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文字数 2,222文字
葬列だ。
イグネフェルは目を凝らした。
棺は小さい。ゆえに、子供の葬儀であることがわかった。
風に乗って聞こえる女の
かろうじて残された道も、水没は時間の問題であった。
人ならざる少年の目に、視界の限り天を覆う光の網が見えた。網には様々な
赤に、青に、黄に。
白に、黒に、灰に。
月。
星。
太陽。
あらゆる植物。
空を飛ぶあらゆる獣と、地を這う全ての獣と。
家。
毒。
道。
都市。
武具。
道具。
人が作るあらゆるもの。
見知ったものから、見知らぬものまで、全て。
あらゆる色彩があらゆる物の輪郭を表して、それらの集合体は、この星の人間が住む全ての土地を覆う器を成していた。
IGNEFER: 362
『聖職者たちの教えによれば、宇宙の発生から現在までの全歴史には10段階の進化の跳躍があった。恒星や惑星の誕生、生命の誕生、ホモ・サピエンスの誕生、農耕の発生といった具合に。
その第9段階にあたるのが、宇宙開拓技術の獲得。
そして第10段階めに、色と形を持つあらゆるものからエネルギーを取り出す能力の獲得があった。
それ以前の人類は、
地球は伝説であり、神話であると解釈するのが現実的だ』
IGNEFER:145
『原理として色と形を持つあらゆる物からエネルギーを取り出すことができるのだけど、それではあまりに無秩序にエネルギーが氾濫し、危険極まりないことになる。
だから人は象徴機能を利用して無数の紋様を作り出し、その紋様を使いこなすことによって望むエネルギーを得られるようにした。
この能力を、進化の第10段階めから「災厄」に至るまでの時代の人間は、誰もが持っていたと言われる。
けれど、「災厄」以降、その能力を持って生まれる人間はごく少数に限られるようになった。
その人間は「紋様術師」と呼ばれる』
creation
IGNEFER:367『人類が獲得した新たな居住環境に四つの惑星があった。
ピション。
ギホン。
チグリス。
ユーフラテス。
かつて星間通信によって結ばれ、交易が行われて栄えた四つの星の文明は、けれど、「災厄」によって一夜にして滅びた。
その災厄がどのようなものであったのか、今ではわからない。
残ったのは過酷な現実。
農耕によって生き延び、他の星との交信手段を復活させることもできない現実だけ』
目も鼻も口も、顔面の全てを黒い布で隠す老いた紋様術師の腕を、イグネフェルは引いて歩く。
向こうの道では女が泣いている。
イグネフェルは紋様で思考する。
思考によって自己創造する。
ありもしない脳に渦巻く紋様。
涙。
土。
弔旗。
落穂。
落葉。
IGNEFER:12895
『人は泣く。
両目から、塩辛い涙がぽろぽろこぼれ、
それが通った筋道から、人は老いていく。
この世界の人は、泣く。
誰にもそれは止められない』
creation
IGNEFER:12896『僕は涙を流さない』
creation
IGNEFER:12897『僕は人間じゃない』
女の声が聞こえなくなった頃、視界の先に小さな家が見えてきた。