ある日の事。一行はスコアランド南部に位置する小さな村を訪れた。
ここは虫の亜人種が住む村。甲虫類から蝶、はたまたコオロギや鈴虫と、色々な虫の触覚や羽が生えた人間たちが住んでいる。
スコアランドのみならずTS世界には魔法人間はじめ、一般の人間、亜人種、非人間の一族と様々な種族が共存しているので、虫の亜人種も特に珍しいものではなかった。彼らはむしろ、音楽大国のスコアランドでは大歓迎だ。
今回一行は『困った事がある』と言う用件で、ここの村長に呼び出されたのであった。
普段は住民たちの鳴き声が広がるこの村も、今日は静かだった。と言うか全く鳴き声がしない。
それもそのはず、いつもなら住民で溢れ返っているはずなのに、今は人っ子一人いないのだ。
代わりに向こうから聞こえて来るのは、ナイトクラブのようなやかましいビート音だった。やけに音量が大きいし、これでは近所迷惑だ。
【リズ】
村にクラブでも出来て、みんなそっちに行っちゃったのかなぁ?
【カロ】
ですが、村長さんはじめこの村の方々は、ああ言った騒音はお嫌いなはずでは…。
【Z・ジェット】
オレが聴いててもイライラするわ、この騒音。
そうこう言っている間に、村長の家に到着した。
やはり虫らしく、草で出来た家だ。
シーン…。カロがチャイムを鳴らしそう言うが、返答がない。
次にリズが自慢の大声で呼びかける。今度は聞こえたようだ。
入り口と思われる、草のカーテンが開いた。
中から蛍のような触覚と羽を持った老人が姿を現す。
【??】
…おぉ、待っておりましたよ!私がここの村長でございます!
どうもこの騒音のせいで聞こえなくってね…ささっ、お入り下さい!
【村長】
では本題に…。
皆さん、外の騒音はお分かりですかな?
あの騒音は、室内にいても若干聞こえて来る。
道理で外では普通に話しても聞こえないはずだ。
【Z・ジェット】
村にクラブでも出来たんかと思うたわ。
【村長】
とんでもない!村の者たちがああ言った騒音を嫌うのはご存知のはずです。
ここが音楽大国のスコアランドであろうと、こんな田舎村にクラブ建設なんぞ、住民たちが許すはずがありません。
【村長】
誰か外部の者が無断であの建物を造って、音を出しているに決まっています。
それでこの村の者は困っているんです!
夜は眠れないし、仕事に集中は出来ないし、頭は痛くなるし…。
確かに。あんな迷惑騒音を一日中聞かされていては、誰でもおかしくなりそうだ。
【村長】
お願いです、皆さん!
騒音を鳴らしている犯人を説得して、何とか村から立ち退かせる事は出来ませんか!?
このままでは今夜開催予定のコンサートも中止になり得ない…!
涙目で訴える村長。当然、一行の答えは決まっていた。
【Z・ジェット】
そんな連中、ガツンと一喝したるで!
【村長】
おぉ、やって下さいますか!
流石はメイン勢! ありがとうございます!!
と言う訳で、まずは村長に音が出ている場所を教えてもらう事に。
村長はテーブルの上に村の地図を広げ、ある地点を指差しながら話す。
【村長】
騒音が出る建物があるのは、この川の向こうにある空き地です。
ここは本来橋を渡らないといけないのですが、どうやら犯人がその橋を全て壊してしまったようで…抗議にも話し合いにも行けず困っているのです。
【村長】
それが、対岸からは我々虫人がめっぽう弱い超音波が出ておりまして…。
至近距離では気絶して川へ落ちてしまうので、全く近寄れないのです。
【パト】
うーん…となるとまず、その音を何とかしないと…。
【Z・ジェット】
超音波やったら、電源とかあるんやろか?
【リズ】
とにかく様子だけでも見に行ってみようよ!
考えててもしょーがないし!
【カロ】
そうですね。何か手がかりが見つかるかもしれません。
村長の言った通り、教えてもらった地点にはカラフルなテントがあった。テントが建つ場所は川で隔てられている。
リズが指差した先には、ズタズタに壊された木製の橋があった。また、ここから見える他の橋も同様に壊されていた。
これでは向こう岸に渡れそうにない。飛び越えようとしてもテントが陸地ギリギリまで張られており、着地出来ずに跳ね返されてしまいそうだ。
泳いで、もしくは舟か何かを使って渡るにしても、川の流れが激し過ぎて難しい。
【カロ】
困りましたね…。
住民さん方は騒音のせいで、みんなお家に引きこもってますし。
村へ戻ろうと、一行が歩き出そうとしたその時。
ガササッ!!草陰から何かが飛び出した。
突然の出来事に、一行は驚いて尻もちをついてしまった。
よく見ると、それは人だった。
イブニングドレスを着た女性、海賊風の身なりの少年、プロレスラーのような大男。
どこかで見たような…。
そう、それは鳳凰団だった。リズとツバメがお互いに大声を上げる。
鳳凰団はとっさに身構えた。一行もならって身構える。
【ツバメ】
いや~またファンが増えちまったなぁ~、へへへ!
【リズ】
んな訳ないでしょ!!
ってか何でここにいるのさ!!
【Z・ジェット】
なぁ…思うたんやけど、鳳凰団ってそんなすごいんか?
【孔雀】
当たり前だろ?
しづキャラワールドのみならず、存在する全次元を鳳凰団の管轄にしちゃうんだかんねっ!
【イーグル】
オレたち、お前らなんかよりも偉くなるガー。
【孔雀】
こんなちっぽけな次元もいつかは鳳凰団のものになるんだから、アンタたちもこっちへいらっしゃいな。
今ならメイン勢としての強さに免じて、アンタたちを仲間にしてあげても良いわよ。
驚かせといて謝らない上に、ワールドを『ちっぽけな次元』呼ばわり。
挙句の果てには鳳凰団へ勧誘までされ、一行が怒らない訳がなかった。
こいつら、失礼にも程がある。
【パト】
こんな失礼な人たちの仲間になるなんて、絶対嫌だ!!
【リズ】
ふざけないで!!
あたしたちはダテにワールド守ってないんだから!!
【Z・ジェット】
ちっぽけな次元やとぉ~!?
お前らなんかにTS世界やしづキャラワールドの価値が分かるかいこのドアホ!!
ここまで散々言われた鳳凰団も、一行の怒りをそのままもらったようだ。
【孔雀】
ふんっ、まぁ~生意気だこと!
ザコガラス、思い知らせておやり!!
孔雀の命令のままに、イーグルがザコガラスを何羽か召喚した。
ザコガラスたちが一行に襲いかかって来た。
パトとリズは前回と同じく、メトロとノームを呼び出す。
メトロとノームはみるみる、各自の姿を刀へと変化させた。刀と化した二人を、パトとリズがそれぞれ握る。
これで戦闘準備は万端だ。ジェットもカロも、同じく戦闘態勢に入った。
猛スピードで飛びかかって来るザコガラスたちをパトとリズは次々斬り倒し、ジェットは豪快に鉄拳と足技を決め、カロはかわしながらも確実に射撃魔法で狙い撃ち落として行く。
そして数分後には、ザコガラスたちは全て地面に落ちてしまっていた。
【孔雀】
あの数のザコガラスを倒しちまうなんて…!
ええい、覚えてらっしゃい!!
【ツバメ】
お前ら、やっぱりタダモンじゃねぇみてぇだなぁ!!
【イーグル】
でもテントから流れる音楽、誰にも止められないガー!
【Z・ジェット】
ホンマにどこ行っても、傍迷惑な連中やなぁ~。
とにかくまずは、この川を渡る方法を見つけなければならない。
空中と陸地がダメなら水中のみだが、この水を真っ二つにでも割らない限り、渡るのは無理だろう。
と、近くに倒れている人影を見つけた。
慌てて駆け寄ってみると、それは虫人族の男だった。
何だか顔色が悪い。
【カロ】
きっと、超音波をもろに受けてしまったんでしょう。
そう言ってパトはヘッドフォンを取り出し、彼の耳に装着する。
【パト】
良かった、持ち歩いてた“ノイズ遮断ヘッドフォン”が効いたみたい!
【男性】
あなた方が助けて下さったんですね、どうもありがとうございます!
このままだったら危うく死んでしまう所でした…。
パトが持っているこの“ノイズ遮断ヘッドフォン”は、超音波を含めたノイズのみをカット出来る、冒険者用の魔法のアイテムである。
【男性】
実は僕、虫の種族の中でも鳴き声で超音波を発する事が出来るもんでしてね…。
あの凶悪な超音波を止めようとしてここまで来たんですが、距離が届かない上にあれをもろに受けてしまいまして…。
【Z・ジェット】
なるほどな、それで気絶してしもうたっちゅー訳か。
【男性】
はい、お恥ずかしい…。
…はっ、そうだ! テントへの潜入方法が分かったんですよ!
【男性】
実はあのテントの入り口は水中にあるんです!
【男性】
はい。それもちょうど、この方角から川へまっすぐ入った所です!
【リズ】
でも、あの川って流れが速くて入れないんじゃない?
【男性】
普通はそうです、けど今は大丈夫です!
僕に任せて下さい!
男はそう言うと、ゆっくり川の方を向く。
そして背中に付いた虫の羽を開き、そのまま猛スピードでこすり合わせる。
リリリリ~~~!!鈴虫が一斉に鳴いたような、とびきりうるさい音が響き渡る。一行も思わず耳をふさぐ。
この大音量でも、超音波を止めると言う音は対岸に届かないのだから驚きだ。
と、次の瞬間、川の水に大きな変化が起こった。
そう、水が大波でも起こすかのようにうねり出したのだ。
そのままうねりにうねりを重ねて行き…。
そのまま水は真っ二つに別れ、左右を水の壁で隔てる一本の道が出来上がった。
よく見ると、一本道の最奥部には上りの階段がある。どうやって作ったのかは不明だが、あれが内部への唯一の入り口なのだ。
男がテレパシーで話しかけて来た。鳳凰団に見つかるのは時間の問題だ。
【カロ】
(ありがとうございます!助かりました!!)
同じくカロがテレパシーで返し、一行は耳を塞いだまま一目散に階段へ向かって走って行った。
リ…。全員が階段の向こうへ消えたのを確認した男は、羽をこすり合わせるのをやめた。
ザッパ~~~ン!!!その途端に道は一気に崩れ、元の流れの激しい川へと戻ってしまったのだった…。
そう言いながら、男はヘッドフォンをつけたまま村へと急いだ。
階段を上り切った先に鳳凰団はいた。
ここは地下部にあたるらしく、土がむき出しでジメジメしている。
【ツバメ】
うげぇっ!?お前ら、どうやってここに!?
【孔雀】
きーっ!またアンタたちかい、しつこいねぇ!!
イーグル、さっさと入り込んだタチの悪い害虫共を駆除しな!!
イーグルがザコガラスを数体召喚した。先程同様、ザコガラスたちが一斉に襲い掛かって来る。一行も前回同様、各自武器を召喚して戦闘態勢に入る。
相変わらず突進してくるザコガラスたちを、一行は余裕の表情で次々と倒して行った。
やはりザコガラスは量産型とだけあって弱く、あっと言う間に全て倒してしまった。
【孔雀】
覚えてらっしゃい!
お前たち、さっさとコントロールルームに戻るわよ!!
孔雀とツバメがイーグルの両肩に飛び乗ると、イーグルは宙に浮いて逃げて行った。
どうやらイーグルには飛行能力があるようだ。そのまま天井にぽっかり空いた穴を越えて、見えなくなってしまった。
後を追いかけようとする一行の前に立ちはだかるのは…長い螺旋階段。
【リズ】
当たり前でしょ!?
でなきゃ逃げられちゃうよ!!
リズに続いて慌てて追いかけるパト。
ふと後ろを見ると、カロは走りにくいマーメイドドレス型の衣装と言うのもあり、ジェットに抱きかかえられていた。
【カロ】
ごめんなさい…この格好では上手く走れないので。
…先程は普通に走っていたので、たぶん口実だ。ずるいぞ。
【Z・ジェット】
アホ、お前男でオレよりも若いやろ!
せやったら自分で走らんかい!
【リズ】
ほらほら、みんな何してんの!?
置いてっちゃうよ~!
そんなやり取りをしつつ、一行は各自階段を上って行く。
途中で待ち構えていたザコガラスたちの妨害は受けたものの、弱いのでさっさと蹴散らし、急いでコントロールルームとやらへ向かった。
螺旋階段を上った先は、コントロールルームと言っていた割には何もない、がらんとした空間があった。
その空間の中で妙に浮いている一際大きいラジカセの前に、鳳凰団が待ち構えていた。
ラジカセからは絶えず大音量の音楽が流れている。そのためか、鳳凰団は耳にヘッドフォンを装着していた。
【ツバメ】
よくもおいらたちの邪魔をしやがったなぁ!!
【カロ】
何を言っているのですか!
住民の皆さんを困らせるのはいけない事でしょう!!
【孔雀】
ふん、あれくらいで困るのがどうかしてるんじゃないのかい!?
フェニックス様のためなんだから、ちょっとくらい我慢なさいな!
目的のためなら手段を選ばない、それがウチら鳳凰団のやり方なのよ!!
【孔雀】
良いかいアンタたち、これで確かに警告したわよ。
不気味な雄叫びが聞こえたと思った次の瞬間、どこからともなく黒い影が飛んで来て、鳳凰団の前に舞い降りた。
それは頭だけが人間で、体は漆黒の羽根で包まれた鳥の化け物だった。
そう、この化け物こそが、鳳凰団が作った鳥人間の生命体“コバードα”なのである。
【ツバメ】
コバードα!こいつらを次元の果てまでぶっ飛ばすんだー!!
コバードαが大きな翼を広げ、高く飛び上がる。
バサッ!!そして一行に向かって思いっきり翼を羽ばたかせる。
ブワッ!!コバードαは翼から強烈な突風を放った。まばたきすらする間もなく、突風が一行に命中する。
一行は突風に吹っ飛ばされた。
そしてそのまま、テント内の地面に激突してしまった。
やはり姿形と言い先程の突風攻撃と言い、今までのザコガラスとは比べ物にならない。
コバードαが相変わらず不気味な雄叫びを上げる。
攻撃が当たって喜んでいるのだろうか。
しかし先程地面に落ちた際打ち所が悪かったのか、一行は上手く起き上がれない。
【孔雀】
あきらめの悪い子たちだねぇ!コバードα、やっておしまい!!
ドサッ。またも地面に落ちる一行。
相当なダメージを受けているようで手も足も出せず、とても見ていられない光景だった。
ツバメが近くにあったスイッチを押す。
するとみるみるうちに天井を支える柱が動き出し、ぽっかり穴が空いた。上は青空が広がっている。
【孔雀】
コバードα!こいつらを吹っ飛ばして、外の川に落としちゃうのよ!!
バサァッ!!コバードαは渾身の力を込めて突風を起こし、一行をテントの上まで吹っ飛ばした。
一行はダメージのせいで、もうほとんど動く事が出来なかった。このまま敗れ去ってしまうのか!?
“やられる”。そう思った瞬間だった。
パシィッ!数体の影が飛び出し、一行それぞれをキャッチした。
次の瞬間、無数の黒い影が天井からなだれ込んで来た。予想外の出来事に鳳凰団がギョッとする。
そして住民たちの中でパトをキャッチしたのは、潜入前に助けたあの男だったのだ。
彼は例の能力を発揮中らしく、テレパシーで話しかけて来る。
【男性】
(いえいえ、僕もあなた方には借りがありますからね。
それに僕たちもあいつらが許せませんから)
【パト】
やったね、形勢逆転だ! コバードαを倒せるぞ!
パトとリズがそれぞれ住民の腕から降り、再び刀を構える。
2人がジャンプし、コバードαに斬りかかる。
コバードαは突然の出来事に動揺していたため防ぐ事が出来ず、2人の同時攻撃が見事にクリーンヒットした。
その一撃でコバードαは地面に落ち、動かなくなってしまった。
奴の完敗である。
【孔雀】
ひえ~!コバードαがやられるとは!
お前たち、逃げるわよ!
そしてその一方で、男始め住民たちが逃げようとした鳳凰団を取り囲む。
表情からして、彼らが怒っているのはよく分かった。
【ツバメ】
うわ~、ダメっス姐御!囲まれたっスー!!
【孔雀】
バカな、テントからは超音波が流れているはず!
何で虫人共が近付けるんだい!?
【男性】
(あの超音波と真逆の波を流しているのさ! そうすれば、超音波は止まってしまう!!)
彼の耳には先程渡したヘッドフォンがあった。要するにまず彼だけがこれを装着したままテントまで近付き音波を止め、その後住民たちと共に進撃して来たのである。
さらにちょうど良い具合にテントの天井が開いた事で中に入って来れたのだ。
ゴンッ!すっとんきょうな事を話すイーグルに、孔雀はジャンプしてゲンコツをかました。
そんなやり取りをしている間に、怒りを露わにした住民たちが襲いかかって来た。巣を守ろうと必死になるハチのように、鳳凰団の周りを飛び回る。
その住民たちの羽が、バシバシとひっぱたくように鳳凰団の肌にぶつかる。
【孔雀】
いたたた、おやめ!! 大事な肌が傷付くだろ!!
それを見て、一行はクスクスと笑っていた。
パトだけはあっけに取られている。
そこへ村長が現れた。この事を聞いて駆けつけて来たのだろう。
【カロ】
はい、住民の皆さんのおかげで命拾いしました。
【村長】
申し訳ない、私があんな事を言ったばかりに…。
【カロ】
いいえ、こちらこそお役に立てず…すみません。
【村長】
奴らの始末は我々が責任を持って行います。
皆さんは早くあのヘッドフォンを付けて安全な場所へ。
言われた通りに一行は予備のノイズ遮断ヘッドフォンを装着し、テントの隅の方に移動する。
村長は住民たちに一旦襲撃をやめさせ、呼び寄せた。
何やら恐ろしい視線を感じ、一瞬身震いする鳳凰団。
視線の方向を見ると、村長を先頭にした住民たちが全員こっちを睨みつけていた。
【村長】
あなた方は、我々の怒りを買ってしまわれたようだ。
【ツバメ】
わ、分かったっス!
ここのテントはもうたたんで、音楽を出すのも金輪際やめるっス!!
だから、勘弁下せぇ~~!!
しかし奴らにあれだけ迷惑をかけられて、彼らがそう易々と許す訳がなかった。
【村長】
私はともかく、あなた方を許すかどうかはここにいる住民たち次第ですので。
そう言って村長が住民たちの前から去る。それを合図に、住民たちが背中の羽を広げる。
そして一斉にその広げた羽をこすり合わせた。
リリリリリリリ~~~!!!!!!
一行が助けた男性が放ったものとは比べ物にならない、とんでもない大音量の鈴虫の音が響き渡った。
この至近距離では奴らのヘッドフォンも意味を成さず、白煙を上げてぶっ壊れていた。鳳凰団は思わず呻く。
しかしそれくらいでは済まなかった。後ろに置かれていた巨大ラジカセが、恐ろしく高い周波数に耐え切れずショートし始めたのだ。
このままこんな状態が続いていれば…もうお分かりだろう。
パチパチパチ…
ドカ~~~ン!!!!!!!案の定、ラジカセは大爆発を引き起こした。
爆発に巻き込まれ、空の果てまで吹っ飛ばされる鳳凰団とコバードα。
ちなみに住民たちと一行は、ラジカセからある程度離れていたため無傷だった。
【孔雀】
くっそー!虫けらなんかにやられるなんて~!!
【孔雀】
お黙りお前たち! 虫なんかみ~んな大っ嫌いよ~!!
負け惜しみを言いながら、鳳凰団+コバードαは空の彼方へ消えて行った…。
その夜、コンサートは無事開催された。辺りに虫ならではの美しい音が響き渡る。
巨大な切り株で出来たステージに上がっているアーティストたちの中に、あの男の姿がある。
そう、彼の正体はこのコンサートに出演するアーティストだったのだ。彼曰く、『腕の見せ所であるコンサートを台無しにしようとした鳳凰団が許せなかった』らしい。
ステージの周りは観客たちで埋め尽くされており、その中には一行の姿もあった。
住民たちの鳴き声は気分のみならず、ケガまでも癒す効果があるようだ。
そこへ村長が現れた。村のイベントだからか、今は正装だ。
【Z・ジェット】
世話になってもうたなー、オレらメイン勢やっちゅーのに。
【カロ】
あの時は本当に助かりました。改めてありがとうございます。
【村長】
いえいえ、私の方こそお礼を申し上げます。
あなた方がいなければ、この村を出て行かざるを得なかったでしょうから。
【リズ】
でもすごいよね! 感情一つで色んな音が出せちゃうんだもん!
【村長】
良かった良かった、キミも気に入ってくれたんだな。
【パト】
今度はハーモニーシティにも、ぜひ来て下さい!
【村長】
うむ。せっかくだからハーモニーシティで行われる音楽祭に、アーティストエントリーさせて頂こうかな。
気が付くと、つい大声で喋ってしまっていた。
静かに鑑賞していた住民たちが一斉にこちらを向く。
人差し指を立てて口に当て、静かにするよう促す住民たち。
【村長】
おお、すまんな。村長である私とした事が…。
【カロ】
そうですね、じっくりと美しい音楽を楽しみましょう。
ステージに上がる住民たちの演奏をBGMに、夜は更けて行くのであった…。
おしまい。
【今回の主要以外の登場人物】
====================
【村長】→美しい音で鳴く虫人族が住む村の村長。
鳳凰団の悪さに困り果て、メイン勢に奴らを立ち退かせる事を依頼する。
【虫人の男性】→川べりでメイン勢一行に助けられた男性。終盤では他の住民を率いてテントに乗り込み、一行を助けた。
そんな彼の正体はコンサートの演奏者。腕の見せ所であるコンサートが中止になり得ない状況を作り上げた鳳凰団が、心底許せなかったらしい。
【コバードα】
→鳳凰団が造り出した鳥人間の生命体『コバードシリーズ』の初号体。
頭は人間で体は鳥と言う、何とも気持ち悪い風貌の怪鳥。
大きな翼を羽ばたかせる吹き飛ばし攻撃が得意。知能は低めらしい。