第5話 所のありさま

文字数 350文字

 その時、おのずから事のたよりありて、つのくにの今の京にいたれり。所のありさまを見るに、南は海近くてくだれり。波の音、つねにかまびすしく、しお風ことにはげし。内裏は山のなかなれば、彼の木のまろおのもかくやと、なかなかやうかはりて、いうなるかたも侍り。
 ひびにこぼち、河もせにはこびくだすいへ、いづくにつくれるにかあらむ。なおむなしき地はおほく、つくれるやはすくなし。古京はすでに荒れて、新都はいまだならず。ありとしある人は、みな浮雲のおもいをなせり。もとよりこの所におるものは、地をうしないて憂う。今移れる人は、土木のわずらいある事をなげく。
 みちのほとりをみれば、車に乗るべきは馬に乗り、衣冠布衣なるべきは、多くひたたれをきたり。都の手振りたちまちにあらたまりて、ただ鄙びたるもののふにことならず。
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