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文字数 1,567文字
鋭い光ではない。
誘うような、包み込むような、優しい光だった。
眠ることも、休むことも必要とせず空を漂っていたイグネフェルは、手をかざし、目を細めて光の正体を見定めた。
あとから水が一筋、二筋、そしてわずかな亀裂から
小さな町の
ピションに残る最後の王国の、小さな町がまた一つ死ぬ。
イグネフェルはただ息をつく。
風に流され漂いながら、目は瀑布から離れない。
イグネフェルは翼を撫でる。
『弔旗』
指はその紋様に留まり動かない。
何かの言い訳のように。
血塗られた右の翼は右の掌に、左の翼は左の掌に、紋様となって隠された。
歩き続けると、霧の向こう、人影が見えてきた。
二十ばかりの人々が、彫像のように動かずに、イグネフェルに横顔を向け、彼方に視線を送っている。
中年の女。
中年の男。
声をかけながら、一行の後ろを歩いた。
端にいる、三十前後の男がようやく反応して振り向いた。
近くにいる女性と子供、そして手を組み一心に祈る老女は彼の家族であるようだった。
凝視の対象を指で差すような真似はしなかった。
イグネフェルは背を向けて歩く。
『器』があの状況では、いずれ彼らが立つ場所にも水が届くだろう。
今度は大木が見えた。
その木陰には、大人の背よりも大きな墓碑。
英雄的な人物の墓なのだろう。
その前に立っている人が二人。
墓に寄りかかって倒れている人が一人いた。
臭いで死んでいるとわかった。
人でなき身に疲れなどあるはずもなく、それでもなお、今すぐ次の敵を求めて飛び去る気にはなれなかった。
歩く内、今度は荒れた教会が見えてきた。
ガイアの紋様が掲げられた屋根までが、蔦に覆われている。
そのため充分に近付くまで、その建物が木造なのか、石造なのかもわからなかった。
ただ、夜まで身を
若い司祭だった。
だが、女司祭は質問に気を悪くするでもなく、静かな、透き通る声でイグネフェルを招いた。