第8話 あくる年

文字数 512文字

 まえのとしかくの如し、かろうじて暮れぬ。あくるとしはたちなおるるべきかとおもうほどに、あまつさえ、えきれいうちそひて、まさざまにあとかたなし。
 世の人みなけいしぬれば、日を経つつきわまりゆくさま、小水の魚のたとへにかなへり。はてには笠うちき、足ひきつつみ、よろしきすがたしたる物、ひたすらに家ごとにこひありく。
かくわびしれたるものどものありくかとみれば、すなわち倒れふしぬ。築地のつら道のほとりにうえしぬるものたぐい、かずも不知。取り捨てるわざも知らねば、くさきか、世界にみち満ちて、かわりゆくかたちありさま、目もあてらられぬことおおかりき。いわむや、河原などには、馬車のゆきかう道だになし。
 あやしきしづ、やまがつもちからつきて、薪さえ乏しくなゆけば、たのむかたなき人は、みづからが家をこぼちて、いちに出でてうる。一人がもちていでたるあたひ、一日が命にだに及ばずとぞ。
 あやしき事は、薪の中に、あかきにつき、はくなど所々にみゆる木あいまじわりけるをたづぬれば、すべき方なきもの物、ふる寺にいたりて、仏をぬすみ、堂のものの具をやぶりとりて、わりくだけるなりにけり。濁悪世にしも生まれあいて、かかる心うきわざをなん見侍りし。
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