一文小説集「黴」等五篇

文字数 279文字

「黴」

 亡き母の顔にそっくりな黴が生えた食パンに向かって、パン職人の父が「浮気者」と怒鳴っている。



「雨音」

 雨音の効果音が入ったテープを一日中流し続けている隣人にうるさいと文句を言おうと、アパートのドアを開けた瞬間、外で雨が降っていることに気づく。



「蝶」

 ビルの屋上の端に置かれた「遺書」と書かれた封筒の中から這い出てきた黒い蝶が、落ちた彼とは反対の方へ飛び立った。



「カラス」

 カラスは天使の死骸には手をつけず、ただ背中の白い羽根を一本くちばしで抜き取り、飛び去った。



「お風呂」

 冬の夜、私が作った雪だるまに、祖母が「お風呂が沸きましたよ」と話しかけていた。
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