一文小説集「許す」等五篇

文字数 230文字

「許す」

 彼の家に彼の浮気相手が落としていく髪の毛は、私が飼っている虫の餌になるから、彼の浮気を許している。



「トンボ」

 頭頂部のアンテナの先にトンボがとまっていたせいで、お坊さんは死んだ人の声を受信できなかった。



「あんよ」

 夜道に、油性ペンで「あんよ」と書かれた人形の腕が落ちている。



「影」

 夕方、地面に伸びる自身の影を見つめながら、地球の夕日は正直ね、と異星人の友人がつぶやく。



「たて」

 墓参りに行ったら、墓地の隅にある墓石に「死にたて」の紙が貼られていた。
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