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文字数 1,395文字
夕日は見る間に水と汚泥に沈んでいく。
濃度を増す陸地の影の中に、イグネフェルは帰る家を見失った。
あてどなく浮遊しながら、尋ねるともなしに呟いた。
ミクリラもまた、答えるでもなく呟いた。
イグネフェルの腕の中にいて、体を支えられていても、誰にも気を許したくないという思いが冷えた体から伝わってきた。
イグネフェルは大地の闇に目を凝らしながら相槌を打った。
家が見つかるまでの時間を、二人は無言のうちに過ごした。
ようやく見つけ出した家では、顔のない老人が、所在なげに戸口に立って二人を待っていた。
沈黙が長く続くと、ナーシュは息子の似姿の二の腕に添えた手に、力を込めた。
溜め息混じりの言葉に肩を竦め、家に入っていこうとするミクリラを呼び止めた。
ミクリラは、東の方角に一際強く光る星、第三の星チグリスを指差した。
イグネフェルは頷き、礼を言う。
地を蹴り翼をはためかせた。
魔女を討伐すれば何が起きるのか。
その後は何をすればいいのか。
何もわからない。
夜空を翔 けるイグネフェルは、ただ目の前のことをするだけであった。