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文字数 987文字
“聖なる紋様、あなたを愛しています。
世界の善性。
世界の
悲しみの涙を
〜三十年前〜
リーセリー?
そこは光差さず。
なあ……?
答える声もない。
わかるか?
お前の金獅子紋だ。
『終焉ここにあり。気高さがあるなら見出してみよ――』
濡れた布地を撫でる音……
光が射した。
赤い光の球が入ってきた。
太陽だ。
その紋様は輝きを放ち、洞窟を照らした。
男が一人、うずくまり、麻袋を抱えている。
人ひとり収めるのにちょうどいいその袋には、炭化した何かが収められており、崩れた炭が、袋を内側から黒く染めていた。
何度も抱きかかえたせいだろう。
中のものは既に人の形を留めていないようだ。
遺骸の生焼けのところが腐敗臭の発生源だった。鼻をつまみたくなるのをオーレリアは理性でこらえた。
ヴィゼリーは袋を土に寝かせる。
紋様術による太陽が、右手にかけた純金のメダイを照らす。
獅子が描かれたメダイの裏側には、細かい文字が彫られていた。
“聖なる紋様、あなたを愛しています。
世界の善性。
世界の本性。
悲しみの涙を拭い去る、大いなる指先。”
洞窟を出れば夜。
日は落ち、人に闇を読ませる。
ヴィゼリーの目は、天空の紋様を読めない。
紋様、『世界の涙の器』を彩る星を読めない。
ただ紋様の光の網目を埋める、
ただ星々の光の隙間を埋める、
闇しか読めない。