幻の森の三姉妹・Chapter3
文字数 6,208文字
集落へ戻った一行と三姉妹の目の前には、とんでもない光景が広がっていた。
住民たちの家々はボロボロに壊され、壁の所々に引っかき傷が残っている。普段なら明るい光が差し込んでいるはずの森は薄暗くなっている。
あの美しい景観の集落は丸々変わり果てていたのだ。まさか自分たちがいない間にこんな事態になっていようとは。
それに…。
辺りには赤紫色を帯びた、霧のようなもやのようなものもかかっていた。
明らかに吸い込んで良さそうな色ではない。
一行はバッジ状、三姉妹はペンダント状に加工された魔法の真珠“ブレスパール”を装着する。
これは水中や体に害をなす大気で満たされた空間等で用いられ、装着した者の周りを特殊なバリアで覆う事で、地上と同じ空気環境に出来るアイテムである。
それは良いとして、一行は早速クレス・ビートルの元へ向かう事に。
【戦士】
今、集会所の前で他の戦士たちと戦っています!
【リズ】
あたしたちも加勢して、化け物を追い払ってやる!!
手下の魔物を蹴散らしながら、ようやく集会所に辿り着いた一行と三姉妹と戦士。
そこには傷付き座り込んだクレス・ビートルがいた。そして彼と対立していたのは…。
赤と黒を基調にした、見るからにおぞましい女のクモの化け物だった。
【クレス・ビートル】
ワシとした事が油断してしもうたわい。
マリキータとリズが手当てをする一方、他のメンバーは例のクモ女と対立していた。
【Z・ジェット】
あんたがスパイディーネとか言うオバハンか!?
【マダム・スパイディーネ】
ふん、初対面の女子(おなご)に向かって“オバハン”とは、何とも口の汚い小僧よのう。
【Z・ジェット】
汚くて悪かったな! でもあんたにはこの言葉がピッタリや!!
【マダム・スパイディーネ】
何とでも言うが良い、人間の青二才めが。
そう、わらわこそマダム・スパイディーネ…この森を制するに相応しい者!!
【カロ】
森を治めるに相応しい? ふざけないで下さい!!
【ビーネ】
それより、集落を襲ったのはあなただったんですか!!
【マダム・スパイディーネ】
ふふふ、いかにも…。わらわはこの日を待っておったのじゃ。
【マダム・スパイディーネ】
わらわはそこのジジイに思い知らせてやらねばならぬ。
そやつに加勢すると言うのなら…貴様らもこうじゃ!!!
スパイディーネはそう言うと自分の鋭く尖った脚を、一行と三姉妹目がけて一振りした。
一行と三姉妹は、クレスと共にその攻撃を軽々避ける。
【ファルファーラ】
ついさっきは油断してああなっちゃったけど…。
普段この程度でやられる私たちじゃないわよ!
ファルファーラはスパイディーネを睨み付けながらそう言う。
【マダム・スパイディーネ】
ふん、今のはただの威嚇よ…。次はこうでは済まさぬ。
【ファルファーラ】
これ以上、集落のみんなの怒りと恨みを買ってどうするつもりなの!?
【マダム・スパイディーネ】
怒りと恨みとな…? それはこちらのセリフじゃ!!!
ファルファーラをターゲットに、その後何度も脚を振り回すスパイディーネ。それをかわしながら、ファルファーラは彼女を説得にかかる。
あくまでも平和的に交渉しようとするファルファーラだったが、相手は集落をめちゃくちゃにした犯人。そう簡単には行かないようだ。
その言葉を聞いたファルファーラは一度撤退し、距離を保つ。
妹たちも一行も武器を構え戦闘態勢に入る。
【マダム・スパイディーネ】
くだらん茶番には付き合(お)うてられぬわ。さっさと用を済ませて帰るとしよう。
【マダム・スパイディーネ】
くくく…たわけめ、わらわは無駄な殺生はせぬ。
ここに来る途中も歯向かった者共のヒト成分を奪ったまでじゃ。
【ファルファーラ】
あなた…戦士である私たちまで排除しようとして、一体何が目的なの!?
いい加減答えなさい!!
【マダム・スパイディーネ】
今、わらわには最も欲しい力がある。
それが森を制する力、今その力を持つのが…。
彼女の目がギラリと光る。それはまるで獲物を狙うクモそのものだった。
【マダム・スパイディーネ】
お前じゃ、クレス・ビートル!!!!
次の瞬間、クレス目がけて脚の一本の先から光線が放たれた。
それは三姉妹からヒト成分を奪い取った、あの光線だった。
危険を感じ取ったマリキータがとっさにクレスの体を押しのける。そして…。
代わりに光線をまともに食らった、マリキータの断末魔が集落中に響き渡った。
光線が治まった後、そこに彼女の“ヒトとしての”姿はなかった。
そこにあったのはふよふよと浮遊する魂、そして小さなナナホシテントウだった。
【マダム・スパイディーネ】
ほほほほほ!!!!
マヌケよのう、祖父を守ろうとして自分が犠牲になるとは!!
笑いながら魂を呼び寄せ回収するスパイディーネ。
その魂がマリキータのヒト成分である事は、もはや言うまでもなかった。
【マダム・スパイディーネ】
まぁ良い。
クレス・ビートル、お前のその絶望した顔…良いものを拝ませてもらった!
クレスは孫娘を犠牲にしてしまった事で、絶望した表情でうつむいている。
【マダム・スパイディーネ】
お前のヒト成分は次の機会にとっておこうかのう。三女のヒト成分はもらって行くぞよ。
スパイディーネはクモの巣の網を上から投げかける。もがけばもがく程くっ付いてくる厄介な糸の網だ。
一行とファルファーラとビーネは、たちまち身動きが取れなくなってしまった。
【マダム・スパイディーネ】
三女のヒト成分を返して欲しくば森の危険区域、毒蜘蛛の館まで来てみるが良い!!
【マダム・スパイディーネ】
待てと言われて待つ馬鹿はおらぬわ、ほーっほっほっほっほっほ!!!!!
高笑いしながら、スパイディーネはマリキータのヒト成分を持ったまま森の奥地へ去って行った…。
集会所の中。何とか糸から抜け出した一行と三姉妹は一台のテーブルを囲い、今の状況について話し合っていた。
テーブルの上には葉っぱと共に虫かごに入れられた、今はただのテントウムシと化してしまったマリキータがいる。
【クレス・ビートル】
ワシとした事が…マリキータをも犠牲にしてしまうとは…本当にすまん。
傷が癒えたクレスは、相変わらず先程の出来事を悔いているようだ。ファルファーラとビーネは慰める。
【ファルファーラ】
いいえ、決しておじい様のせいではありませんわ!
【リズ】
キーちゃんもクレスおじいさんも十分頑張ったと思うよ!
【Z・ジェット】
せや!落ち込んどってもしゃーない!
【クレス・ビートル】
…ならば、ワシも同行させてくれんか。
【パト】
そうですよ、まだやっとケガが治ったばっかりなのに!
【クレス・ビートル】
いいや、元はと言えばワシのせいで、このような事態になってしまったのだ。
お主たちにばかり任せっきりには出来ん。
【カロ】
そうですか…分かりました、しかし決してご無理はなさらないで下さい。
【ファルファーラ】
それなら、私も一緒に行くわ。
ケガが癒えたばかりのおじい様一人では危険ですもの。
【クレス・ビートル】
ふっ…ファリーよ、ワシはまだまだ老いぼれではないぞ。
【ファルファーラ】
それは承知の上ですわ。
しかしおじい様と同じく、マリキータは姉である私たちを助けてくれたんですもの。
助けられっぱなしでは長女失格です。
【クレス・ビートル】
…そうか、お前も立派になったものだ。ならば同行を頼もう。
【リズ】
よーし、森最強の2人が加われば百人力だね!!
【ファルファーラ】
ええ! ビーネ、戦士のみんなと一緒に集落を頼んだわよ。
【ファルファーラ】
キーちゃん、ここで良い子で待っててね。必ず元の姿に戻してあげるから。
出かけ際、ファルファーラは虫かごにいるマリキータにそうささやき、微笑みかける。
一行とファルファーラ、そしてクレスは、森の危険区域へ向かうべく動き出した。
クレス曰く危険区域に入るためには、クレス含めた老戦士チームが交代で持つお守りが必要だと言う。
いわばそのお守りが通行証になる訳だ。これがなければ危険区域に入ろうとしても不思議な次元の歪みにより、反対側にすり抜けてしまう。
今はそのチームの一人であるスタンと言う人物が、そのお守りを持っているらしい。彼含めた老戦士チームのメンバーは現在、中央広場の地下に存在する、事件の対策本部で待機中との事だった。
そこは特に秘密と言う訳でもなく、森の住民であれば誰でも知っていた。もっとも、中に入れるのは老戦士チームのメンバーとファルファーラだけであったが。集会所から広場まではそう遠くないが、急ぎの場合少し走らなければならない距離ではあった。
途中スパイディーネの部下であろう子グモの魔物たちが襲撃して来たが、こちらはワールドを守る戦士+森の最強戦士たち。こんなザコ程度で手こずるはずがない。
例のごとくパトとリズは刀で、ジェットは拳で、カロは光弾の銃撃で、クモたちをバンバン倒して行った。
【クレス・ビートル】
貴様らなんぞ、なぎ払ってくれる!!
【ファルファーラ】
受けてみなさい、“バタフライ・エフェクト”!!
さらにそこへ、クレスはヘラクレスオオカブトのツノを模した剣のような武器でなぎ払い突風を巻き起こし追い討ちをかける。
ファルファーラは扇を使って小さくも高い威力を誇る竜巻を起こし、クモたちを蹴散らして行った。
【ファルファーラ】
ごめんなさい、今はあなたたちに構ってる暇はないの!
一行は再び広場へ向けて走り出す。
その一方で走っている最中、クレスはかつて集落で起きた“あの事件”を思い返していた…。
=Chapter4へ続く=
【今回の主要以外の登場人物】
====================
【マリキータ(Mariquita)】
→エントマーズ三姉妹の三女でテントウムシの虫人。愛称は『キーちゃん』。
明るく活発なボクっ娘で好奇心旺盛な性格をしており、それ故か外見も現代っ子な感じ。
今はまだ小さいが、いつか自分も姉たちのように強く美しくなりたいと思っている。
敵にダメージを与えられる謎の液体を入れた水鉄砲(必要な時は補助魔法もプラス)を駆使して戦う。
====================
誕:5月28日
年:13歳・♀
出:エントマーズの森
趣:フォトコレクション(主に自撮り)
好:トマト
嫌:パクチー
【ビーネ(Biene)】
→エントマーズ三姉妹の次女でハチ(ミツバチ)の虫人。思いやりのある優しい心の持ち主。
しかし流石はハチなだけあり、戦闘になると意外にも強く頼りになる存在。
敵に果敢に立ち向かい、大切なものは恐れずとことん守り抜く。
武器であるランスに自身の毒をまとって戦う。
クレイグにヒト成分を奪われミツバチに変えられていたが、マリキータと一行の活躍により無事救出された。
====================
誕:7月6日
年:16歳・♀
出:エントマーズの森
趣:家庭菜園
好:ハニーレモネード
嫌:スナック菓子
【ファルファーラ(Farfalla)】→エントマーズ三姉妹の長女でチョウの虫人。大人の色気を放つ美女。愛称は『ファリー』。
非常に他人の面倒見が良く、森の長である祖父に代わって虫人たちを率いたりも。そのため彼女が次期リーダーになるであろうともっぱらの噂。
ミーガンにヒト成分を奪われチョウチョに変えられていたが、妹2人と一行の活躍により無事救出された。
====================
誕:6月19日
年:19歳・♀
出:エントマーズの森
趣:万華鏡コレクション
好:ブルーベリータルト
嫌:デリカシーのない人
【クレス・ビートル(Cules Beetle)】
→エントマーズ三姉妹の血の繋がらない祖父。カブトムシ(ヘラクレスオオカブト)とクワガタのハーフ虫人で、森で暮らす虫人族の長を務める。
長きに渡り森を守って来た戦士で、身寄りのない三姉妹を引き取り男手一つで育て上げた。厳しくも優しい素敵なおじいちゃん。
三姉妹には『自分の身は自分で守れるように』と、簡単な戦闘を教えている。
普段から体に向かって右側をマントで隠しているのは、若い頃に左腕を戦いで失ったため。
====================
誕:1月21日
年:年齢不詳・♂
出:エントマーズの森
趣:外界の図書館で歴史書を読む事
好:孫娘たち。みんな優しい子に育ったものじゃ。
嫌:悪人、戦争
【マダム・スパイディーネ(Madam Spideene)】
→森の深部(危険区域)に不気味な館を構える、セアカゴケグモの虫人。
永遠の若さと美しさ、そして強い魔力を手に入れるため、かつて多くの虫人族の魂から『ヒト成分』を奪い取り、自らの精力に充てていた。
現在はエントマーズの森で暮らす虫人たちのヒト成分を全て奪い、森全域の支配者になると言う恐ろしい野望を持つ。
蚊の虫人・クレイグと蝿の虫人・ミーガン、子グモの軍隊を部下に従えている。
ちなみにアイコンの画像は人間体としての姿で、戦闘時はクモの化け物に変身する(挿入イラスト参照)。
====================
誕:??
年:年齢不詳・♀
出:エントマーズの森(危険区域内)
趣:姿見で自分を眺める事
好:自分の若さと美しさ
嫌:醜い物全て、目的(野望)を邪魔する奴ら
【マダム・スパイディーネ(クモのすがた)】→上記のマダム・スパイディーネが本気を出して変身した姿。
両腕がクモの脚の一部となっており、さらに背中からも脚が生えた、おぞましい化け物になっている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)