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文字数 1,323文字
両手を見つめる。
『翼』の顕現。
顎を上げ、視線を東の空に向ける。そちらのほうはまだ霧が濃かった。
その霧のただなかに、緑と黄の光点が滲んでいた。
地を蹴り、垂直に。
まもなく轟音をたてて、教会が内側から破裂した。
口を閉ざし、顔の前に腕をかざし、体を翼で覆って砂ぼこりと瓦礫から身を守る。
金属の翼に砕けた瓦と
広がりゆく視界。
そこに黄と緑の光点。
親指の爪ほどの大きさだったそれは、瞬きする間もなく眼前に迫り、視界を染めた。
人の形が見えた。
直後、腹に衝撃を受けた。
完全なる奇襲だ。
地面に叩きつけられた勢いで、道を削るように砂の上を転がり、勢いが弱まったところで回転エネルギーを利用して膝立ちになる。
飛び上がった直後、その地点に火球が直撃した。
逃げるしかない。
そう無事を願うしかない。
教会は見る間に小さくなっていくが、二つの光は引き離せない。
空気が冷たくなっていくのがわかる。
ある時点で、イグネフェルは上昇をやめて西へと滑翔を始めた。
それでも追っ手を引き離せない。
低い里山のなだらかな稜線、
強烈な光がイグネフェルの影を木々の上に落とした。
光の束が頭上を通り過ぎた。
翼に熱が移った。
イグネフェルはもう、こちらを見上げる村の人々の表情がはっきりわかる位置まで高度を下げていた。
里山の、木々の緑が視界を埋め尽くした。
緑に突入。
日差しが遮られた。
葉をくぐり、枝をくぐり、湿った土に着地。
だがイグネフェルは襲撃者を見た。
やはり彼らはイグネフェルの居所を完全に見失っていたようで、それは随分と見当違いなところに落ちていった。