第19話 仮のいおり

文字数 276文字

おのづからことのたよりに都を聞けば、この山にこもりいてのち、やむごとなき人の、かくれ給へるもあまた聞こゆ。ましてそのかずならぬたぐい、つくしてこれを知るべからず。たびたび炎上にほろびたる家、又いくそばくぞ。ただ仮のいおりのみ、のどけくしておそれなし。ほど狭しといえども、よるふすゆかあり、ひるいる座あり。一身をやどすに不足なし。  
寄居は小さき貝を好む。これ事知れるによりてなり。みさごは荒磯にいる、すなわち人をおそるるゆえなり。われまたかくのごとし。ことを知り、世を知れれば、ねがわず、わしらず、ただしづかなることを望みとし、憂いなきをたのしみとす。
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