ある日、ブラウド将軍と万田丈二郎はハーモニーシティ内のオシャレなバーに飲みに来ていた。
おなじみの長いカウンター席で、2人並んで座っている。
【ブラウド将軍】
でよ、また作戦失敗しちまってよ~。
【万田丈二郎】
おいおい、お前んとこの星、地球侵略する気あんのか~?
【ブラウド将軍】
そりゃあるに決まってんだろ!
一応は本気なんだぜ?
【万田丈二郎】
その割にゃあ、地球人の俺と仲良くして楽しくやってんじゃねぇか!
【ブラウド将軍】
そんな事言ってられんのも今のうちだぜ!?
足下にひれ伏させてやっかんな!!
【ブラウド将軍&万田丈二郎】
ガーハッハッハッハッハッハッ!!
2人の笑い声が響き渡る。
会話の内容はものすごいが、仲は良さそうだ。
【マスター】
お客様、申し訳ありませんがお静かに願えますでしょうか…?
【ブラウド将軍】
おっとすまねぇ、また騒いじまったな。
バカ騒ぎをマスターに注意された2人は、大人しく飲み始めた。
【万田丈二郎】
はぁ~、バカ騒ぎ性分の俺からしたら、1分黙るだけでも結構辛ぇんだよなぁ…。
【ブラウド将軍】
だったらよ、今から面白ぇ事やんねぇか?
【万田丈二郎】
面白ぇ事?
お前、一体何やるってんだ?
【ブラウド将軍】
まぁ見てなって。マスター、いつものもう一杯くれ!
マスターが常連であるブラウド将軍のために、特別にブレンドされたカクテルを出す。
そのカクテルは上半分が鮮やかな緋色、下半分が黄金色の美しいグラデーションだった。まさに彼を表したカラーリングとも言えよう。
【万田丈二郎】
へぇ~、お前専用のカクテルか。なかなか綺麗な色してんじゃねぇか。
で、これ飲むのか?
【ブラウド将軍】
ちっちっちっ、それがだな、面白ぇのはこれからなんだよ。
そう言うとブラウド将軍は少し離れた席に座っている、2人組の女性のうちの一人に狙いを定める。
【ブラウド将軍】
いいから黙って見てなって…そりゃっ!
そのまま勢い良く右手を滑らせ、カクテルの入ったグラスをスライドさせた。
グラスは倒れる事なくテーブル上を滑って行き、徐々にスピードを緩め、最終的にはその女性の前で見事にストップした。
すかさずマスターがブラウド将軍の方向を指す。
当のブラウド将軍は女性に向かって親指を立てる。
【女性A】
まぁ…嬉しい!
あの方にお礼をお願いします。
先程の女性からマスター経由でお礼の言葉を受けたブラウド将軍は、嬉しいのか少しテンションが上がっていた。
【万田丈二郎】
はぇ~、こりゃあ粋なやり方だなぁ!知らなかったぜ!!
【ブラウド将軍】
お前も可愛い娘見つけたらやってみろよ!アタックすんだ!!
そう言いながら万田は辺りを見渡し、好みの女性を探す。
【万田丈二郎】
…おいブラウドの野郎、あの娘どう思う?
どうやらすぐに見つかったようだ。万田が目を向けたのは、いかにも清楚そうな美しい黒髪の女性だった。
ブラウド将軍がカクテルをあげた先程の女性の隣に、こちらから見ると奥側に座っている。その分難易度は高そうだ。
【ブラウド将軍】
へぇ、意外だな。
お前の事だからもっと騒がしい娘選ぶかと思ったぜ。
【万田丈二郎】
べーろい(=バカ野郎)!
俺の国じゃな、ああ言った綺麗な身なりの女の子がモテるんだよ。
【ブラウド将軍】
ま、あの娘がお前好みって事か。
よっし、んじゃやってみ…。
ヒュン。2人の目の前を何かが横切った。
グラスが滑って行ったのは確認出来たが、そのグラスに正体不明の何かがくっ付いたような感じだった。
よーく目を凝らしてみる。やがてその横切ったものの正体が判明した。
【ブラウド将軍&万田丈二郎】
ゲェッ!?!?!?!?!?
それはあの鳳凰団の一員・ツバメだった。彼がカウンターの上に寝そべり、グラスと一緒にカウンターの上を滑っていたのだ。
いつからいたのか、そもそも何故単独で行動しているのかは不明である。
しかしこれがオシャレな店の雰囲気に見合わない、と言うか根本的に最悪な光景である事は間違いないだろう。
【ツバメ】
なぁなぁ姉ちゃんよぉ、おいらと一緒にこのカクテル飲まねぇかぁ~~???
その後、万田がロックオンしていた女性の前に止まり、下品にも鼻をほじりながらグラスを手渡そうとする。
そう言いながら、ツバメはニヤニヤ下品な笑いを浮かべてグラスを女性たちに近付ける。さっき鼻をほじった手で。
当然のごとくその場から逃げ出す女性たち。
野郎2人始め、この光景にはマスターも他の客も無論ドン引きだ。
2人の体がブルブル震える。あまりにも失礼極まりない迷惑行為に、怒りを抑え切れないようだった。
【ツバメ】
おいおい待てよぉ、このツバメ様に逆らっても良いと思ってんのかぁ~~?
そう言ってツバメが女性の後を追いかけようとした、その時。
【ブラウド将軍】
てめぇ…ふざけんのもいい加減にしやがれ!!!
【万田丈二郎】
第一、ここはお前みてぇなクソガキが来る所じゃねーーーーー!!!!!!
バゴーーーーーン!!!!!!
叫びと同時に、2人の鉄拳が炸裂した。
ツバメは天井を突き破って吹っ飛ばされ、そこから見える夜空の星へと紛れて行った…。
【万田丈二郎】
ちっきしょ~、あのクソガキには邪魔されるし、結局お目当てのカワイ娘ちゃんには逃げられるし、貴重な時間台無しにされちまうし…ホントツイてねーな。
あの後2人はマスターや客らに平謝りし、壊してしまった店の天井の修復も手伝った。
まぁ悪者を追い払った事で他の者からは心からの拍手が送られたので、結果オーライではあったのだが。
【万田丈二郎】
だな、今度は“胡蝶蘭”って居酒屋行こうぜ!
女将の胡蝶姐さんがめっちゃくちゃ美人でさ、しかも良い人なんだぜ!
【ブラウド将軍】
おっ、良いなそりゃ!
今から行って鳳凰団のクソ野郎共への悪口大会だ!!
2つの人影が駆け寄って来た。
1人はブラウド将軍がカクテルを渡した女性、もう1人はツバメに絡まれた際に逃げ出した、万田がカクテルを渡そうとしていた女性だ。
マスターから店を出た事を聞き、追いかけて来たのだろう。
【ブラウド将軍】
いやいや、いーって事よ!
第一、俺らもあのクソガキ許せなかっただけだしな!
【女性A】
あ…そうだ。
さっきのお話聞いちゃったんですけど、今から私たちもご一緒して良いですか?
突然の展開に、拍子抜けした顔でキョトンとする野郎2人。
【ブラウド将軍】
べ、別に構わんけどよ…。
お前さんたちみてぇな、洒落たべっぴんさんが好きそうな場所じゃねぇぞ?
【万田丈二郎】
今から俺たちが行くのはやかましい居酒屋だぜ?
【女性B】
あ、お構いなく!
一度居酒屋にも行ってみたかったんです!
【女性A】
それにせっかく知り合ったんだし、あなた方と思いっきりお喋りしたくて!
【万田丈二郎】
マジかよ…。へへっ、何か嬉しいねぇ!
【ブラウド将軍】
そこまで言うなら…いっちょ付き合ってやっか!
とまぁこんな経緯で、やかましい野郎共2人は様々な酒の社交界でたちまち人気者になった上、その後さらに何人もの可愛い女の子たちと仲良くなれましたとさ。
おしまい。
【今回の主要以外の登場人物】
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【万田丈二郎(まんだ じょうじろう/Joujirou Manda)】
→ジパング政府直下の銃撃隊・サムライガンナーズの隊長。
隊長と言う役職なだけあり射撃の腕前は百発百中で、狙った獲物は決して逃がさない。
周りからは『万丈(ばんじょう)兄さん』の呼び名で慕われている。
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誕:11月11日
年:20歳・♂
出:ジパング
趣:モデルガン収集
好:おでん(特にちくわ!)
嫌:横文字が一番読みにくい…。
【ブラウド将軍(Captain Bloud)】
→地球侵略のためにやって来た、アラビキ連合軍を率いる将軍。
豪快で強引な性格だが卑怯なやり口は大嫌いで、正々堂々とした正面突破の戦いを好む。
しかし母星からの侵略命令を差し置いて、逆に地球になじんでしまっている模様。
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誕:444月999日
年:38歳・♂
出:アラビキ連合惑星第282号
趣:居酒屋巡り
好:酒(特にワイン、日本酒)
嫌:卑怯な作戦
【女性A】→万田とブラウド将軍がナンパした女性の一人。
明るく活発な性格。
【女性B】→万田とブラウド将軍がナンパした女性の一人。
大人しい黒髪美人。