第12話 雀の鷹の巣に近づく

文字数 538文字

すべて世の中のありにくく、わが身と住処との、はかなくあだなるさま、又かくのごとし。いわむや、所により身のほどにしたがいつつ、心をなやます事は、あげて不可計(かぞううべからず)。
 若しおのれが身かずならずして、権門のかたわらにおるものは、ふかくよろこび事あれども、おおきたのしむにあたわず。なげきせちなるときも、こえをあげてなくことなし。進退やすからず、たちいにつけておそれおののくさま、たとえば、すずめのたかのすに近づけるがごとし。
 若しまづくして、とめる家のとなりにおるものは、朝夕すぼきすがたをはじて、へつらいつついでいる。妻子、僅僕のうらやめるさまを見るにも、福家の人のないがしろなる気色を聞くにも、心念念にうごきて、時としてやすからず。
 若し狭き地におれば、ちかく炎上ある時、その炎をのがるる事なし。もし辺地にあれば、往反わづらいおおく、盗賊の難はなはだし。
 又、いきおいあるものは貪欲ふかく、独身なる物は人に軽めらる。財あればおそれおおく、貧しければうらみ切也。人をたのめば身他の有なり。人をはぐくめば心恩愛につかわる。世にしたがえば身くるし。したがわねば狂せるににたり。
 いづれの所を占めて、いかなるわざをしてか、しばしも此の身をやどし、たまゆらも心をやすむべき。
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