パステルカラーのキーホルダー

文字数 935文字

 1月。

 バッシュが見つかった。

 絵里花が届けてくれた。

 吹奏楽部が市のボランティア活動に参加し、河原のゴミ拾いをした。草むらでバッシュを見つけた部員の子が「FUTABA」と名前が書いてあるのを見て私のものではないかと絵里花に渡してくれたそうだ。

 ミニバスで同じチームだった絵里花は中学では吹奏楽部に入部した。
 小学生のころショートカットだった絵里花の髪は、ずいぶん伸びて後ろで束ねてある。

「なにがあったの……?」

 私は言葉が出ずにうつむくしかなかった。

「きっとすごく辛いことがあったんだね……」

 しばらく黙ったまま、2人でバッシュを見ていた。
 薄汚れていたけど、絵里花が汚れを拭いてくれたんだろうなということがバッシュから伝わってきた。

「私、二葉に憧れてたんだ。二葉はバスケがすごく上手(うま)くて、しんどいときも誰よりもがんばって最後まで諦めずに走って……。かっこいいな、私もあんなふうになりたいなってずっと思ってた。でも6年までバスケを続けて、自分には無理だってわかっちゃった。私は二葉みたいにはなれないなって。だからバスケをやめて吹奏楽部に入った。音楽が好きだから。今度こそ二葉みたいに輝くぞ! って思ってる。そう思ってがんばってるんだよ……」

 絵里花の目には涙があふれていた。

「二葉はコートで輝いてなきゃ。輝いてほしい。私は本当に二葉のプレーが大好きだから……」

 絵里花は私の手を握りながらうつむいて泣き出した。

「ごめんね……。私の思いを押しつけてるだけだね……。二葉は辛いのに……。ごめん……ごめん……」

 絵里花はひっしで思いを伝えてくれた。絵里花の手に涙が落ちる。その涙が握られた手をつたって私の心に染み込んでいくような気がした。

 絵里花の(かばん)には音符を(かたど)ったパステルカラーのキーホルダーがついている。

 みんなそれぞれ大好きなものがあって、大切で、でも時には辛いこともあって……。

 でも好きだからがんばる。

 体育館の床を叩くバスケットボールの音が頭の中で響いた。

 バスケを取り戻したい。

 父がおもちゃのボールを手渡して私に言った言葉が、初めて私の言葉になって(あかり)をともした。

 それは小さなまたすぐに消えてしまいそうな(あかり)だったけど、確かにそのとき私の心をそっと照らした。
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