幻の森の三姉妹・Final Chapter
文字数 4,750文字
スパイディーネが倒されたからか、いつの間にか館のみならず危険区域一帯が美しい静かな森へと変化していた。
もうここに入った時の気持ち悪い空気、そして禍々しい面影はどこにもない。
そしてヒト成分の大群は、虫人たちの集落の方角へ向かって飛んで行く。
【クレス・ビートル】
これでこの森の平和をおびやかす者もおるまい。
だが、彼女のように道を踏み外してしまう者が現れない可能性も、決してないとは言えんじゃろう…。
その時は頼んだぞ、ファリー。ワシも先は長くないからな。
【ファルファーラ】
ふふふ、まだお元気ではありませんか。縁起でもない事おっしゃらないで下さいな。
…でもおじい様のその教え、妹たちと共に深く心に刻み込んでおきますわ。
ヒト成分を追って集落に帰って来ると、そこはほぼ元通りになっていた。
戦士始め住民たちが協力して、建物その他の修復に勤しんでいるのだ。
修復に参加していたビーネと住民たちが一行を出迎える。
【ファルファーラ】
ただいま。みんな、心配かけてごめんなさいね。
周りを見ると、そこらの虫たちにヒト成分の人魂が入り込み、どんどん元の虫人たちに戻って行っていた。
再び人間の姿で地を踏む事が出来、嬉しさのあまりはしゃぐ者、泣き出す者、家族と再会し喜ぶ者もいる。
【クレス・ビートル】
ああ、みんなのヒト成分も全て解放したさ。
ところでビーネ、マリキータはどこじゃ?
【クレス・ビートル】
ならばすぐに取りに行って欲しい。
まもなくマリキータのヒト成分がここに戻って来るはずじゃ。
しばらくして、ビーネが虫かごを抱えて戻って来た。
虫かごの中には葉っぱが数枚入れられ、その一枚にナナホシテントウがくっ付いている。ヒト成分を奪われたマリキータだ。
【リズ】
良かった!
キーちゃん、まだ元気みたいだね!
【ファルファーラ】
早く取り出してあげましょう、虫かごの中じゃ狭過ぎるわ。
マリキータの乗った葉っぱを取り出すや否や、彼女は何かに気付いたかの如く羽を広げ飛び立つ。
彼女が飛んで行く先に赤く輝く人魂があった。双方は引き寄せられるかのように近付いて行く。
ビカッッッッ!!!!!
双方が一体化したと同時に、強い光を放った。
そして…。
【パト&リズ&ファルファーラ&ビーネ】
キーちゃん!!
そこには元通りになったマリキータが座り込んでいた。
ついにヒト成分を取り戻したのだ。
【マリキータ】
!! お姉ちゃんたち!おじいちゃん!みんな!!
姉たちはこちらに気付いて駆け寄って来たマリキータを抱きとめた。
【マリキータ】
ありがとう!ファリーお姉ちゃん、ビーネお姉ちゃん!!
しばらくの抱擁の後、彼女は振り返り祖父やメイン勢、住民たちにもお礼を言う。
【マリキータ】
おじいちゃん、集落のみんな、メイン勢のみんなもありがとう!!
ボク、元に戻れたよ!!
【Z・ジェット】
やっとオレたち、家に帰れるんやなぁ〜。
さて、森の存亡に関わる事件も解決し、残す課題はあと一つ。
【クレス・ビートル】
約束通り、キミたちを森から出してやるとしよう。
しかしそのためには少し準備が必要だ、それまでしばらく休んでなさい。
そう言うとマントを翻し、公民館の方へ向かって歩いて行く。
【ファルファーラ】
短かったけど楽しかったわ、ありがとう。
それぞれ一行にお礼の言葉を残すと、三姉妹もクレスに続く形で公民館の方へ消えて行った。
その頃、元危険区域の一角にて。
そこにはクレイグとミーガンが、虫人の姿で倒れていた。
本来ただの虫だったはずだが…?
どうやらスパイディーネの手下だった記憶は、ただの蚊とハエに戻っていた時に抹消されたようだ。
流石は記憶が数秒程しか持たない虫なだけはある。
しかし今は半分人間。記憶力は人間種族と同じになっていた。
【クレイグ】
とりあえず、どこか他に人がいないか探しましょう。
マリキータの呼ぶ声で、住民からの感謝のもてなしを楽しんでいたメイン勢一行は振り向く。
【ビーネ】
久しぶりに着てみましたけど…似合いますか?
そこには華やかで美しい衣装に身を包んだ、三姉妹の姿があった。
化粧もバッチリ施されており、より美しさが増している。
【Z・ジェット】
おぉ〜、めっちゃべっぴんさんやんけ!
【カロ】
まぁ…何ともお綺麗で!
いつものお姿も素敵ですが、まるで見違えるようです!
【ファルファーラ】
うふふ、そう言ってくれると俄然やる気が出るわね。
【リズ】
キーちゃん、超可愛い!!
お姉さんたちもすっごく綺麗!!
クレスと三姉妹は、広場に設置されたステージへと上がって行った。真ん中には豪華な壺が置かれ、そこから炎が燃え盛っている。
住民の一人が最前列に並べられた椅子に、メイン勢一行を座らせた。
【クレス・ビートル】
我らがエントマーズの森の住民たちよ、聞くのじゃ!!
ここに外部より迷い込み、さらには森の危機を救ってくれた恩人たちがいる!!
これより彼らを森との共存に相応しい一員として、正式に認める儀式を行う!!
ステージに上がったクレスが声を張り上げ、儀式の開始を告げる。
最初と話が違う事に、一行は一瞬戸惑う。が、その動揺はすぐに消え去った。
【住民A】
大丈夫だ。
この儀式を受けた者は、森の住民じゃなくても自由に行き来出来るようになるんだ!
【住民B】
私たちにとってあなたたちは、クレス様や三姉妹の皆さんと一緒に森を救った恩人だからね!
助けてくれて本当にありがとう!!
【住民C】
本来森から出る儀式は一方通行で、一度出ると集落へは入れなくなる。
でも今からやる儀式はクレス様が直々に認められた者にしか行われないんだ。
ありがたく思えよ。
【リズ】
いつでもクレスおじいさんやキーちゃんたちに会えるって事!?
【カロ】
これこれ。
儀式が始まるんですから、お静かになさいませんと。
注意しながらも、ジェットとカロ、メトロとノームは嬉しそうな表情だ。
一行はこれから始まる儀式を、じっくり鑑賞する事にした。
後ろに控える演奏者たちが、静かで美しい音楽を奏でる。
それに合わせ、三姉妹が踊り始めた。
彼女たちの舞は力強くもしなやかで、大変美しかった。まるで羽衣をまとった女神のようだ。
一行も思わず魅了され、ついついにその動きに釘付けになってしまう。
しばらくその時間が続いた。
一行もクレスも住民たちも、目を逸らす事なくその踊りを眺めるのだった。
【クレス・ビートル】
いざ別れの時となると…名残惜しいな。
森の入り口とおぼしき場所。
無事儀式を終えたメイン勢一行は、クレスと三姉妹、そして住民たちと向かい合って立っていた。
お互い別れの時が来たのだ。
儀式用の衣装のままの三姉妹がそれぞれ別れを告げる。
【Z・ジェット】
次来た時はクレスはんに稽古つけてもらいたいもんやなぁ!
【クレス・ビートル】
ふむ。キミの腕前、ぜひ見せてもらおうではないか。
【ビーネ】
でしたら私とどちらが強いか、私からもお手合わせ願います!
【カロ】
ファリーさん!
機会がありましたら、この森を詳しく案内して頂きたいです!
【ファルファーラ】
えぇ、もちろん大歓迎よ。
この森にはまだまだ興味深い謎がたくさんあるわ、一緒に解き明かしましょう。
それぞれの会話の後、クレスは特定の方向を指差した。
【クレス・ビートル】
この道をまっすぐ進めば、元来たハイキングコースに出られる。
その後は難しくないはず、気を付けるのじゃぞ。
住民たちにさよならしながら出口へ向かう一行。
そして…。
一瞬まばゆい光に包まれた。
気が付くと、見覚えのある道中に立っていた。
ただ迷った時とは違い、日が傾き始めていたが。辺りにはオレンジ色の光が差し込んでいた。
間違いない。ここは森の中にある公園のハイキングコースだ。
後ろを振り向くが、通って来たと思っていた場所に広がっていたのはただの草木。
道もなく、まるで壁のようだった。
一行が出たと同時に、集落への出入り口は閉じてしまったようだ。
【Z・ジェット】
あの森、オレらならいつでも入れる言うてたよな?
【カロ】
はい、ただハッキリした目的意識がないと入れないと思いますよ。
【パト】
今度は遊びに行くとか、そう言う目的があれば行けるかな?
【リズ】
良いね! みんなにお土産いっぱい持って遊びに行こうよ!
【パト】
あ、でもあの森って結界張られてるんでしょ?
連絡とか出来るのかなぁ?
【リズ】
大丈夫!キーちゃんと連絡先交換しといたから!
電波とかは普通に入るってさ!
【Z・ジェット】
何や、もうそんな仲良くなっとったんか。
そんな会話をしている間に、大幅に時間が経っていた。
先程よりもだいぶ日が沈み始めている。
【パト】
そろそろ帰ろう、パパとママが心配しちゃうよ。
【カロ】
そうですね。疲れも溜まってますし、まっすぐ帰りましょう。
【Z・ジェット】
明日の修行に備えて今夜は早めに寝るわ。
一行は長いようで短かった大冒険の思い出を胸に、帰路に着くのであった。
おしまい。
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