黄色い自転車
文字数 1,470文字
「私はね、起立性調節障害っていう自律神経の病気だったんだ」
勇気を出してすみれさんに「話がしたいです」と言ってみた。
サークルの練習が終わってから、体育館の近くのファミリーレストランに行った。父は「見たいものがあるから」とショッピングモールに行くと言う。「話が終わったら連絡して」と。私がすみれさんと2人で話したい気持ちをわかってくれたんだと思った。
すみれさんとひとつずつパフェを頼んで、それを食べながらすみれさんが話してくれた。
「起立性調節障害」
初めて聞く言葉だった。
「朝、起き上がれなくなったの。体が怠 くて……ひどい眩暈 と吐き気で……」
「どうしても、どうしても学校に行けなかった」
「母は泣きわめくし、私のことで父と母がしょっちゅう喧嘩するし、家の中が暗くて……きつかった……」
「私の兄は難関私立中学に合格したの。私は中学受験に失敗して地元の中学に行ったんだ。でも中学校は楽しかった。バスケ部に入ってみんなと練習するのが楽しくて。でも母がもっと勉強して高校受験で見返さないと、って。それでバスケ部をやめろって。私は、あぁそうだな、もっと勉強して今度こそ合格しないとなってバスケ部をやめた。それなのに成績は上がらないどころか下がっていって……」
「なにがなんだかわからないよね」
「そうこうしてるうちに、病気になっちゃった」
辛いことを話してくれているすみれさんのパフェの方が残り少ない。私のパフェはほとんど手付かずのままだ。
「ふぅちゃん、パフェ食べないとアイス溶けちゃうよ」
すみれさんは私のパフェを見て笑いながら言った。
「とても辛い話をしてくださってありがとうございます」
「そんな堅っ苦しい言葉使わなくていいよ! ふぅちゃんも気使っちゃう派?」
「あ……、」
「もしよかったら、ふぅちゃんの話聞かせて?」
「私は……」
「パフェ食べてからでいいよ」
ラインのことやバッシュのことももちろん辛かった。でも誰にも相談できない辛いこと——。
「言葉が出なくなるんです……」
すみれさんは私をまっすぐ見つめて聞いていた。
「話したいのに、普通に話したいのに、表情も固まって、言葉が全く出なくなるんです」
「たぶん、同級生に対して……。同級生でも話せる人もいて……。どうしてこうなるのか、自分でもわからなくて」
「そうか……」
すみれさんは静かに言った。
「それは辛くて、すごく不安だね」
「自分になにが起きてるかわからないって不安だよね」
すみれさんは私の気持ちを解読してくれているみたいだった。
「私はこうしてふぅちゃんと出会えてうれしいし、ふぅちゃんとバスケができることが楽しいし、ふぅちゃんのプレーを見るだけで元気が出るよ」
父から預かったお金ですみれさんのパフェ代も一緒に払おうとしたら頑なに断られた。そしてそれぞれ自分の代金を払い、店を出た。
「またよかったら話 しよ」
「ありがとうございます」
「ほら〜、ありがとうでいいって。あのサークルでは年齢とか関係ないでしょ」
そう言えばサークルのみんな、歳なんて関係なく友達同士みたいに話してる。
「ありがとう」
私がそう言うと
「こちらこそ」
すみれさんは本当に年上としてではなくそう言ってくれたのだと思った。
そして黄色の自転車にまたがって帰って行った。
「かっこいい自転車」
車に乗って私が言うと
「クロスバイクだね」
と父が言った。
すみれさんにとても似合う黄色い自転車。その姿だけを見ていたら、すみれさんにそんな辛いことがあったなんて想像できない。
黄色い自転車で走るすみれさんの姿が、いつまでも頭から離れなかった。
勇気を出してすみれさんに「話がしたいです」と言ってみた。
サークルの練習が終わってから、体育館の近くのファミリーレストランに行った。父は「見たいものがあるから」とショッピングモールに行くと言う。「話が終わったら連絡して」と。私がすみれさんと2人で話したい気持ちをわかってくれたんだと思った。
すみれさんとひとつずつパフェを頼んで、それを食べながらすみれさんが話してくれた。
「起立性調節障害」
初めて聞く言葉だった。
「朝、起き上がれなくなったの。体が
「どうしても、どうしても学校に行けなかった」
「母は泣きわめくし、私のことで父と母がしょっちゅう喧嘩するし、家の中が暗くて……きつかった……」
「私の兄は難関私立中学に合格したの。私は中学受験に失敗して地元の中学に行ったんだ。でも中学校は楽しかった。バスケ部に入ってみんなと練習するのが楽しくて。でも母がもっと勉強して高校受験で見返さないと、って。それでバスケ部をやめろって。私は、あぁそうだな、もっと勉強して今度こそ合格しないとなってバスケ部をやめた。それなのに成績は上がらないどころか下がっていって……」
「なにがなんだかわからないよね」
「そうこうしてるうちに、病気になっちゃった」
辛いことを話してくれているすみれさんのパフェの方が残り少ない。私のパフェはほとんど手付かずのままだ。
「ふぅちゃん、パフェ食べないとアイス溶けちゃうよ」
すみれさんは私のパフェを見て笑いながら言った。
「とても辛い話をしてくださってありがとうございます」
「そんな堅っ苦しい言葉使わなくていいよ! ふぅちゃんも気使っちゃう派?」
「あ……、」
「もしよかったら、ふぅちゃんの話聞かせて?」
「私は……」
「パフェ食べてからでいいよ」
ラインのことやバッシュのことももちろん辛かった。でも誰にも相談できない辛いこと——。
「言葉が出なくなるんです……」
すみれさんは私をまっすぐ見つめて聞いていた。
「話したいのに、普通に話したいのに、表情も固まって、言葉が全く出なくなるんです」
「たぶん、同級生に対して……。同級生でも話せる人もいて……。どうしてこうなるのか、自分でもわからなくて」
「そうか……」
すみれさんは静かに言った。
「それは辛くて、すごく不安だね」
「自分になにが起きてるかわからないって不安だよね」
すみれさんは私の気持ちを解読してくれているみたいだった。
「私はこうしてふぅちゃんと出会えてうれしいし、ふぅちゃんとバスケができることが楽しいし、ふぅちゃんのプレーを見るだけで元気が出るよ」
父から預かったお金ですみれさんのパフェ代も一緒に払おうとしたら頑なに断られた。そしてそれぞれ自分の代金を払い、店を出た。
「またよかったら
「ありがとうございます」
「ほら〜、ありがとうでいいって。あのサークルでは年齢とか関係ないでしょ」
そう言えばサークルのみんな、歳なんて関係なく友達同士みたいに話してる。
「ありがとう」
私がそう言うと
「こちらこそ」
すみれさんは本当に年上としてではなくそう言ってくれたのだと思った。
そして黄色の自転車にまたがって帰って行った。
「かっこいい自転車」
車に乗って私が言うと
「クロスバイクだね」
と父が言った。
すみれさんにとても似合う黄色い自転車。その姿だけを見ていたら、すみれさんにそんな辛いことがあったなんて想像できない。
黄色い自転車で走るすみれさんの姿が、いつまでも頭から離れなかった。