第15話 仮のいほり
文字数 592文字
いま日野山のおくにあとをかくしてのち、東に三尺余のひさしをさして、しばりをくぶるよすがとす。
南、竹のすのこをしき、その西にあかだなをつくり、北によせて障子をへだて、阿弥陀の絵像を安置し、そばに普賢を描き、前に法花経をおけり。東のきわにわらびのほとろを敷きて、よるのゆかととす。
西南に竹のつりだなをかまえて、くろきかわご三合をおけり。すなわち和歌,管弦、往生要集ごときの抄物をいれたり。かたわらに琴、琵琶、おのおの一張を立つ。いわゆるをり琴、つぎ琵琶、これ也。仮のいほりのありようかくのごとし。
その所のさまをいわば、南にかけいあり、いわをたてて水をためたり。林の木近かければ、つま木をひろうに乏しからず。名をおとわ山という。まさきのかづらあとうずめり。谷しげけれど、西はれたり。観念のたよりなきにしもあらず。
春はふじなみをみる、紫雲のごとくして西方ににおう。夏はホトトギスを聞く、かたらうごとに、死出の山路をちぎる。あきはひぐらしのこえみみに満てり。うつせみの世を悲しむほど聞こゆ。冬は雪をあわれぶ。つもり消えるさま、罪障りにたとえつべし。
若し念仏物うく、読経まめならぬときは、みずから休み、身づからおこたる。さまたぐる人もなく、又、はづべき人もなし。ことさらに無言をせざれども、独りおれば口業をおさめつべし。必ず禁戒をまもるとしもなくとも、境界なければなににつけてかやぶらん。
南、竹のすのこをしき、その西にあかだなをつくり、北によせて障子をへだて、阿弥陀の絵像を安置し、そばに普賢を描き、前に法花経をおけり。東のきわにわらびのほとろを敷きて、よるのゆかととす。
西南に竹のつりだなをかまえて、くろきかわご三合をおけり。すなわち和歌,管弦、往生要集ごときの抄物をいれたり。かたわらに琴、琵琶、おのおの一張を立つ。いわゆるをり琴、つぎ琵琶、これ也。仮のいほりのありようかくのごとし。
その所のさまをいわば、南にかけいあり、いわをたてて水をためたり。林の木近かければ、つま木をひろうに乏しからず。名をおとわ山という。まさきのかづらあとうずめり。谷しげけれど、西はれたり。観念のたよりなきにしもあらず。
春はふじなみをみる、紫雲のごとくして西方ににおう。夏はホトトギスを聞く、かたらうごとに、死出の山路をちぎる。あきはひぐらしのこえみみに満てり。うつせみの世を悲しむほど聞こゆ。冬は雪をあわれぶ。つもり消えるさま、罪障りにたとえつべし。
若し念仏物うく、読経まめならぬときは、みずから休み、身づからおこたる。さまたぐる人もなく、又、はづべき人もなし。ことさらに無言をせざれども、独りおれば口業をおさめつべし。必ず禁戒をまもるとしもなくとも、境界なければなににつけてかやぶらん。