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エピソード文字数 1,328文字

(アグアは、アグアはどこだ??)
黒く煤けた部屋に突入、高温に体を傷めることもなく、跡形もなく消え去った扉から廊下へ。

廊下もまた黒く煤け、壁に刻まれた太陽、月、星の紋様が、赤、青、白の光を放つばかり。

その光は十歩の感覚で設置され、廊下の暗がりを駆けるイグネフェルを、赤に、青に、白にと照らし出す。
(ミクリラからアグアの容姿を聞いとけば……ううん、見ればわかるよね。一番偉い人だから)
跳びはねた。

足を床から離したまま、空中を滑る。

扉が見えた。

両開きの、見るからに重たげな扉。

翼で体を包み込み、体当たりで突破する。

空間がひらけたのが空気の流れでわかった。

翼を開く。

視界を塞ぐものがなくなり、エントランスの薄暗がりが眼前に広がった。

正面に裾広がりの階段。上には紋様の燭台が機能するアーチの飾りと、その両脇に控える二人の兵士。

兵士はこんな会話をしていた。

それでよぉ。

どうだぁ? お前んとこの女房の腹はよぅ?

…………!!!

天井近くまで飛び上がる。

翼が火を噴いた。

二人の兵士の間に着地した火焔はたちまち両者を呑み、溶かした。

階段の上には石床の焦げ跡以外に何も残らなかった。

(この兵士、紋様だ――)
階段の先には再び両開きの扉。

またも体当たりで突破すると、その先の無人の広間のどこかから、兵士の叫びが聞こえた。

敵襲ーーーーーーーーー!!!
壁の両側そして奥の黒いシミのような紋様から、わらわらと兵士たちが滲み出てきた。

ある者は小銃を(にな)い、ある者は槍を、ある者は(いしゆみ)を手にし、イグネフェルに刃を向ける。

てんでに向かってくる兵士を見据え、イグネフェルは翼を撫でた。
右手で触れる『槍』。
左手で触れる『騎馬』。
両手を胸の前で交差。

既にその手が触れんばかりの距離に迫っていた兵士は、創出された『騎馬突撃(チャージ)』によって弾き飛ばされた。

紋様の騎士は奥に長く伸びた広間を駆け抜け、全ての兵士を薙ぎ、払い、貫き、敵兵の供給源たる紋様を、壁ごと破壊した。

轟音そして土埃。

生命なき者の死。

消えた騎士を追うように、イグネフェルは翼で空を切る。

崩れた石壁をくぐり抜けた先は複雑に枝分かれし入り組む廊下。広間。階段。廊下。
中庭に飛び出した。

緑のない中庭の、乾いた土を強く蹴る。

月を目指して舞い上がった。

狂った、無人の城塞を囲む城壁、その上へ。

城壁の歩廊では見張りの兵士がこんな無駄話をして任務を怠っていた。

それでよぉ。

どうだぁ? お前んとこの女房の腹はよぅ?

それがよぉ〜。

もうこぉんなに膨らんでよぉ。中のチビが腹を――

勢いよく飛び上がり、瞬く間に二人の頭上に舞い上がったイグネフェル、その翼、紋様兵器が扱う紋様兵器から鉛の弾が降り注ぐ。

それが二人を押しつぶすのを確認し、方向を変えたイグネフェルは、城塞の主郭を見つけた。

その最上階には、先ほどはなかった灯りが(とも)って見えた。

空中で体を寝かせ、滑空。

大きく迫る灯り、その前に立ちはだかるガラスから身を守るべく、突入の直前翼で体を覆う。

ガラスが砕け、冷たい床に着地した。

転がって衝撃を分散し、片膝立ちになって翼を開く。

誰だ!!
イグネフェルはまだ室内の様子を確かめてもいなかったが、直感で、その声の主こそアグアであると理解した。
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登場人物紹介

イグネフェル

本作主人公の紋様兵器。魔女を討伐するべく旅に出る。

涙を流す機能がない。

ヴィオレンタ

本作のヒロイン。

セレナル

『世界の涙の魔女』。

30年前の器継承戦争によって魔女の地位を継いだ。

ミクリラ

30年前に名を上げた英雄オーレリアの孫娘。

ナーシュ

イグネフェルの創り主。

30年前の器継承戦争で息子イグネフェルを失い、自身は顔面を奪われた。

ヴィゼリー

西の浮遊要塞の司令官。生ける紋様兵器。

リーセリー

ヴィゼリーが連れている紋様兵器。

オーレリア

30年前の器継承戦争の英雄。ミクリラの祖父。

アグア

東の浮遊要塞の司令官。

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