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エピソード文字数 1,454文字

隣の家まで歩いていくと、ミクリラに会うことができた。

彼女は戸口に座り込み、物思いに耽っていた。

ん?
ああ、あんたね。
ただいま、ミクリラ。君と話がしたいんだ。
ずいぶん早いお帰りね。ビビって逃げ帰ってきたの?
ううん、魔女の部下のヴィゼリーっていう人について知りたいんだ。
どこでヴィゼリーのことを知ったの?
会ったんだ。

でも君がさっき言った通り、逃げるのが精一杯で。

…………。
東のアグアはどうしたのさ。
討ち取ったよ。
じゃあ次は南の城塞にしておけば。そこにいるのはクヴァという肥満体でね――
実はクヴァも討ち取ってきたんだ。

ひどく痩せてた。(がん)だったんじゃないかな。

………………。

わかった。前言撤回するよ。

なかなか大したもんじゃない、あんた。

でもヴィゼリーはまだ早い。

翼の性能が優れていても、あんたじゃ経験が足りないよ。

でも、僕は魔女セレナルを討たなければならないんだ。

セレナルはヴィゼリーより強いはずだよね。

それはそうだけどさ。
セレナルを討って、正当な『世界の涙の魔女』を一日も早くその座につけなきゃいけないんだ。

僕は東の城塞の近くで器が壊れるのを見たよ。

小さな町が滅んでしまった。

ねえ。
顔なしジジイに黙っておくならあんたを町に連れてってあげる。
えっ?
ちょうど今日は聖ヴィゼリーの祝日なんだ。手がかりが得られるかもしれないね。
『聖』……?
ガイア教会のやり口さ。

器継承戦争が終わった後、セレナルの手下を城塞に閉じ込めて、生きたまま列聖(れっせい)したんだ。

そうしてセレナルや外界にたいする発言力の一切を奪ったわけ。

ま、おじいちゃんは賢いからそれを免れたわけだけど。
リーセリーっていう人について何か知ってる?
ヴィゼリーの妹ね。

彼女の死は悲劇の物語として民衆の間で消費されてるの。

お涙頂戴の演劇(だしもの)ってわけさ。

ミクリラは油断なく目を配り、人がいないことを確かめた。
それにも会ったって言うつもり?
うん。でも戦死してしまった人なら、僕と同様リーセリーも紋様兵器ってことになるよね。

ヴィゼリーって人もそうだ。

若い姿のままだったよ。

セレナルもそうだよ。

変わらぬ若さと美貌を手に入れるために魔女になったって言われるくらいだし。

体に紋様を組み込めば、不死はともかく不老にくらいはなれるみたいだね。

とにかく、ヴィゼリーにリーセリーがついてるんだったら、そっちだけでも対策しないとね。あんたに二人をまとめて相手にするとか無理でしょう。
町に行ったら本当に手がかりが得られるかな。
何もしないよりはマシでしょ。

行って何が起きるかわからないけど……。

どういうこと?
初めて行ったとき、あんたはその姿でいてさえ『あの』イグネフェルじゃないかと疑われたってことを思い出すべきね。
!!

そうだった……

それに鐘楼で助祭に姿を見られたし……

助祭はいいのよ、あいつド近眼だし。あのとき鐘楼にいたのがあたしだってバレてたら、とっくに家までしょっぴきに来てるさ。

気をつけるのは町の人たちだね。

だけどビクビクしすぎてあたしまで変な目で見られるような事態は勘弁してちょうだい。

わかった。
イグネフェルは両手の紋様に視線を注ぎ、

背に金属の翼を顕現した。

町に行こう。掴まって。

案内してほしいんだ。

……い、いいよ、歩いていくよ!

そりゃあ時間はかかるけど……。

どうして時間がかかるやり方で行くの?
その…………
飛んでる間、あんたに体くっつけてなきゃいけないじゃん……?

それがあの…………ちょっと……。

あっ、そっか……ごめん……。

二人は徒歩で、隣町まで行くことにした。
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登場人物紹介

イグネフェル

本作主人公の紋様兵器。魔女を討伐するべく旅に出る。

涙を流す機能がない。

ヴィオレンタ

本作のヒロイン。

セレナル

『世界の涙の魔女』。

30年前の器継承戦争によって魔女の地位を継いだ。

ミクリラ

30年前に名を上げた英雄オーレリアの孫娘。

ナーシュ

イグネフェルの創り主。

30年前の器継承戦争で息子イグネフェルを失い、自身は顔面を奪われた。

ヴィゼリー

西の浮遊要塞の司令官。生ける紋様兵器。

リーセリー

ヴィゼリーが連れている紋様兵器。

オーレリア

30年前の器継承戦争の英雄。ミクリラの祖父。

アグア

東の浮遊要塞の司令官。

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