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文字数 1,698文字
ドーム型の天井、そのドームの最も高い位置の真下、つまり部屋の中央にその男は立っていた。
そこにだけ丸い絨毯が敷かれ、月と星の移ろいを写す窓と向かい合うソファ、そして小さなテーブル。
テーブルにはワインが既に二本空けられていた。
男の動作で床に物がばら撒かれるのを見た。
それは、赤の、黄の、青の、緑の……コインだった。
その色彩の豊富さから、おもちゃであることがわかる。
右手で触れる
『錬鉄』
『小銃』
左手で触れた紋様は、武器ではない。それは物語から生まれた紋様だった。
『魔弾の射手』
魔弾。
イグネフェルはその単語の意味を想像する。知らない物語を空想する。
両手を前へ。
小銃兵が小銃を構えるように。
だが、相手は戦い慣れた紋様術師。
その手には既に意中のコインが握られているのだろう。
体の向きを変えたアグアが顔の前で両腕を交差させる。
雨粒が大海に落ちるように、全ての弾が盾に吸収されていく。
アグアの体の前面から、真上へ。
それに合わせて、アグアの盾の位置も、体の向きも変えざるを得ない状況へ追い込んだ。
直撃したか確かめるまでもなく、顔に血しぶきを浴びた。
絶望的な声を上げ、アグアが弾き飛ばされる。遠くへ。
アグアが吹き飛ばされた線上に、血とおもちゃのコインとが、か細い道筋を描いていた。
その薄闇へと滑っていき、イグネフェルは、この室内でもっとも異様な物を見た。
とりわけ二つの乳房は大きく垂れ下がり――
……ママ…………
ぼくかんがえたんよ――
かわい、そうな…………
しなない
もの
がたり
…………――――――
そして、息絶えようとしているその顔を、あたかも乳児の母のように、己の乳房に押し付けた。
次に顔を背け、それから背を向けて歩み去った。