第18話 夜の静かなれば

文字数 338文字

若し夜しづかなれば、まどの月に故人をしのび、さるのこえに袖をうるほす。くさむらのほたるはとほく、まきのかがりにまがい、あか月のあめは、おのづから木の葉吹くあらしにたり。
 山どりのほろと鳴くを聞きても、ちちかははかとうたがい、峰のかせぎのちかくなれたるにつけても、世にとほざかるほどをしる。或いは又うづみ火をかきおこして、老いのねざめのともとす。おそろしき山ならねば、ふくろふのこえをあわれむにつけても、山中の景気、折につけてつくる事なし。はいむやふかくおもい、ふかく知らむ人のためには、これにしもかぎるべからず。
おおかたこの所に住みはじめし時は、あからさまとおもいしかども、いますでにいつとせを経たり。仮のいおりもややふるさととなりて、軒にくちばふかく、つちいにこけむせり。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み