークは軽快に進む。
私が発言すると、しばらく既読がつかなかったり、既読がついても返信がなかったりすることがあった。
毎回ではない。たまに。
会うと普通だから、たまたまスマホを見てなかったとか、トイレに行ってただけなんだろうと気にしないことにした。気にすると今にも深い穴に落ちてしまいそうだった。
私たち4人は中1の春にバスケ部に入部し、友達になった。私と美夏は同じ小学校出身。友達になったのは中学校に入学してからで、小学校で同じクラスになったことはなかった。佑衣と晴美は私たちとは別の小学校で、2人も中学に入ってから友達になったそうだ。だから結局、みんな中学生になってバスケ部に入ってからの友達。
入部して間もないころ、ふたり組になってする筋トレで私は美夏と組んだ。小学校が同じで顔は知っていたから声をかけやすかった。佑衣と晴美も同じ理由でふたり組になっていた。そして私たち4人が筋トレをした場所が隣だった。
中学1年生、入部してすぐの体作りの筋トレ。ハアハア言いながら、その辛さを分かち合うように、目を合わせては笑い合い、無言で励まし合った。その日から私たちは仲良しグループになった。
決定的なことが起きたのは、6月。
佑衣が、ラインのストーリーに私以外の3人が私服で笑っている写真をアップした。
続けてアップされたのはカップのドリンクを3人が乾杯するように合わせた写真。写真の上に「たのしかった〜♡ また行こうね!」とメッセージが書かれていた。
心臓の温度が下がったような気がした。
私服って、どういうこと?
休みの日にみんなで集まって遊んだっていうこと?
私はなにひとつ聞いていなかった。
誘われていなかった。
スマホは学校には持って行ってはいけないことになっている。だからいつも通り部活を終えて家に帰ってからそのストーリーを見た。
その日の部活でもそんな話はしていない。いつも通り楽しく話していた、はず。
いつの写真だろう……。
見間違いかもしれないと思いもう一度ラインアプリをタップし、ストーリーを見た。
さっきと同じ、佑衣のストーリーがあった。
私はどう解釈していいかわからず、スマホを置いてリビングに行った。
晩ごはんは、なにもなかったように普通の顔をして食べた。
なんの味もしなかった。
部屋に戻り、もう一度ストーリーの画面を開いた。
さっき見た佑衣のストーリーは消えていた。
ストーリーは、24時間経つと自動的に消える仕組みになっている。でも、消えたんじゃない。佑衣が削除したんだと思った。
ストーリーには、見た人の閲覧履歴が残る。そこに私のアイコンが残ってしまう。
そうは考えたくないけど、私が見たと気づいて慌てて消したんだと思った。
佑衣は、公開設定を間違えたのかもしれない。私が知らないところで、もっともっと楽しいストーリーが交わされているのかもしれない……。
泣きたくなるような不安が渦巻いた。
英単語の参考書が勉強机の上に開いたままになっていた。開かれたページの上に、赤いシートが乗っている。答えを隠して見えないようにするためのシート。
そのシートを外すと赤い文字で書かれた答えが見える。
私の見ている世界は赤いシート越しなんだと思った。
答えは見たいのに見えない。
私の世界を遮る赤いシートは、外したいのに外れない。