第10話 地震

文字数 447文字

又、同じころとかよ、おびただしく大地震ふること侍り。そのさま、世の常ならず。山はくずれて河をうづみ、海はかたぶきて陸地をひたせり。土さけて水わきいで、いわおおわれて、谷みまろびいる、なぎさこぐ船は波にただよひ、道ゆく馬はあしのたちどをまどわす。
 都のほとりには、在在所々、堂舎、塔廟ひとつとして全からず。或いはくずれ、或いは倒れぬ、ちりはたちのぼりて、さかりなる煙のごとし。地の動き家のやぶるるおと、いかずちにことならず。家の内におれば、忽ちにひしげなんとす。はしりいづればわれさく、はねなければ、そらをもとぶべからず。龍ならばや雲にも乗らむ。おそれのなかにおそるべかりけるは、ただ地震なりけりとこそ覚え侍りしか。
 かくおびただしくふることはしばしにて止みにしかども、そのなごりしばしば絶えず。世の常おどろくほどの地震、二三十度ふらぬ日はなし。十日二十日すぎにしかば、ようようまどほになりて、或いは四十五度、二三度、若しくは一日まぜ、二三日に一度など、おおかたそのなごり、三月ばかりや侍りけむ。
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