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文字数 1,464文字
徒歩で三時間の距離にある城壁のない町へと、ミクリラはイグネフェルを導いた。
小高い丘の上の町は、まだ水没を免れており、麦やさまざまな野菜の畑の中心に、漆喰の小さな家々が寄せ集められた風情 だった。
家と家の間には、ところどころ麻布のテントが張られていた。だがその下にいる痩せた男たちは、物を売るでもなく、黙して座り、一日が過ぎるのを無為に待っている。
あの辺りの畑はあらかた水没してしまったことをイグネフェルは思い出した。
砂が打たれた通りを、イグネフェルは、ミクリラの後ろについてしょんぼりと歩いた。
そのうちに、四角形の広場に出た。
一辺が二十歩程度のその広場には、石畳が敷かれているが、管理は行き届いていない。砂が詰まり、隅のほうには草が生えていた。
広場の正面には小規模な魔女の教会があった。
この広場も教会の敷地なのだろう。
片隅のベンチにミクリラが腰を下ろした。
彼女の家を出てから初めての休憩だった。
おい、あれはイグネフェルじゃないか?
通りから声がした。
反応しかけたイグネフェルを、
ミクリラが制する。
まさか。どう見たって青二才だよ。
通りを行く老人たちの気配にイグネフェルは集中した。
囁き交わすその声には、
生きてたらあんなに若いわけがない。
アイツはくたばったんだよ、大して苦しみもしねぇでな。
まったくだ。バカ言ってもらっちゃ困るよ。
あいつが生きてるなら毎日アタシが山羊の小便を引っ掛けてたのは誰の墓だって言うんだい。
アイツはくたばったよ。間違いない。オレはアイツの棺桶に唾をかけてやったんだ。
そりゃそうだよな。
チッ。
生きてたら今度はオレがこの手で殺してやるのによ。
老人たちは去っていった。
ミクリラは曇天を指さして、強引に気をそらさせた。
と、当たり前のように答えた。
そして顎で神殿を指す。