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文字数 1,043文字
ヴィゼリーとリーセリーの聖劇の内容はこうだった。
紋様術師として、ガイア教会の施設で育てられた幼少期。
鍛錬に励んだ少年期。
そして器継承戦争の勃発。
我が姉プレリュールは薨 られたばかりの『器の魔女』の後継者でありながら、教会領を切り売りする内容の証文を国内外の諸侯と交わした。
これは一切の世俗の事柄への関与を断たねばならない聖務への冒涜行為であり、今後も蓄えた財で政治の領域に干渉する意図が明らかだ。このような人物が『器の魔女』の座につくことを許すわけにはいかない。
かつての教会領の住人たちが、王侯貴族の重税に喘ぐ現状を皆は知っているはずだ。どうか彼らを救うためにも、また世界を守る器を保持するためにも、王軍を味方につけたプレリュールの打倒に協力してほしい!
(ねえ、あの子)
ひそひそ声で現実に引き戻された。
イグネフェルとミクリラは、またしても不審げな目に取り囲まれていた。
(イグネフェル……)
(そっくり……)
(まさか……)
(そんなわけないだろう。大人しそうな子じゃないか)
ミクリラが囁きかけてきた。
広場を埋めるほどの観衆なのに、二人の周りだけ、両腕を伸ばしても誰にも当たらないくらい人が離れていた。
舞台に背を向けるとき、その内緒話が耳に飛び込んできた。
(ふん。あたしは知ってるよ。ナーシュにおかしな紋様を組み込まれるまであのイグネフェルもいい子だった。
父親があの子を狂わせたんだ)
衝動的に、イグネフェルは会話する老人たちのほうを振り向いてしまった。
広場が静まり返る。
舞台の上さえも。
その沈黙を破るのは、舞台の上の一人の女。
その役はセレナル。
世界の涙の魔女、セレナル――。
イグネフェルもミクリラも、観衆に取り囲まれていた。
逃げ場はなかった。