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文字数 1,155文字
血を滴らせながら、イグネフェルは夜空を風に流された。
夜より暗い大地に、忘れ去られた人の家がある。
その家の戸は歪んでおり、ノックをすれば大きく撓 む。
盲目の老人は、眠らずに息子を待っていた。
闇を這う気配がし、閂が外れた。
誰が押さなくとも、戸は勝手に外に向かって開かれた。
ナーシュは両手を伸 べながら戸口から一歩踏み出して、イグネフェルに触れようとした。
家に入り、閂をかけても、汚泥の臭いを締め出せた気はしなかった。
暗闇、そここそは、父なる者の住処だった。
イグネフェルは手探りで椅子を探し当てる。
老人は自分の唾で噎せこんだ。
咳がやみ、老人は痰壺に痰を吐き出した。
その音を聞きながら、イグネフェルは決意した。